第230話 早く引き摺り出せ
「これは……まさか、黒い魔石の製造工場?」
厳しい警備と監視センサーを突破し、塔内に立ち入った俺は、そこで思わず息を呑む。
巨大なガラス管が幾つも立ち並び、その間を研究者や作業員らしき男女が忙しなく行き交っているのだが、そのガラス管の中に浮かんでいるのはすべて、黒の魔石だ。
「そのようでございますね」
「……これだけの数を同時に製造しているとはな」
一つだけでも危険な代物だというのに、それを大量に生産されているなんて。
「ここの連中はこいつの危険性を理解しているのか?」
「恐らく上層部だけでしょう。末端は言われた通りに動いているだけではないでしょうか」
しかしこれだけではなかった。
どうやらすぐ上のフロアへと移動した俺たちが見たのは、高さ三メートルを超える何体もの巨人型兵器だ。
『魔導巨兵ですね』
「ああ。だが、普通の魔導巨兵じゃない。こいつは恐らく、俺が開発した五感リンク技術を使ったやつだ。明らかに人が乗り込むようにできていないからな」
魔導巨兵というのは本来、人が内部に乗り込み、操作することが可能な兵器のことを指す。
分厚い装甲によりほとんどの魔法や物理攻撃を無力化する上に、並のドラゴン程度なら軽く捻り潰せる力を持つため、世界各国が挙って製造をしていた。
そんな当時において、俺の発明が画期的だったのは、操縦者の五感とこの魔導巨兵を遠隔で完全リンクさせることを可能にした点だ。
これが上手くいけば、難しい操縦技術を習得する必要すらなくなり、離れた場所から意のままに魔導巨兵を操作できるはずだった。
だがこの技術は、禁忌指定することになってしまう。
というのも、この五感リンクにより、操縦者の精神が致命的なダメージを受ける可能性が判明したためである。
特に精神的に弱い者だとその影響は顕著だった。
人によっては特に問題なく操縦をしていたが、長期にわたって使用し続けることによる悪影響は避けられないだろう。
「こいつまで量産してやがるとは……」
魔導巨兵の奥には、それを遠隔操作するための操縦席が並んで置かれていた。
席とは言ったが、椅子などはなく、大きなボックスの中に入って操作する形になっている。
二足歩行する魔導巨兵と操縦者の感覚を一致させるためだ。
「……誰か来ますね」
「あれは……」
そのとき魔導巨兵の格納庫と思われるこの広い部屋の奥から、数人の集団が姿を現した。
研究者らしき連中と、彼らに連れられたまだ十歳かそこらと思われる少年少女たちだ。
大人たちに促されて、彼らはボックス内に入っていく。
「まさか、あの子供たちが操縦者なのか? 確かに脳が柔軟な子供の方がより五感リンクに適用しやすいが、子供の幼い精神じゃ、大人以上に危険だぞ?」
『研究のためならば子供すら犠牲にするのを厭わないとは、なかなか反吐が出ますね』
恐らくこれから操縦訓練なのだろう、子供の操縦者たちによって魔導巨兵たちが動き出し、この格納庫から出て行こうとする。
そのときだった。
「う、うああああああああああああああああああっ!」
突然、子供の一人がそんな奇声を上げ始めた。
「5番、適正なし」
「この程度の簡単な操作でパニックに陥るとはな」
「おい、中から引き摺り出して、X区に連れていけ」
研究者たちは慌てる様子もなく、淡々としていた。
彼らが子供たちを見つめる目は、実験動物を見るそれと同じだった。
しかしそんな彼らにも誤算があった。
奇声を上げる少年が操作する魔導巨兵が、彼らに襲いかかったのである。
「っ! 何をしている!? 早く引き摺り出せっ!」
「いや間に合わん! 殺せ!」
直後、彼らの一人が魔法を放った。
操縦ボックスごと吹き飛ばすような強烈な爆発が巻き起こる。
「誰が操縦席ごと破壊しろと言った!? 5番だけを殺せばよかったものを!」
「そんな余裕はなかっただろう!」
「と、とにかく助かった……」
暴走した魔導巨兵は動きを止めていた。
安堵の息を吐く彼らだったが、すぐに新たに異変に気が付くこととなる。
「操縦席が……無傷?」
「5番もいるぞ!? それに、何か横に小さいのが……」
すんでのところで割り込み、少年を爆発から護った俺を見て、彼らは同時に叫んだ。
「「「あ、赤子!?」」」
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