第278話 その手足はどうしたのぢゃ
エドウ国は代々、徳山将軍家が治めているというが、現在はその三十六代目。
それが徳山家隆だった。
どんな姿をしているのかは、簾で遮られているため分からない。
ただ、どうやら爺さんは過去に会ったことがあるようだ。
家隆は前将軍の八番目の子供で、爺さんが剣術指南役をしていた頃、少し剣の指導をしたことがあるのだという。
「そなたほどの剣士が、指南役を辞めることになったのは大きな損失ぢゃった。どうぢゃ? 今からでも遅くはあるまい。また指南役を務めてみてはどうぢゃ?」
「……家隆様、儂はすでに隠遁の身。そのお言葉は大変ありがたいが、今さらそのような重役はこの老体には余り過ぎるのじゃ。それに……この通り、手足が半分になってしまいましての」
「なに? そなた、その手足はどうしたのぢゃ……?」
「はい、実はこの度、急にお訪ねしたことと関連するのじゃが……」
それから爺さんは故郷の村の近くに八岐大蛇が出現し、命懸けで討伐を試みたものの返り討ちに遭って手足を奪われたこと。
しかし弟子のカレンが連れてきた西方の戦士たちのお陰で、無事に討伐することができたことを話してみせた。
「八岐大蛇ぢゃと!? 神話に登場する凶悪な魔物ではないか!? そんなものが現れたなど、俄かには信じられぬが……それ以上に、たった数人で討伐してみせたなど、もっと信じられぬぞ……?」
やはり簡単には信じてもらえなかったので、亜空間に保管して持ってきた八岐大蛇の死体を取り出す。
もちろんすべて出すと大き過ぎるので、首の一部だけだ。
「なんとっ!?」
「間違いなく龍の頭でござる」
「しかし一体どこから……?」
控えていた家臣たちが大いにざわつく。
「この首が他に七本あって、大きな身体もあるよ。必要なら後でどこか広い場所に全部出しておくね」
「こんな巨大な頭部が、他に七つもあるぢゃと……? まさしく伝説に聞く八岐大蛇ぢゃ……」
将軍も驚いている。
「西方の戦士たちよ、よくぞ討伐してくれたのぢゃ。このような化け物が暴れ回ったとなれば、我が国に甚大な被害をもたらしたことぢゃろう。……ところで何なのぢゃ、そなたは? 赤子が普通に喋っておるが……」
「僕は西方で作られたカラクリ人形だよ!」
『……本当にカラクリ人形で押し通すつもりですか、マスター』
爺さんは「そんなはずがないじゃろう」という顔をしているが、気にしない。
「カラクリ人形ぢゃと? いや、確かに我が国では人間のように高度な会話ができる人形の開発が進められておるが、さすがにそこまで高性能なものは未だ実現できておらぬぞ」
「西方特有の魔法も使っているからね。魔導人形って言った方がいいかも」
「なんと、西方の文明はそこまで進んでおるのか……」
「でも、この国のカラクリもすごいよね。一体誰がどうやって作っているの?」
詳しく聞いてみると、どうやらこの国には、ひたすらカラクリの開発に心血を注ぎ続けている一族がいるらしい。
「平賀一族といって、何百年も前から代々カラクリの開発をしているのぢゃ」
かつては怪しいものを作り出す奇人一族として迫害されていたこともあったそうだが、今では国中から若者が弟子入りのために集まり、どんどん高性能なカラクリが生み出され、その技術を利用した日用品が当たり前のように使われているという。
幕府も大々的に彼らをバックアップしているそうだ。
八岐大蛇を討伐したことで色々と褒賞を貰えることになったが、それよりそのカラクリ開発の現場を見せてほしいと言ってみたら、あっさり許可が出た。
「そうぢゃ、柳生権蔵よ、お主も一緒に行ってみるのぢゃ」
「儂も?」
「うむ。今つけておるその義肢、見たところただの器具ぢゃろう? 恐らく今なら、本物の手足のように動かせるカラクリの義肢くらい、作れるはずぢゃ。余があらかじめ電信を送っておくから、作ってもらってくればよい」
どうやら離れた場所にいる相手と連絡が取れるカラクリがあるらしい。
魔法も使わずにそんな真似ができるなんて、一体どんな仕組みなのか、物凄く興味をそそられるな。
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