第27話 死体が消えていく
悲鳴が聞こえて、俺は森の中へと降りてきた。
どうやらオークの群れにやられてしまったらしい。
地面に転がって痛そうに呻いていたのは、二十代前半くらいの男女からなる四人組の冒険者たちだった。
「お兄ちゃんたち、大丈夫?」
「「「赤子が喋ったあああああああっ!?」」」
声をかけると、大声で驚かれる。
どうやら怪我の程度はそれほど酷くないようだ。
「ブヒヒィッ!」
空からの乱入者に気づいて、近くにいたハイオークが警戒するように鼻を鳴らしている。
並のオークと違って知能が高いので、ただの人間の赤子ではないと感づいているのかもしれない。
それでも俺が動かないのを見るや、ゆっくりと接近してきた。
「ちょっ、危ねぇぞ!? 逃げろ!」
パァンッ!!
俺が放った魔力の塊が、ハイオークの下顎から脳天にかけてを貫く。
「……?」
何が起こったのか分からないという顔のまま、ハイオークの目から光が消えた。
ドシャリ、と巨体が大きな音を立てて崩れ落ちる。
「「「……え?」」」
ぽかんと口を開ける冒険者たち。
一方で群れのボスをやられたオークたちは、怒りを露わに躍りかかってきた。
「「「ひいいいいっ!?」」」
「防御結界」
動けない冒険者たちを結界で護りつつ、俺はオークの群れを迎え撃った。
恐らく一分もかからなかっただろう。
十体以上いたオークたちの頭を例のごとく撃ち抜いて、全滅させていた。
「……な、何が起こったんだ?」
「ま、魔力よ……多分、純粋な魔力の塊を放出して、それで頭を……」
「た、確かに、額に穴が開いているけれど……そんな真似、できるものなのかい……?」
「普通は無理よ……あんなに小さく魔力を絞るだけでも難しいし……威力だって……わたしだったら、せいぜい柔らかい布を貫けるくらい……」
「ていうか、赤ちゃん……ですよね……?」
俺は彼らの元まで歩いていくと、治癒魔法を使った。
「か、身体が……」
「治癒魔法まで使えるの!?」
驚きながら立ち上がる彼らへ、俺は名乗った。
「僕はレウス。Bランクの新人冒険者だよ」
「Bランクで新人……?」
「意味が分からないんだけど……」
「そもそもこんな赤子が冒険者という時点で意味が分からない……」
「肌がすべすべて柔らかそうです……」
剣士の青年が恐る恐る礼を言ってくる。
「と、とにかく助かったぜ。助けてくれなければ、今頃俺たちは確実に全滅してただろう。ありがとう」
「気にしないでいいよ。それよりこの辺りは群れ単位のオークが多いから、気を付けてね」
「あ、ああ。だが、これだけ大きな群れに遭遇するとは思ってなかったぜ。それにハイオークまでいるなんて……。幾らオークの多い森と言っても、ハイオークは滅多にいないはずなんだが……俺たちの運が悪かっただけかもしれねぇけどよ」
「ハイオークならさっきもいたよ?」
「ほ、本当か?」
いずれにしても彼らの実力では、この森の深い場所は危険だろう。
本人たちもそれを痛感したようで、すぐにでも引き返すつもりらしい。
「この大量のオークの素材だが、もちろん君が倒したんだから君のものだ。だけど、これだけの数を解体し、運搬するのはきっと難しいだろう」
弓士らしき青年が提案してくる。
「だからよかったら手伝わせてもらえないかい? 命を救ってもらったせめてものお礼として」
「あ、その必要はないよ。ほら」
俺はオークの死体をひょいひょいと亜空間の中へ突っ込んでいった。
「「「死体が消えていく!?」」」
「魔法で作った亜空間の中に保存しているんだ。空間内は時間が経過しないから、腐る心配もないし、見ての通り持ち運びも楽ちんだよ」
「あ、亜空間を作り出すって……それって、もしかして時空魔法の一種……? こ、古代魔法じゃないの! 使える人、初めて見たんだけど!?」
時空魔法は確かにそれなりに高度な魔法だ。
前世の頃も、人間で使っている奴は数えるほどしかいなかったっけ。
魔族とかだともうちょっといたけどな。
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