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第187話 塔で何があったんだ

「大賢者様が亡くなられた後も、魔法の研究機関としての大賢者の塔は、しばらく存続しておりました。わたしを初め、当時の弟子たちが協力し合って、組織を維持していたのでございます。しかし、それも五十年ほどしか続きませんでした」


 五十年って長いけどな。

 ハイエルフの感覚では短いのだろう。


「崩壊のきっかけは、次の大賢者を定めようと、弟子同士が争い出したことでございます。……弟子と申し上げはしましたが、五十年も経っていれば、大賢者様がご存命の頃とは当然、顔触れも大きく変わっています。ハイエルフのわたしはすでに長老のような立場でございましたし、新たな大賢者の有力候補として祭り上げられておりました」


 しかし彼女はそれを断ったという。


「本物の大賢者様のお力を間近で見てきた者として、わたしには分不相応だと理解しておりましたから。そして昔と変わってしまった塔の空気に、段々と違和感を覚え始めていたわたしは、塔を去ったのでございます。……今から思えば、その判断が大きな間違いだったのです」


 メルテラは何かを悔やむように大きく息を吐いた。


「最古参の、それも大賢者様から直接の薫陶を受けた者として、本来ならば塔の在り方に責任を持つべきだったのでございます」

「……その後、塔で何があったんだ?」

「わたしも伝聞で、この目で見聞きしたわけではございませんが、次期大賢者の座を巡って大きな争いが勃発し――――その最中、厳重に保管されていたはずの禁忌指定物が、ある者の手によって根こそぎ奪い去られてしまったのでございます」

「えっ!?」


 それを知った当時の塔の構成員たちは、すぐに犯人を追ったが、結局見つけ出すことはできなかったという。


「それから大賢者の塔は急速に組織としての力を失い、一人また一人と去っていって、ついには誰もいなくなってしまったのでございます」


 俺が死んで、だいたい七十年後のことだという。


「禁忌指定物の危険性はわたしもよく認識しております。扱いを間違えれば、世界が滅びかねないような代物もございますから。当然、わたしもそれから何十年にもわたって、犯人を捜し続けました」


 だが一向にその尻尾を掴むことができなかったそうだ。


「それどころか、禁忌指定物がどこかで使われたような痕跡を見つけ出すこともできなかったのでございます」

「犯人はそれを使わなかったってことか? だとしたら、何のために盗んだんだ?」

「いえ、恐らくは時が来るのを待つことにしたのでしょう」

「どういうことだ?」

「魔族の大半が殲滅され、人類が戦いから解放されたことで、当時からすでに弱体化が確実に進んではおりました。ですが、それでもまだまだ力のある者が多くいましたから」

「なるほど。つまり、もっと戦える人間が減ってから、心置きなく禁忌指定物を利用しようとしたってことか。なかなか賢いやつだな。って、もしかして、今がその時ってこと……?」


〝魔の渦旋〟をはじめ、俺が遭遇した幾つかの禁忌指定物。

 それがまさか、その犯人の仕業ってことなのか……?


「当時からどれだけ経ってると思ってるんだ?」


 随分と気の長いやつだ……という話だけでなく、普通の人間ではそもそも寿命が持つはずがない。


「犯人がどうやってこの時代まで生き長らえているのか、詳しい方法は分かりません。ですが手元に禁忌指定物がある以上、不可能ではないはずでございます」

「……そうだな」


 エウデモスやメルテラのことを考えれば、方法は色々あるだろう。


「そしてわたしは、犯人が動き出すこの時に合わせて目覚めることができるよう、若返りの休眠に入ったのでございます」

「ん? それ、どうやってタイミングが分かったんだ?」

「わたしが長年にわたって研究を進めていた、占星術によるものでございます。この時代に明らかな騒乱を示す星が見えたのです」


 占星術か……。

 特別な才能を持つ者にしか扱うことができないとされる、占いの一種だ。


 きっとハイエルフであるメルテラだからこそ、これほどの精度で当てることができたのだろう。


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― 新着の感想 ―
結局、大賢者が研究脳で、自分の死後にどうなるかの危機管理が不十分だった事が世界の危機に繋がったのかな 組織や人間社会的な歴史の流れに精通していたならば、可能性として予測できていた筈。 少なくとも小説家…
[一言] 争乱を示す星なんて、レウスしかおらんやん…… だとすると、持ち去った犯人は
[気になる点] 騒乱の原因は全部レウスだったって事かな
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