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第259話 無一文になってしまったわ

 砂漠の国エンバラを後にした俺たちは、再び魔導飛空艇で東を目指していた。


「はぁ、マジで酷い目に遭った……うっ、思い出したくないのに、また脳裏にあの老婆の裸が……」


 操舵室でぐったりしながら、俺はぼやく。


『なぜ逃げたのですか、マスター? 大金を投じてまで見たかった光景だったのに』

「逃げるに決まってるだろう! あんなの大金を積まれても見たくない!」


 あのあと俺はすぐに大量のコインを現金に戻した。

 換金の際に手数料を20パーセントも取られるので、何にもしていないのに大損である。


「ていうか、こんないたいけな赤ちゃんの前でいきなり裸になるオーナーとか、やば過ぎるでだろ」

『ご自身がクレームをつけてまで望んだのでは? ついでに中身が老人なのに、赤子のフリをしているマスターには及びませんよ、きっと』


 ともあれ、あの一件は完全にトラウマだ。

 もう街にはいたくないと思い、さっさと旅を再開することにしたのである。


 そもそも東方が目的地であり、ルートの途中でたまたま立ち寄っただけなのだ。


 ちなみにそろそろ出発するつもりだと知らせると、出発の前にエレオーネがわざわざ見送りに来てくれた。

 もう少し街にいてくれてもいいのにと言われたが、丁重にお断りさせてもらった。


「ん、十分楽しんだ。早く東方の剣技を知りたい」


 賭博場で大勝ちしたファナは上機嫌で、今か今かと到着を待っている。


「うう……無一文になってしまったわ……」


 対照的に惨敗を喫したアンジェは、持ち金がすっからかんになって意気消沈したまま。


「我も酷い目に遭った。だが人間の仕事というのは思いのほか楽しいものだな」


 店員と間違えられたリルは、その圧倒的な身体能力で普通の店員の数十倍もの仕事をしたという。

 しかも一人だけ種類の違う獣耳だったため目立ったせいか、客からの評判もよく、気づけば人気店員となっていた。


 ……実際には店員でも何でもなかったわけだが。


 最終的にそれが発覚して大いに驚かれたものの、オーナーから直接、正式な定員にならないかと口説かれたらしい。

 もちろんあの変態服脱ぎババアのことである。


『脱がせたのは変態乳好きジジイのマスターでしょう』


 人聞きの悪い言い方をしないでほしい。


 そうこうしているうちに、飛空艇は砂漠を抜けた。


 さらに進むと、瑞々しい緑が広がる一帯に。

 ただの草原ではない。奇麗に区画整備されていて、明らかに人工的なものだ。


「あれは田んぼだよ」

「田んぼ?」

「東方ではお米と呼ばれる穀物が主食なんだけど、それを育ててるのが田んぼなんだ」

「へえ、緑の絨毯みたいで奇麗ね!」

「にしても、こんなに広大な田んぼ、どうやって作業してるんだろ?」


 田んぼはずっと先まで続いていた。

 その途中途中に集落らしきものがぽつぽつと見えるが、明らかにその程度の人員で管理できる規模ではない。


 かつて俺がこの地に来たときも田んぼはあったが、ここまでの規模ではなかったはずだ。


「あそこ、なんか動いてるわよ」

「ほんとだ。……何だろう? しかもよく見たら人が乗ってる?」


 車輪のついた大型の物体が、ゆっくりとまだ開墾前と思われる土の上を移動していた。

 不思議なことに、それが通ったあとの土が明らかに耕されている。


 普通は人力か、牛や馬を利用するものだが、どうやらあの謎の道具を使って未墾の土を耕しているようだ。

 その速度は、人力はもちろん、牛や馬を利用するよりずっと早い。


『魔道具の一種でしょうか』

「そうかもしれない」


 当時の東方は魔法の後進国で、魔法を妖術と呼んで忌み嫌うほどだったんだがな。

 さすがに千五百年以上が経ち、西方との交流も盛んになる中、魔法についての理解も進んだのだろう。


 そうこうしている間に街が見えてきた。

 こちらは当時と変わらない、東方特有の瓦屋根の家々が並んでいる。


「あれが東方最大の国、エドウだね」


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