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第215話 逃げる必要もないけど

「じゃあ何でそんなに確信をもって進めるんだ……?」


 オリオンの疑問への答えは簡単だ。


「探索魔法を使ってるからね」

「君は本当に赤子なの……?」

「ん、師匠はすごい」

「君の師匠なんだ……」


 下層に降りていくにつれて、気温がますます高くなってきた。

 やがて灼熱の溶岩が流れる階層へと辿り着く。


「こんなフロアがあるなんて、道理で暑いわけだわ!」

「この溶岩地帯っ……まさかここは、『灼熱洞窟』じゃないか……っ!?」

「お兄ちゃん、知ってるの?」

「……帝国の南東にある巨大な火山……その中腹に入り口を有するダンジョンだ。この通り下層からは溶岩が流れるフロアが続いていて、何の対策もしていなければ挑むことすらできない超高難度ダンジョンとして知られている。そして過去にここを攻略したのは、あの伝説の勇者リオンのパーティだけ……」


 オリオンががっくりと項垂れた。


「無理だ……あの勇者リオンですら、苦戦したと言われるこのダンジョンを、初見で攻略するなんて……しかも高熱への対策もできていない……」

「はい、耐熱魔法」

「っ!? 何だ、急に身体がひんやりしてきた……?」

「これでちょっとやそっとの高熱なら防げると思うよ」


 メルテラなら完全に炎や熱を無効化する魔法も使えるのだが、まぁ仕方ないだろう。


「そんな魔法まで使えるなんて……君は本当に何者なんだ……?」

「ただの赤子だけど?」

「んなわけあるかっ!」


 俺の正体を知りたそうなオリオンは無視し、溶岩地帯を進む。

 あまりのんびりはしていられないからな。


 と、そのとき。


「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 耳をつんざく大咆哮。

 それとほぼ同時に、マグマが溜まって池のようになった場所から、巨大な何かが飛び出してきた。


「気を付けてくれっ! このダンジョンには、レッドドラゴンが棲息していると聞いたことがある……っ!」


 オリオンが叫ぶ。

 直後に姿を現したのは、真っ赤な鱗を有するドラゴンだった。


「にしても、ちょっと大き過ぎないかしら!?」

「ん、前に戦ったのより、ずっと大きい」


 以前、ベガルティアのダンジョンの下層で行われた、Aランク冒険者への昇格試験。

 そのときに戦ったレッドドラゴンも、魔石で強化された特殊個体だった。


 しかしこいつはそれ以上の巨体だ。

 いや、それだけではない。


「「「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」

「ば、馬鹿なっ!? 首が複数ある……っ!? 二つ三つ四つ……な、七つ、八つ……っ! 八つ首のレッドドラゴンだって!?」


 巨大な胴体から、なんと八つもの首が生えていたのである。


「……オリオンお兄ちゃん、このダンジョンにこんなレッドドラゴンが棲息してるって、聞いたことある?」

「あ、あるはずがないっ!」

「まぁ、そうだろうね」


 レッドドラゴンが、通常の進化でこんなふうになることはない。

 つまり通常ではない方法で、無理やり進化させたということ。


『黒い魔石、ですか』

『だろうな。それしか考えられん。まぁこれだけ禁忌指定物が使われてるんだ、今さら驚きでもない』


 トレントがエンシェントトレントに進化したように、黒い魔石には魔物を上位種へと強制的に進化させる力があるが、こんなふうに通常ではあり得ない進化を引き起こすこともできるのだ。


「「「オアアアアアアアアアアア――」」」

「っ……ブレスがくるっ!?」


 八つの頭が同時に首を撓めたかと思うと、一斉に猛烈な炎の息を吐き出してきた。

 広範囲に及ぶ津波のような火炎の息に、もちろん逃げ場所などない。


「逃げる必要もないけど」


 俺は結界を張ってそれを防ぐ。


「な、なんて強力な結界なんだ……あれだけのブレスを凌いでしまうなんて……だけど、どうやって戦えば……」

「そもそもこいつとやり合う必要もないから、とっとと先に進もう」

「え?」


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

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外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
イケメン相手に散々悪態ついてた割には、結構好感度高めな対応に思える やっぱ親友の血を引いてるからか?
黒い魔石をリルに使うとどうなるのだろう? すでに最強種に使うとその上ってどうなるのだろうか
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