第229話 犯人をぶっ飛ばしてやる
「黒い魔石だと……?」
前世の俺が魔石研究の果てに開発に成功した黒い魔石は、通常の魔石とは異なる性質を幾つも持つ。
たとえば魔物に喰わせると、魔物が急激に成長する。
あのエンシェントトレントがそうだったように、短期間で一気に上位種にまで進化することもある代物だ。
だがそれを人間に使ったことはなかった。
なにせ、あまりにも非人道的すぎる。
「これが、その結果だっていうのか……」
身体の一部が変化し、まるで獣のように雄叫びや悲鳴を上げ続ける檻の中の人間たち。
「魔人は膨大な魔力を有しています。その魔力を吸収して、都市の運営に利用しているのでございます」
「……俺が作った黒い魔石を、こんなことに利用しているなんて」
「これだけではございません。様々な禁忌指定物を、この都市は危険を承知で研究、活用しているのです」
「あのとき、ちゃんと禁忌指定物を処分しておくべきだったな」
俺の弟子たちであれば、きっと適切に扱ってくれると思って、そのままにしておいたのだが……いや、弟子のせいにするのは、ただの責任逃れだ。
危険と分かっていながらも、俺は自分の手で処理することができなかったのだ。
だからそれを弟子に丸投げして、死んでいった。
結局は俺の責任だ。
俺自身が落とし前を付けなければならない。
ちょうどこの時代に俺が転生したことにも、意味があるのかもしれないな。
「とっととあの塔に乗り込んで、犯人をぶっ飛ばしてやる」
「そこで一つ、提案があるのでございますが」
「?」
いったん隔離区画を出た俺たちは、無人の家に身を潜め、そこで作戦会議を行うことにした。
そこでメルテラがある提案を口にする。
「ファナ様とアンジェ様には、この居住区に残っていただきたいのでございます」
「なぜ?」
「ちょっと、あたしたちも一緒に戦うわよ!?」
二人の実力では、警備の分厚いあの中央塔に挑むには心許ないからかと思いきや、メルテラにはどうやら他の意図もあるようだった。
「この都市で最も厄介なのが、魔法戦闘に特化した強力な治安維持部隊、魔法騎士団の存在でございます。レウス様が幾ら強くとも、一騎当千級の実力を有する魔法騎士たちを一掃しているだけで、かなり消耗してしまうでしょう。また、犯人に逃げられる可能性もございます」
つまりできるだけ、その魔法騎士団とやらの戦力を削いでおきたい、というのがメルテラの作戦らしい。
「お二人には、タイミングを見計らって、この居住区で暴れていただきたいのです。あの隔離区画の魔人たちを解放させるのがよいでしょう。そうすれば、魔法騎士団もこちらに多くの戦力を割くしかございません。……彼らを利用するのは心苦しいですが、この都市を放置していれば、いずれもっと多くの被害者が出ることになるでしょう」
ファナとアンジェもこの作戦に同意し、二人はこの場に残ることに。
しっかりと隠蔽魔法を施し、こちらの合図があるまでは、大人しくしているようにと念を押した。
そうして俺とメルテラはこの地下居住区を後にすると、B区へと戻り、それからA区へと向かう。
『リルの方はどうなってるかな? ……リル、そっちはどうだ?』
『精密検査を受けさせられているところだ。今のところフェンリルであることはバレていないが、時間の問題かもしれぬ』
中央の塔に連れていかれた彼女から、念話でそんな返事が返ってくる。
『そうか。こちらから合図するか、もしくはバレてしまったら、元の姿に戻って徹底的に暴れ回ってくれ。できる範囲で構わないが、なるべく人は殺さないように頼む』
『了解した』
ファナやアンジェには地下居住区で、そしてフェンリルには塔の下層で暴れてもらう。
そうすれば敵の戦力が完全に分散されるはずだ。
「ここだな」
「はい。居住区とは比較にならないほど、セキュリティが厳しいです。気を付けてまいりましょう」
大きな一軒家が建ち並ぶA区を横断した俺たちは、やがて塔の入り口へと辿り着いたのだった。
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