第260話 完全に迷惑外国人じゃん
東方最大の国、エドウ。
千五百年前にはなかった国だ。
そもそも当時の東国は戦乱の世で、武将と呼ばれる各地の領主たちが、覇権を巡って激しい争いを繰り広げていた。
エドウは俺の死後、一人の武将が東方の統一に成功し、生まれた国だという。
「だから現在でもこの国の統治者のことは、将軍って呼ぶみたいだよ」
街の近くの空に飛空艇を停止させると、昇降機を使って地上へ。
そこには東方特有の街並みが広がっていた。
瓦という特殊な建材を屋根に敷いた、エキゾチックな木造家屋。
西方とは違う、いわゆる和装と呼ばれる衣服に人々は身を包み、男の多くはちょんまげ頭だ。
「ぶふっ、何よ、あの変な頭!」
アンジェがちょんまげを指さし、噴き出している。
「アンジェお姉ちゃん、笑っちゃダメだよ。今の人はただの町人だからいいけど、もしサムライだったらいきなり斬りかかってくるかもしれないよ。彼らはプライドが高いからね」
「そしたら返り討ちにしてやるわ!」
「完全に迷惑外国人じゃん……」
行き交う人々の中には、腰に剣を提げている人も少なくなかった。
西方にはない、やはり独特なタイプの剣で、「刀」とも呼ばれている。
一般の人でも剣を嗜み、街の至るところに「道場」が存在していた。
幼い頃から厳しい訓練を積んでいるため、東方の剣士は非常に強い。
「ん、戦ってみたい。その道場というのに乗り込めばいい?」
「道場破りみたいなことしないでよ、ファナお姉ちゃん?」
それにしてもあまり当時と変わっていないみたいだ。
もちろん戦乱の世が終わって、平和にはなっただろうが――
ガシャンガシャンガシャンガシャン!
――身の丈二メートルほどの金属人形が、すぐ近くを通り過ぎて行った。
『……あまり当時と変わっていないようですね』
「いやいやいや、全然違う! なに今の!? 当時あんなのいなかったんだが!?」
金属人形はどうやら荷車を曳いているようだった。
荷車には商人らしき男も一緒に乗っているが、あの金属人形を操縦しているという感じではない。
道行く人たちには日常的な光景なのか、この金属人形に驚く様子はなかった。
そのとき近くの家の門がウイイイイイインという音と共に開いた。
「では行ってくるでござる」
「行ってらっしゃいませ」
仕事に出かける夫を妻が見送るという微笑ましい光景だが、夫は徒歩ではなく、謎の物体の上に跨っていた。
ブルンブルンブルンブルンッ、ブルルルルルルルルルッ!!
馬に似た形状だが、前後に二つの車輪がついたそれは、そんな轟音を響かせながら勢いよく門から飛び出す。
夫を乗せ、あっという間に遠くに行ってしまった。
さらに足腰の悪い老婆が動く椅子に乗って目の前を通り過ぎていったかと思うと、今度は大勢の子供たちを乗せた巨大な箱が通り過ぎていく。
「こんな光景、知らないよ!?」
俺たちが驚いていると、一人の老人が話しかけてきた。
「お前さんたち、もしかして西の人でござるかの?」
「ん、そう」
「はっはっは、驚いたでござろう? わしは古い人間じゃからの、その気持ちはよく分かるでござる。最近はどんどん便利なものができてきて、驚かされてばかりじゃ。若い連中は当然のように利用しておるがのう」
どうやらこの変化はそう昔の話ではないらしい。
「あれらはすべて〝カラクリ〟と呼ばれるものでござるよ」
「カラクリ?」
「うむ、元々はもっと簡単な仕掛けで動くような、安っぽいものだったんじゃがの。ここ最近はどんどん理解を超えたものが作られているでござる」
ちょっとした仕掛けで動く人形や楽器で、祭りや催し物などで披露され、人々を楽しませてくれていたのがカラクリと呼ばれるものだったそうだ。
それが急激に発展し、力仕事ができる大型の人形や、人を乗せて運べる乗り物、さらには田畑を簡単に耕せる道具などまでもが作られるようになったという。
「え、じゃあ、あの空から見たやつもカラクリだったってことか!」
俺が驚いていると、突然、老人が叫んだ。
「って、赤ん坊が喋っておるうううううううっ!? い、いや、そんなはずはござらぬ。となると……なんと、ついに喋るカラクリまで作られるようになったでござるか」
俺までカラクリだと思われてしまった。
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