第267話 邪道でござる
「キイイイイイイイイイイイイッ!!」
奇声と共に鵺が襲い掛かってくる。
「ここは拙者に任せるでござる! 一千万圓分の働きをせねばならぬからな!」
前に出たのはカレンだ。
「鵺は神出鬼没なだけでなく、戦闘能力も高い。過去に幾多の腕に覚えのあるサムライたちが挑んで、しっぺ返しを喰らっているでござるよ。だが……」
鵺がその前脚を振るい、鋭い爪でカレンを斬り裂こうとする。
しかしそのときにはすでに、その場に彼女の姿はなかった。
「ッ!?」
驚く鵺の頭上だ。
「柳生心念流・滝落」
猿の頭部にカレンの刀が叩きつけられる。
その衝撃に鵺の巨体が顔から地面にひっくり返った。
「あの娘、やっぱり強いわね。一時的にせよ、ファナと互角にやり合ってたくらいだから当然だけど」
「ん、東方の剣士も侮れない」
アンジェとファナが感心する中、カレンは地面に着地し、
「強いと聞いていたが……思っていたほどではなかったでござるな」
「サムライのお姉ちゃん、油断大敵だよ」
「む?」
直後、闇が蠢いた。
周囲から集まってきた〝ぬめり〟のある闇が、カレンの身体に纏わりついていく。
「っ……身体がっ……動けぬでござる!?」
「闇に身を潜めるだけじゃなくて、闇を操ることもできるんだね」
鵺が立ち上がる。
カレンの斬撃で頭部が思い切り凹んでいたが、どうやらこの程度では死なないらしい。
「シャアアアアアッ!」
さらに尾の蛇が身体を伸ばし、身動きを封じられたカレンに襲い掛かる。
ザシュッ!
蛇の牙がカレンに突き立てられる前に、胴体を斬り飛ばされていた。
「ん」
斬ったのはファナが放った風の刃だ。
同時に彼女自身は、鵺の猿頭の目の前まで跳躍していて、
ザンッ!!
首をあっさり斬り飛ばした。
猿の頭が宙を舞い、地面に落下する。
「……しぶとい魔物だね」
だが鵺はそれでもまだ死んではいなかった。
頭部を失いながらも、逃走しようと森の奥に向かって走り出したのだ。
しかも濃厚な闇がその身を覆い尽くしていく。
追っ手を撒くため、闇に身を潜めようとしているのだろう。
「無駄よ」
そんな鵺の目の前に巨大な土の壁が出現した。
鵺は思い切りそれに激突する。
「逃げられるとでも思ってるのかしら?」
土壁を生み出したのはアンジェだ。
何が起こったのか分からず混乱している鵺に、彼女は近づいていくと、
「頭を失っても死なないなら……どこまで殴り続けたら死ぬのかしらね」
「~~~~~~ッ!?」
結論から言うと、鵺はアンジェの拳の連打を浴びて割とあっさり死んだ。
「……拙者、意気揚々と前に出ておきながら、完全に不覚を取ってしまったでござる」
カレンは悔しそうだ。
「それにしても、アンジェ殿も相当な強さでござるな……。しかも魔法まで……」
「サムライのお姉ちゃんも魔法を使ってみたら? 望むなら教えてあげるけど」
東方で魔法の存在は一般的ではないが、決して魔法を使えないというわけではないはずだ。
カレンも訓練すれば使えるようになるだろう。
しかし彼女は首を左右に振る。
「いや、拙者はサムライでござる。確かに魔法は強力かもしれぬが、剣を命とするサムライにとって、剣以外のものに頼るのは邪道でござる」
「あんた頭が固いわね! だからファナに負けるのよ。あれが実戦だったら死んでたわ」
アンジェの辛辣な指摘に、カレンは「ぐぬぬ」と唸るだけですぐには言い返せない。
それでも絞り出すように、
「サムライの魂に背くようなことをするくらいなら、死んだ方がマシでござる!」
「でもお姉ちゃん、実際にはすでに魔法を使ってるんだけどね」
「……? どういうことでござる?」
何のことか分からないという顔をしているカレンに、俺は教えてあげた。
「身体強化魔法だよ。サムライのお姉ちゃん、実は無意識のうちに使ってるよ」
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