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第163話 我らは逃げぬ

「や、やはりこの里を目指して近づいてきたに違いない!」

「魔物避けの結界が、効いていないというのか……」


 山の奥深くに存在するエルフの里。

 迫りくる脅威を前に、エルフたちが絶望の表情を浮かべていた。


 危険な魔物が数多く生息している山の中だが、この里にはほとんど魔物が寄り付かないはずだった。

 というのも、里を取り囲むように、魔物の接近を防ぐ強力な結界が張られているからだ。


 しかし今、恐ろしく巨大な樹木の魔物が、ゆっくりと、しかし確実に近づいてきている。


 この山にも数多く生息しているトレントだが、あれほど大きく育った個体は、長きにわたってこの地で暮らしている彼らエルフも、今まで見たことがなかった。


「ま、間違いない……こやつは、エンシェントトレント……我らエルフの伝説に残る、怪物トレントじゃ……」


 エルフの長老が、青い顔で呻く。


 この巨大な魔物を最初に発見したのは、一か月ほど前のこと。

 そのときはまだ遥か遠くに聳え立っていたが、調査に向かった里のエルフたちが、大きな被害を受けて逃げ帰ってきた。


 不運なことに、巨樹の魔物はそれから少しずつ、この里に近づいてきた。

 トレント種はただの樹木と違い、緩慢ながら移動することが可能なのだ。


 周囲の草木から栄養を吸い取ったのか、さらに成長したこの魔物は、すでに里と目と鼻の先にまで迫っていた。


「相手が伝説の魔物であろうと、我らは逃げぬっ! 先祖代々のこの里を守り抜くのだ!」


 どうやらエルフたちは、この巨大トレントに戦いを挑むらしい。

 幸い里を守護する結界は、魔物の力を弱める効果もある。


「今だ! 放てっ!」

「「「おおおっ!」」」


 巨大トレント目がけ、一斉に火のついた矢を放つエルフたち。

 それが次々と幹に突き刺さっていく。


 トレント種は炎を苦手としている。

 さすがにエンシェントトレントといえど、この攻撃は通じるはずだ。


 そう確信するエルフたちだったが、すぐにその考えが甘かったことを知る羽目になった。


 エンシェントトレントが枝を一振りすると、それだけで幹に燃え移った炎があっさりと吹き消されてしまったのである。


「なっ」

「一瞬で、炎を……」

「だ、だが、ああしてすぐに掻き消すというのは、火を嫌がっている証拠だ! 今度は狙いを集中させず、できるだけバラけさせるのだ!」


 エルフたちは戸惑いながらも、再び火のついた矢を一斉に発射した。

 しかし今度は、矢が届くことすらなかった。


 巨大トレントが振るった木の枝が、猛烈な風を巻き起こし、それが矢を悉く吹き落としてしまったのだ。


「そ、そんなっ……」

「おい! 上から何か降ってくるぞ!?」


 愕然とするエルフたちに、更なる脅威が降りかかった。


「これはっ……魔物っ!?」

「む、虫の魔物だ……っ!」

「まさか、トレントが降らせたのか!?」


 空から落ちてきたのは、芋虫やカブトムシ、あるいは蜘蛛といった、昆虫系の魔物だった。

 恐らくエンシェントトレントの枝葉の上に棲息していたのだろう。


 襲いかかってくる魔物に、エルフたちは慌てて対処する。

 そのときだ。


 ドオオオオオオンッ!

 突然、轟音と共に家屋の一つが跳ね飛び、宙を舞った。


「「「っ!?」」」


 一体何が起こったのかと目を剥くエルフたちが見たのは、地面から生えた巨大な根っこだった。

 うねうねと蠢くそれは、禍々しい触手のようにも見える。


「ま、まさか、トレントのっ……」


 ドドドドドドドドドドドオオオオオオンッ!


 一本だけではない。

 地面が次々と爆発したかと思うと、そこから巨大な根が飛び出してくる。


 気が付けばそこら中に根が生え茂り、里の中は根の林と化していた。

 絶望的な光景に、もはや戦意を失い、立ち尽くすエルフたち。


「ああ……聖母メルテラ様……我らを、お救い下さい……」


 誰かが祈るように呟いた、そのときである。

 エンシェントトレント目がけ、空から燃え盛る隕石が降ってきたのは。



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― 新着の感想 ―
[一言] メルテラの手柄になってしまうのか!? エルフの村が破壊された場合、 頑固に住居形態に拘るエルフに、レウスの知識で最先端の住居の最新設備の村を作成して住まわせる展開とか好みだけど。 そうはなら…
[一言] 間に合ったようですね。村ごと配下に入るかな
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