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第150話 こんなに魔物に出会わないなんて

 試験官である冒険者たちに連れられ、一行はダンジョンの三階層へとやってきた。


 ここベガルティア大迷宮は、下層に潜るほど強力な魔物や凶悪なトラップが出現するようになっているのだが、ここ三階層の難易度は非常に低く、初心者向けと言っても過言ではなかった。


 そんな三階層に多く生息しているのが、犬の頭を持つ二足歩行の魔物、コボルトだ。

 最弱の魔物として知られるゴブリンよりも、少しばかり強い程度である。


 とはいえ、この試験に挑戦しているのは、まだ冒険者にすらなっていない、大半が十代半ばほどの若い受験者たち。

 たかがコボルトと言っても、決して油断していい魔物ではなかった。


「(……ふむ。今回のメンバーたちは、いい意味で慎重な者が多いようだな)」


 しっかり周囲を警戒している今回の受験者たちを見て、そう秘かに感心しているのは、試験官であるBランク冒険者の青年だ。

 血気盛んな受験者の中には、コボルトを侮って、痛い目を見る者も少なくないのである。


「(それにしても……この辺りではあまり見かけないタイプの獣人だが……)」


 そんな中、彼がもっとも注目していたのは、獣人と思われる女性だ。

 犬の獣人のようにも見えるが、愛くるしい顔つきが多い彼らと違って、シャープで凛とした顔立ちをしている。


 年齢は二十歳ぐらいか。

 受験者たちの中では少し年長の部類に入るだろう。


 と、そこで彼はあることに気づく。


「……変だな? さっきからまるで魔物と遭遇しない」


 三階層まで降りてきて、すでに十分ほどは経っている。

 数の多いコボルトとは、とっくに遭遇していてもおかしくないはずだった。


「ええと、珍しくなかなかコボルトを見かけないが、一応、今回の試験内容について詳しく説明しておくとしよう。この三階層には、階層ボスと呼ばれている魔物がいる。それはコボルトの上位種であるエルダーコボルトだが、こいつをお前たち全員で討伐してもらう。その戦いの様子を見て、合否を決定することになる」


 このベガルティア大迷宮には、各階層に階層ボスと呼称される魔物が棲息している。

 その階層にいる通常の魔物と比べて強力で、ダンジョン初心者が誤って遭遇してしまい、全滅させられるということが、年に数回は発生していた。


 出現場所がほぼ固定されているので、情報さえあればそんな悲劇は簡単に避けられるし、もちろん冒険者ギルドも、必ず新人への説明を行っているのだが。


 それでも一部の新人がお約束のように階層ボスにやられてしまうので、最近はこうして試験と併せて、注意喚起するようにしたのである。

 実際にその目で階層ボスを見ておけば、身をもってその危険性を知れるはずだった。


「……明らかにおかしい」


 Bランク冒険者である試験官は思わず呟く。


 階層を随分と進んできたにもかかわらず、まだ一度も魔物を見かけていないのだ。

 まるで魔物の方が彼らを怖れ、逃げているかのようである。


「何度か同じ試験を受け持ってきたが……こんなこと一度もないぞ?」

「わ、私もです」

「こんなに魔物に出会わないなんて……」


 他の試験官たちも首を捻っていた。

 それくらいの異常事態なのだ。


 そのとき受験者の一人が何かに気づいて、「あ!」と声を上げながら指をさした。


「あそこにコボルトがいる!」

「本当かっ?」


 みんなの視線が一斉に指が向く方へ。

 すると確かにそこには一体のコボルトの姿が。


「どうやらたまたま遭遇しないだけだったようだな」

「でもあのコボルト、なんか様子が変じゃないですか……? まるでこちらに怯えているような……」


 試験官たちがそんなやり取りをした直後。

 そのコボルトが踵を返したかと思うと、逃げるようにダンジョンの奥へと走っていってしまった。


「一体、何が起こっているんだ……?」


 ……彼らは知らなかった。

 今この受験者たちの中に、コボルトが本能的に怖れる存在が交じっているということを。


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― 新着の感想 ―
[一言] > 今この受験者たちの中に、コボルトが本能的に怖れる存在が交じっているということを。 そーいやリルってフェンリル、超☆強い魔物だっけ。。。
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