第252話 存在そのものが異常ですから
「聖光」
俺の使うこの魔法は、アンデッドを浄化するだけに留まらず、あらゆる闇を打ち払う力も持っている。
カイムの装備した悪夢の爪から放たれる闇の矢は、エレオーネに届く前にこの光で消滅した。
「……なんだと?」
予想外の事態に少し呆然となるカイム。
そこでようやく俺の存在に気付いたらしい。
「何でこんなところに赤子がいる!?」
「どうも、かわいい赤ちゃんで~す」
「しかも喋っただと!?」
お約束の反応を示してくれるカイムを余所に、俺は同じ魔法でエレオーネたちを拘束していた闇を消し飛ばしてやる。
「なっ!? やはり先ほどの光もお前の仕業か!? だがこの爪で生み出した闇は、そう簡単には払えないはず! いや、そもそもなぜ赤子が魔法を使っている!?」
「いきなり疑問が多いね」
『誰でもそうなるかと。マスターは存在そのものが異常ですから』
俺を危険な存在と認識したのか、カイムは先ほど作り出した闇の戦士たちをけしかけてきた。
「聖光」
またも同様の魔法を放ってみたが、闇の戦士たちは光が直撃しながらも躍りかかってくる。
「なるほど、元が人間の身体から、そう簡単にはこの光で消せないのか」
光を浴びた部分に関しては一時的に消失したものの、すぐに修復されて元通りになってしまう。
気づけば周囲を取り囲まれていた。
「クハハハッ、死ね!」
四方八方から繰り出される攻撃。
無論すでに俺はそこにいない。
「それよりこの爪の方を取り除いちゃった方がよさそうだね」
「……は? いつの間に!?」
「風刃」
カイムの腕ごと悪夢の爪が宙を舞った。
俺が放った風の刃で、肘から先を切り飛ばしてやったのだ。
バハムートに喰わせてもよかったのだが、一応この武具は初代女王が使っていたものらしいからな。
勝手に消失させてしまうのはマズイだろう。
「~~~~~~ッ!? ぎゃあああああああああああっ!?」
血を噴出させながら絶叫するカイム。
悪夢の爪は地面を転がり、先ほど作り出された闇の戦士たちは粒子となって消えていく。
俺は悪夢の爪を拾うと、カイムが出てきた隣の部屋へ。
そこには空になった宝箱が置かれていて、その周囲に結界の魔法陣が描かれていた。
魔法陣の一部が消えかかっているので、長い年月の間に結界自体も弱まっていたらしい。
それでカイムに破壊されたのだろう。
「危険だから改めて封印しておこう」
悪夢の爪を宝箱に仕舞い、新たな結界を施しておく。
ちょっとやそっとでは破壊できない強力なものにしておいたので、万一今回のようなことがあっても大丈夫なはずだ。
元の部屋に戻ると、カイムは自らの腕から流れ出た血の水溜まりの中にいた。
もはや瀕死の状態だ。
「哀れな最期だな、カイム」
「ク……ククク……同情してくれるのか、エレオーネ……」
姉弟ながら、性別のせいでまったく違う人生を歩むことになった二人。
頭の中を色んな想いが去来しているのだろう、様々な感情がない交ぜになった表情で見つめ合う。
「貴様のしたことは許されることではない。だが……もし私が男に生まれていたらどうなっていたかと考えてしまう」
「…………ククク」
もし二人の性別が逆だったなら、互いの立ち位置は今、逆だったのかもしれない。
「あ、ごめん、治療するの忘れてた」
俺は再生魔法を発動。
すると床に放置されていたカイムの腕が独りでに動き出し、切断面とくっ付き、融合する。
失われた血も再生して、あっという間に顔色がよくなった。
「「……は?」」
エレオーネとカイムがそろって呆然とする。
「積もる話もあるだろうし、もうちょっとゆっくり話をしたら? そのうえで、国の法律に則って処刑するなりなんなりしたらいいと思うよ」
コミック版『生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます』の8巻、本日発売です! よろしくお願いします!