表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

273/324

第272話 あれがその龍か

 カレンの剣の先生である爺さんは、有無を言わさぬ口調で言う。


「早くこの村を去るのじゃ! 無論、貴様らもじゃぞ! 変な気は起こすなよ!」

「せ、先生はどうするでござる?」

「どのみち儂は老い先短い。最後に一か八か、やつに我が剣の秘儀をお見舞いしてやるつもりじゃ」

「そんな身体ででござるか!?」


 そのために片腕と片足を失ってもまだこの村に残っているらしい。


 と、そのときだ。

 山の方から、オオオオオオオオオオオッ、という凄まじい雄叫びが響いてきた。


『マスター、山の頂上付近をご覧ください』

「っ……あれがその龍か」


 山の方に視線をやると、一体の龍がその長い体躯を躍らせながら、斜面を下りこの集落へと向かってきていた。


「ちぃっ、このタイミングで動き出しおったか!? おぬしら、早く逃げるのじゃ!」


 爺さんが叫ぶ。

 しかしカレンは首を左右に振って、


「そうはいかぬでござる! 先生を置いて逃げるなど、サムライとしてあるまじき行為はできぬ!」

「この馬鹿弟子が……っ! おい、こやつを無理やりにでも連れていくのじゃ!」


 そうこうしているうちに、龍は木々を薙ぎ倒しながら猛スピードで近づいてくる。

 全長二十メートル、いや、三十メートルはあるだろうか。


「かああああああああああっ!」


 老人の全身から猛烈な〝気〟が膨れ上がった。

 あるいは闘気とも呼ばれているものだが、腰に提げていた刀を抜くと、それが刀身に収束していく。


 一方で爺さんの頬がどんどんこけていき、顔や腕に血管が浮かび上がる。


「儂が渾身の一撃をやつに見舞う! その隙にとっとと逃げるのじゃ!」


 どうやら爺さんの秘儀というのは、生命エネルギーである闘気をすべて刀に投じて繰り出すものらしい。


「ちょっと、あんた死ぬ気!?」


 爺さんの覚悟を察したアンジェが叫ぶ。

 直後、爺さんが片足で地面を蹴った。


 片足とは思えない速度で一直線に迫りくる龍へと突っ込んでいく。


「柳生心念流秘儀・絶念」


 次の瞬間、爺さんの刀が龍の頭部に叩きつけられていた。


「~~~~~~~~~ッッッ!?」


 硬い鱗ごと斬り裂かれたのか、龍の額から血が間欠泉のごとく噴き出し、地上へと降り注ぐ。

 一方、爺さんの刀は衝撃に耐え切れなかったようで、粉々に砕け散っていた。


「先生っ!?」


 爺さんの身体は宙を舞い、地面へと落ちてくる。

 意識を喪失してしまったようで、まるで身体に力が入っていない。


「よっと」


 俺は魔力を伸ばして爺さんの身体を受け止めた。

 そのままこちらへ連れ戻す。


「先生っ、大丈夫でござるか!?」

「うん、まだギリギリ生きてるよ。アンジェお姉ちゃん」

「任せて!」


 爺さんの症状は完全に闘気の枯渇だ。

 アンジェは以前、ゴリティーアが同様の状態に陥ったとき、自分の闘気を分け与えて回復させたことがあるので、彼女に任せれば大丈夫だろう。


「さすが先生でござる! あの魔物を一撃で倒してしまうなんて!」


 龍は激痛で悶えた後、地面に激突し、動かなくなっていた。


「いや、そう判断するのはまだ早そうだよ、サムライのお姉ちゃん」


 と、まさにそのとき、龍が再びその身を起こした。


「ん、まだ生きてた」

「先生の秘儀でも倒しきれなかったでござるか!?」


 龍の額はぱっくり割れ、中の頭蓋まで見えていたが、それでも瞳に憤怒の炎を燃やしながら咆哮を轟かせる。


「オアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ダメージは負ったようだが、まだまだ元気だな。


 爺さんのほとんど捨て身の攻撃も、あまり有効ではなかったようだ。

 まぁ、もし腕と足が健在だったら分からなかったが。


「こんな化け物、一体どうやって倒せばいいでござるか……?」


 あんなに意気揚々と討伐を宣言していたカレンだが、今や完全に及び腰だ。

 結局、爺さんの言った通りになってしまった感じだが、


「サムライのお姉ちゃん、心配は要らないよ」

「え?」

「今のお姉ちゃんならきっと倒せる。ダメそうなら僕たちがサポートするから、試しに戦ってみたらいいと思うよ」


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ