第168話 紛れもないガチ赤子
貧相だったメルテラの像の胸を、魔法で巨乳に変えてやった。
きっと本人もあの世で満足していることだろう。
『当人は余計なことをしてくれたと思っているかもしれませんよ?』
しかも他の箇所とは違う素材を使うことで、胸の柔らかさをも再現してみせた。
結局、前世で本物を揉むことは叶わなかったものの、かなりそれに近いものになったはずだ。
『……確実に激怒されてるかと』
「いやいや、涙が出るほど喜んでるに違いない」
『死人に口なし、というやつですね……』
「さて。それにしても気になるのはこの魔石だ」
飛行船の中で、俺は亜空間から巨大な黒い魔石を取り出した。
実は少ない報酬の代わりとして、希少価値の高いエンシェントトレントの素材の一部を貰ったのだが、その一部に含まれていたのである。
魔石というのは、魔力が多く含まれる石のことで、通常は青や緑、あるいは紫といった色が多い。
魔物の体内で生成される場合も多く、魔石がエンシェントトレントの体内で見つかること自体は別に不思議なことでも何でもない。
「問題は、この魔石がエンシェントトレントからは、絶対に生まれない種類のものだってことだ。というか、この黒い魔石というのは、そもそも自然には生じない」
人工的にしか生み出すことができない種類の魔石。
それがこの黒い魔石なのだ。
「なにせ、前世の俺が初めて作り出したものだからな」
魔石研究の果てに開発に成功したこの黒い魔石は、通常の魔石とは異なる性質を幾つも持つ。
だがそのあまりの危険性に気づいた俺は、製造を中止し、持っていたものもすべて処分したはずだった。
「こいつを魔物に喰わせると、急激に成長する。それこそ短期間で一気に上位種にまで進化させるくらいに」
『つまりあのトレントは、この黒い魔石を体内に取り込んだことで、エンシェントトレントになったということですか』
「ああ、間違いないだろう。おかしいとは思ってたんだ。あの一帯の魔力レベルで、エンシェントトレントが生まれるなんて、まずあり得ないからな」
しかし一体なぜこんなところにこの黒い魔石が……。
『何者かが与えたとか?』
「仮にそうだとして、そいつはなぜこの魔石を持っていたんだ? こいつを作るのはそう簡単じゃないぞ。それとも、もしかして俺が処分したやつがどこかに残っていた……?」
大きな疑問を抱きつつ、飛行船を自動操縦で走らせていると、ピピピピッ、という音が操舵室内に響いた。
「地上に何かいるみたいだね」
床のガラス張りから覗いてみると、そこにいたのはオークの群れだ。
それに冒険者らしき三人組が囲まれている。
「うーん、あのままだとやられちゃいそう」
◇ ◇ ◇
「はぁはぁ……こ、こんなところで、オークの群れに遭遇するなんてよ……っ!」
「もう体力も回復アイテムも残ってないですわ!」
「かといって、逃げるのも無理っぽい」
五体ものオークに取り囲まれ、ピンチに陥っていたのは、つい最近、Cランクに昇格したばかりの女冒険者たちだった。
女ばかりの三人組、剣士と魔法使い、そしてシーフといったオーソドックスな構成である。
危険度Cとされるオークは、単体であればCランク冒険者のパーティならそう難しい相手ではないが、五体となると話は大きく変わってくる。
しかも彼女たちは依頼でゴブリンの巣穴を殲滅してきた帰りで、すでに疲労がピークに達していた。
「このまま戦ってもやられるだけだ! なんとか突破して、逃げるしかないぞ!」
「い、一か八かですわねっ!」
「まだ死にたくない」
と、そのときである。
突然、どこからともなく降ってきた火の玉がオークの一体を直撃し、その頭が弾け飛んだ。
「な、なんだ今の!?」
「もしかして、援軍ですのっ!?」
「やった死なずに済む?」
そうして火の玉が降ってきた方向へと視線を転じた彼女たちが見たのは。
「……あたしの見間違えだろうか? 赤ん坊が宙に浮かんでる気が……」
「奇遇ですわね……わたくしにも、同じものが見えていますわ」
「紛れもないガチ赤子」
生後数か月といったくらいの赤子だった。
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