第18話 ダメに決まってんだろ
「……君がなんと言おうと、彼は間違いなく合格だ。ちなみに点数は100点。全問正解だ」
どうやら満点だったようだ。
あれくらいの常識問題なら当然だろう。
『……なのになぜ普段はあんなに常識がないのでしょう?』
『いやあるだろ?』
『どの口がおっしゃるのですか?』
47点で不合格だった少年が声を荒らげた。
「ば、馬鹿な!? じゃあ、俺はこんなガキに常識問題で負けたっていうのかよ!?」
自分で言ってて恥ずかしくならないのだろうか?
まぁでもリアルな赤子だったら確かに赤っ恥だが、俺には前世の知識があるからな。
俺に負けてもそこまで悲観することではない。
「クソが……っ! そもそもこんなガキが筆記を突破したところで、どうせ実技じゃ何もできねぇだろうが!?」
「そんなことないよ?」
「ああん? ~~~~っ!?」
少年には、俺が突如として視界から消失したように見えただろう。
ギルド長のときと違って、まったく目で追うことすらできておらず、あっさりと首の後ろを取ることができた。
「ここだよ?」
「っ! て、テメェっ……い、いつの間に!?」
俺を振り払おうとする少年だったが、それも遅い。
少年は自分の頭を叩いてしまう結果となってしまった。
「いでっ!?」
「ねぇ、ガキでもそれなりに戦えそうでしょ?」
机の上に座って、悶絶している少年に訊ねる。
「な、な、何なんだっ、このガキはよぉっ!?」
俺のことが恐ろしくなったのか、最後は怯えの表情で後退り、逃げるように部屋から出ていったのだった。
無事に筆記を突破した計十名の受験者たちが、次の実技試験に進むこととなった。
一時間後に指定された集合場所は、街の城門を出てすぐの場所だ。
「よし、それじゃあ、今から実技試験を始めるぜ。アタシはマリシア。今回、テメェらひよっこどもの試験官を任されたBランク冒険者だ」
そう名乗ったのは、腰に剣を提げた短髪の女性冒険者だった。
「言っておくが、冒険者っつー仕事はテメェらが思ってる数倍は過酷なもんだぜ。もちろん実力次第じゃ、大金を稼いで人生一発逆転なんてことも夢じゃねぇがよ、そんなことができるのはごくごく一握りの天才だけ。大半の冒険者どもは日々の食うもんを稼ぐだけでも精いっぱい。そのくせ常に命のリスクと隣り合わせだ。ただの憧れだけじゃ、到底やっていけねぇぞ? その覚悟がある奴だけがこの試験を受けろ。そうじゃなけりゃ、大人しく普通の仕事に就いておけ。世の中、冒険者以外にも幾らでも仕事はあるんだからよ」
これから冒険者になろうとしている者たち相手に、いきなり厳しい言葉だ。
何人かの受験者たちが怯んだように頬を引き攣らせるも、さすがに本当に辞退する者はいなかった。
「……まぁいいだろう。別に冒険者なんざ、やめようと思えばいつでもやめられるんだからな」
そのときに命さえ失っていなければな、と試験官は小さく付け加える。
「ええと……僕はロット。Cランク冒険者だ。今回の試験のサポートをさせてもらう」
「私はラナ。同じくCランク冒険者よ」
どうやらこの三名の現役冒険者たちが、今回の実技試験の監督や審査をしてくれるらしい。
ちなみにBとかCとかいうのは、冒険者の位を表したものだ。
前世にはなかった仕組みだが、ファナやイリアから筆記試験に必ず出るからと教えてもらっていた。
聞いただけでだいたいの経験や実力が分かるし、悪くない制度だろう。
昔は「冒険者歴〇年目」というので、大よその実力を判断していたものだ。
ただし必ずしも実際の実力とは一致せず、あくまで参考程度だったし、本人がサバを読んでいることもよくあったっけ。
「つーわけで、準備は良いみたいだな。では出発するぜ。……と言いたいところだが」
マリシア試験官が、そこで初めて視線を自分の胸部へと下ろす。
「おい、テメェなんでさっきからアタシの胸に張り付いてやがる?」
「え? ダメかな……?」
彼女の胸に抱きついていた俺は、潤んだ瞳で見上げながら問う。
「うっ……そ、そんな目で見てもダメだ……っ! 一応ギルド長から話は聞いてるけどよ、いち受験者である以上、アタシは赤子だろうが特別扱いしねぇぞっ?」
ううむ、ちょっと心は揺らいだようだが、母性を擽りまくるはずの俺の赤子フェイスが通じないらしい。
仕方なく彼女の胸から飛び降りた。
「……今度こそ出発するぞ。目的地は……街の北西部で見つかったゴブリンの巣穴だ。つまりは、ゴブリンどもの殲滅。それこそが今回の実技試験の内容だ」
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