表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/320

第20話 いやお前が言うな

 どうやらまんまとゴブリンに誘き寄せられてしまったらしい。

 百体を軽く超すゴブリンの群れに囲まれて、逃げ道も塞がれてしまっていた。


「……ったく、だから言っただろうが。油断すんなってよ」


 試験官のマリシアが呆れたように言う。


「しかし、それにしても統率が取れすぎてんな、このゴブリンども……それにこの数……まさかとは思うが……」


 彼女が何やら思案げに呟く中、ゴブリンたちが躍りかかってきた。


「く、来るぞっ!?」

「な、なに、どんなに多くても所詮はゴブリンだっ! お、俺たちならやれる!」

「そ、そうだな! 逆に手間が省けたってもんだぜ!」


 互いに叱咤し合いながら、受験者たちが迫りくるゴブリンを迎え撃つ。


 だが圧倒的な数のゴブリンを前に、先ほどまで威勢が良かった血気盛んな受験者たちも、すぐに状況の悪さを悟ることとなった。


「さ、さすがに多過ぎる!?」

「捌き切れねぇぞ!?」

「がっ……く、くそっ……おい、後衛っ、早く治癒魔法をかけやがれ……っ!」


 一気に押し込まれ、あっという間に陣形も崩されてしまう。


「グガアアアアアアアッ!!」

「何だ、こいつは!? ゴブリンなのか!?」

「ほ、ホブゴブリンだ……っ!」


 さらにゴブリンたちの中に交じった、身の丈二メートル近い巨大ゴブリンたちが彼らを苦しめる。

 ホブゴブリンと呼ばれる変異種で、動きこそ緩慢なものの、怪力と高い耐久力を有する厄介な相手だった。


「……仕方ねぇな」


 もはや受験者だけでは対応不可能と見たのだろう、マリシアが腰に提げていた剣を抜いた、そのときだった。


「お姉ちゃん! 上っ!」

「っ!?」

「遅イ」


 俺の咄嗟の声に、素早く視線を跳ね上げたマリシアだったが、それよりもそのゴブリンが降ってくる方が早かった。

 サーベルのように湾曲した剣が、マリシアの背中を切り裂く。


「があああっ!?」

「「「試験官!?」」」


 背中から血を噴き出して倒れ込むマリシア。

 愕然とする受験者たちが目にしたのは、通常のゴブリンより二回り以上も身体が大きく、筋骨隆々な体躯のゴブリンだった。


「な、何だこいつは……?」

「普通のゴブリンじゃねぇぞ?」


 受験者たちが息を呑む中、同行していた現役のCランク冒険者たちが声を上げる。


「まさか……ゴブリンロードっ!?」

「ちょっ……そんなのがいるなんて聞いてないんだけど!?」


 ゴブリンロード。

 それはその名の通り、ゴブリンの王のことだ。


 ごくごく稀にゴブリンから進化して誕生する特殊個体であり、その強さは通常のゴブリンとは桁違いだ。

 そして高い統率能力を持ち、ゴブリンロードに率いられた群れは放っておくと凄まじい速度で繁殖し、巨大化していく。


「……コイツ、雌、ダッタカ。雌ハ、殺スナ。我ラノ、苗床ニ、スル。雄ハ、スグ殺セ」

「しかもこいつ喋ってやがるぞ!?」


 ゴブリンロードの出現によって、ゴブリンたちが勇ましい雄叫びを轟かせる。


「ま、マジかよ!? この数のゴブリンに加えて、ゴブリンロードまで……っ!」

「し、し、し、死にたくねぇよぉ……っ!」


 頼みの綱のBランク冒険者も、背中を斬られて倒れてしまっている。

 絶体絶命のこの状況に、受験者たちはもはや半狂乱の状態に陥っていた。


「……くそっ……アタシとしたことが……」

「マリシアさん! 今、治癒を……っ!」


 コレットが慌てて倒れたマリシアに治癒魔法を施そうとする。

 だが治癒が終わるまで、大人しく待ってくれるようなゴブリンロードではなかった。


「治癒ノ、魔法、面倒。コイツハ、スグ、殺シテ、オク」

「ひっ!?」


 振り上げた剣を、コレットの頭へと容赦なく振り下ろすゴブリンロード。


 ガキィィィンッ!


 その剣は、剣モードになった俺の愛杖リントヴルムによって止められていた。


「……へ?」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん」


 俺は片手でリントヴルムを振り上げ、ゴブリンロードの剣を弾き返してやった。


「ッ!? 馬鹿ナ? 人間ノ赤子ガ、我ノ剣ヲ止メタ……?」

「どうも、人間の赤子でーす」

「赤子ガ、喋ッタ!?」

「いやお前が言うな」


少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
[一言] 「ッ!? 馬鹿ナ? 人間ノ赤子ガ、我ノ剣ヲ止メタ……?」 どうして、ここまで何もせずぼーっとしていたのかな?
[気になる点] 知能の高さを表したいんだろうけれど、なんでゴブリンに人語で指示出すのか… 降伏しろみたいなセリフを言わせるのではダメなのかな
[気になる点] 話しの都合か、全員がピンチになるまで何もしないで見ている試験をうけに来ているはずの主人公。 立ち位置が試験官や見届け人のようで……。 違和感しかありません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ