第269話 解放した方がいいよ
魔導飛空艇の一室で、俺はサムライ少女に魔力回路の治療を施そうとしていた。
ついに露わになった彼女の爆乳をじっくり凝視しつつ、優しく訴える。
「恥ずかしがる必要はないよ。カラクリ人形の僕以外、部屋には誰もいないからね」
「言われてみればそうでござるが……しかしなぜでござろう? 先ほどから全身の怖気が止まらぬのは……」
「気のせいだよ、気のせい」
俺はカレンの魔力回路を診る。
「ふむふむ、特にこの辺りとこの辺りがよくないね。じゃあ、軽く触れるよ」
魔力を指先に集中し、艶やかな肌に触れた。
「はうんっ!? な、何でござるか、今のは!?」
「気にしないで。ちょっとした治療の副反応だから」
「いや気にするなと言われてもあんっ!?」
「大丈夫大丈夫。さあ、力を抜いて」
「ぁ~~~~っ!?」
治療は小一時間ほどで終わった。
「はぁはぁはぁ……ほ、本当に、こんなことで強くなれるでござるか……?」
全身汗だくで、火照った顔で呼吸を荒くするカレン。
「うん、ばっちりだよ。ただ一つだけ、注意事項があるんだけど」
「注意事項でござるか?」
「ちょっとしたことだよ。サムライのお姉ちゃん、いつも胸にサラシを巻いてるでしょ? あれ、実はあまりよくないんだよね。魔力の循環を妨げちゃうから」
『マスター、息を吐くように嘘をつくのはおやめください』
リントヴルムがジト目で指摘してくるが、もちろん俺はスルーする。
「そうなのでござるか……?」
「そうなの! だからあれは外しておいた方がいいよ、うん!」
「だが先生が……」
「大丈夫! お姉ちゃんほどの腕前なら、そんなに関係ないからさ! むしろ窮屈でちょっと苦しかったでしょ? 解放した方がいいよ!」
「うむ、確かに最近また大きくなったせいか、締め付けが気になっていたが……」
カレンはそのまま着物を身に着ける。
やったぜ!
俺はついにあの憎きサラシを排除することに成功した。
これで抱っこしてもらえさえすれば、いつでもあの胸を堪能できるというわけだ。
「さて、それじゃあ早速、治療の効果を試してみようよ」
「ここ、先ほどの峠でござらぬか?」
「うん、せっかくだから実戦形式がいいかなって」
「だ、大丈夫でござるか……? まだ実感がないでござるが……」
「ん、間違いない。師匠を信じるべき」
「師匠? ……本当にカラクリ人形なのでござるよな……?」
「ソウダヨ?」
俺たちは再び先ほど鵺を討伐した峠道に来ていた。
実はこの峠では、複数の鵺の目撃情報があったのだ。
同じ個体という可能性もあるが、その数の多さから、少なくとも二体以上いるのではないかと推測されていた。
「さっき索敵したとき、他にもそれっぽい反応がいくつかあったんだ。ちょっと距離があるけど。こっちだよ」
例のごとく峠を逸れて森の奥へ。
先ほどと違って少し陽が落ちかけているので、鬱蒼とした森の中はかなり暗い。
「この時間帯に山に立ち入るのは本来、自殺行為でござるが……」
カレンが少し不安そうにしているが、気にせず進んでいくと、
「いたよ。鵺だ」
「……またいとも簡単に見つけてしまったでござる」
「サムライのお姉ちゃん、リベンジだよ」
「だ、大丈夫でござろうか……」
いきなり実践形式で治療の効果を確かめることになり、カレンは少し戸惑ってはいるが、それでもサムライらしく覚悟を決めると、刀を抜いた。
「行くでござる!」
地面を蹴り、鵺に躍りかかってくる。
すぐに気配を察したのか、鵺の猿顔が彼女を見た。
「キイイイイイイイイッ!!」
奇声をあげた鵺は、周囲の闇を操作。
蠢く闇がカレンに迫る。
だがその前に一瞬にして彼我の距離を詰めていたカレンの刀が、鵺の胴体を輪切りにしていた。
「……え?」
驚いたのはカレンだ。
自分の予想よりも、敏捷力と攻撃力が遥かに高まっていたのだろう。
無論、魔力回路が整ったことで身体強化の出力が大幅に向上した結果だ。
「今、迅雷を使ってはおらぬでござるよな……?」
「ほらね、サムライのお姉ちゃん、効果絶大だったでしょ?」
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