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第228話 好きなところをお使いくださ~い

「何だ、ここは!? こんな汚い場所に住めっていうのか!?」

「家も道路もボロボロじゃねぇか! 臭いにおいがするしよ!」

「おい、あそこにガリガリの住民がいるぞ! ちゃんと食えるんだろうな!?」


 連れてこられた者たちが、居住区の有様を見て声を荒らげる。


「は~い、みなさ~ん、とってもうるさいですよ~。ここは皆さんのような〝使えない〟人間たちに、相応しい居住区になりま~す。部屋はあちこち余っていますので、好きなところをお使いくださ~い」


 うさぎの着ぐるみが場違いなほど明るい声で告げると、当然、怒りに油を注ぐことになり。


「てめぇ! ぶっ殺してやる!」


 一人の男がうさぎに躍りかかった。

 だが次の瞬間、うさぎは着ぐるみとは思えない俊敏さで男の拳を躱すと、その背中を蹴り飛ばした。


「~~~~~~っ、がああああっ!?」


 男は地面を何度も転がって、見すぼらしい家屋の外壁に激突。

 そのまま気を失ってしまった。


「あちゃ~、一つ、言い忘れていました~。この居住区の住民たちは、まともな医療を受けることができませ~ん。ですので、怪我などにはぜひご注意を! さてさて、何かご質問がある方はいらっしゃいますか~?」


 誰もが完全に黙り込み、質問がないのを確認すると、うさぎは満足したように踵を返すと、


「あ、もちろん、この場所から脱走しようとされた方には、きつ~い罰が待っていますので、お気をつけくださ~い」


 そう最後に言い残して去っていくのだった。


「あの着ぐるみ、なかなか面白いな。中に人が入っていると思ったが、恐らく無人だ。どこかで遠隔操作されているっぽい。……ってことは、着ぐるみじゃなくて、ぬいぐるみか」

「恐らくそうでございましょう。そこまで高い戦闘力があるわけではございませんが、相手が並の人間なら、あれで十分、抑え込むことができるでしょう」


 とそこで、俺はあることに気が付く。


「……僅かだが、身体から魔力を吸い取られている?」

「はい。この居住区にいると、微量ですが常に身体から魔力を吸収されるようになっているのでございます」


 つまり居住区に住む全員から、強制的に魔力を集めているということだ。


「ここで吸い取った魔力を、様々なことに利用しているのでございます。魔法の研究や魔道具などの製造、あるいは農作物の育成……。健康な人間であれば、それほど支障のない程度でございますが、それでも長きに渡って住み続けていると、身体に異変が出ることは間違いありません。何より子供や高齢者、それに病人などには過酷な環境でしょう」


 これがこの都市の裏の顔ってことか。

 なかなかえげつない真似をしている。


 しかし潜入取材をしたその新聞記者とやら、よくこんなことまで調べ上げたよな。


「……ただ、これはまだまだ序の口。奥にはさらに目を覆いたくなるような場所がございます」


 メルテラの案内で、俺たちは居住区の奥へ。


 それにしてもこの居住区、かなりの人数が暮らしているようだ。

 見たところ普通そうな人も結構いて、ここへ強制連行される基準の緩さを示している気がする。


 魔力を吸い取られ続けているせいか、総じて元気がない。

 顔色が悪い人も少なくなかった。


 やがて俺たちが辿り着いたのは、高い壁で囲まれた隔離区画である。

 その内部に侵入した俺たちは、悲惨な光景を目にすることとなった。


「ぐるああああああっ!! ここを出せぇぇぇぇぇっ!」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやるうううううううっ!」

「いひひひひひひひひひひひひっ! ひゃはははははははははっ!」


 そこにあったのは無数の檻と、その中に閉じ込められ、怒声や奇声を発する人間たち。

 いや、人間と呼ぶには、少々憚られる。


 頭に角を生やした者もいれば、背中に翼が生えた者、腕が四本ある者など、三つの目を持つ者など、肉体的にも普通の人間とは違う。


「彼らは恐らく、ここから脱走を試みた者たちでございます」

「ちょっと待て。ということは、元は住民たちだったってことか? それが何でこんなことに……?」


 顔を顰める俺に、メルテラは衝撃的な事実を告げたのだった。


「黒い魔石でございます。ここにいるのは、それを強制的に体内に埋め込まれ、人を越えた存在……いわば〝魔人〟に進化させられた人たちなのです」


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