第249話 無断で立ち入るなど言語道断
ある分かれ道の手前で、エレオーネは足を止めた。
「だ、大丈夫だ。確かにこの道を通ったはず。先ほど右に曲がったから、ここは左の道を……いや、それはもう一つ前の分かれ道のことだったかも……」
ついさっき頼もしいこと言ってたのになぁ。
女性兵士たちが不安そうにしている。
「大丈夫、左の道で合ってるよ。少し進むとトラップがあるとこだね」
「そ、そうだったな! もちろん覚えている! 少しだけ混乱しただけだ……って、なぜ貴殿がルートを知っている!?」
「魔法で探知してるから」
トラップの位置や内容だって分かる。
俺は小さくて万能なかわいい赤ちゃんなのだ。
しかしトラップの中には、すでに発動したものがいくつもあった。
恐らく先を進んだ砂賊たちが踏んでしまったのだろう。
「む、何か倒れている?」
さらに進んでいくと、通路に横たわる何かを発見した。
「人だね」
「砂賊か。どうやらトラップの餌食になったようだな」
遺跡に侵入していた砂賊の一人が、トラップを受けてしまったらしい。
胸に矢が突き刺さり、すでに絶命していた。
「情報ゼロでこの遺跡に挑むとこうなる。どれだけの人数で挑んでいるか分からないが、全滅する可能性もあるだろう」
その後も決して少なくない数の砂賊の死体を見つけた。
「カイムめ……明らかに仲間の犠牲を厭わずに進んでいるな」
仲間を先に進ませることで、トラップを強引に回避しているのだろう。
使い捨てのように仲間を扱っていることに、不快感を示すエレオーネ。
「それはそうと、お姉ちゃん、何で砂賊の頭目の名前なんて知ってるの? 会ったことありそうな雰囲気だし」
「…………いや、無論、会ったことはない。ただ名前を伝え聞いてるだけだ。それよりこの先、気を付けてくれ。アンデッドが待ち構えている」
少し広い部屋に出た。
ずらりと石造りの四角い箱が並んでいる。
「いかにも中から何かが這い出してきそう雰囲気だね」
「ご名答だ」
ズズズズズ、と箱の蓋が開いていく。
そうして中から現れたのは、全身包帯姿のアンデッド、ミイラだった。
「こいつらは異常な耐久力を持ち、いちいち相手にしていたらキリがない。無視して一気に通り抜けるのが得策だ。幸い部屋を出たらそう遠くまでは追ってこない」
「聖光」
俺が放った浄化の光が、ミイラの全身を焼き尽くす。
包帯だけを残して中身が完全に焼失した。
「いま何をした!?」
「アンデッドに効く魔法を使っただけだよ」
「そんなことまでできるのか……」
その後もアンデッドモンスターには何度か遭遇したが、俺の魔法ですべて瞬殺。
ちなみに砂賊がアンデッド化したばかりと思われる、新鮮ほやほやの(?)ゾンビもいた。
そうしてついに遺跡の最奥、女王の眠る部屋へと辿り着く。
簡単な祭壇と棺があるだけのシンプルな空間だ。
華美なものを好まない初代女王の性格が反映されたその場所に、数人の男たちの姿があった。
数が少ないのは、それだけ途中で脱落したためだろう。
しかも大いに苦戦したようで、明らかにボロボロだった。
「なっ、貴様らは……っ!?」
「まさか女王!? なぜここに……っ!?」
予期せぬ状況に驚愕し、慌てふためく男たち。
「この神聖なる寝所に、無断で立ち入るなど言語道断! 初代女王に代わり、貴様らに天罰を下さん!」
エレオーネはそう声を張り上げながら、先陣を切って躍りかかっていった。
兵士たちも後に続く。
砂賊たちは動揺しつつも必死に応戦しようとしたが、戦いはほとんど一瞬だった。
ここまで何の案内もなく踏破し、やはり疲弊し切っていたのだろう。
逆にルートやトラップを把握していたエレオーネのお陰で、こちらは体力をほとんど消耗していない。
しかし彼らの中に、頭目の男の姿はなかった。
「答えろ、カイムはどこにいった?」
「……お、お頭なら隣の部屋だ」
「っ……やはり禁具が狙いか!」
エレオーネが顔をしかめて叫んだときだ。
この部屋の脇に設けられていた小さな出入口、その向こうから一人の男が姿を現したのは。





