第147話 死んだふりしてるけど
ガリアが投げた剣が、トカゲみたいな姿へと変形した。
どうやら悪魔の憑代となった剣のようだ。
『マスター、あれはかなり危険ですね。隷属魔法で縛ってはいるようですが、縛りが非常に甘いせいか、ほとんど破られかけている状態です。あと何度か使用しただけで、契約者が悪魔に操られてしまうことでしょう』
うーん、これは放置しておかない方がよさそうだな。
今ここで破壊してしまおうか。
ギルド長のおっちゃんもヤバそうだし。
俺はリルの胸の上から飛び降りると、地面を蹴って跳躍。
その間に魔剣はギルド長に襲いかかり、首に噛みつこうとした。
どうにか致命傷は避けたみたいだけど、多分もう戦いの継続は難しいだろう。
「ギルド長のおじちゃん、選手交替ね。僕も冒険者だし、選手の一人になっても大丈夫でしょ?」
「っ!?」
空中から割り込んでいって、剣モードにしたリントヴルムを思い切り魔剣へと振り下ろす。
「グラビティ」
直前に重力魔法で刀身の重さを数倍に引き上げたこともあって、隕石でも落ちたかのような凄まじい衝撃が魔剣に叩き込まれた。
ズドオオオオオオオオオオオンッ!!
「ギャアアアアアアアアアアアアッ!?」
耳障りな悲鳴を轟かせながら、ぐしゃりと潰れて床にめり込む魔剣。
同時に大きなクレーターができあがった。
「……あ、相変わらず出鱈目だな……」
「それより傷、治してあげるね。エクストラヒール」
ギルド長の傷口が塞がっていく。
大量に出血したはずだが、エクストラヒールは失われた血液も復活させてくれるので、顔色もあっという間に良くなっていった。
「ば、馬鹿な……今のは、何だ……? わ、私は……夢でも、見ているのか……?」
ガリアが声を震わせ、呆然と立ち尽くしている。
「えーと、こっちの選手、僕に代わったよ。……どうする? まだ戦う? 戦うなら、続けて僕が相手するけど?」
「れ、レウスっ……」
「ねぇ、どうするって聞いてるんだけど?」
リントヴルムの剣先を向け、威圧するように近づいていく。
ガリアは怯えるように後退った。
「わ、私は絶対に諦めんぞ……っ! か、必ず……っ! 必ずお前を連れて帰るっ! 必ずだっ!」
そう捨て台詞のように言い置いて、踵を返すガリア。
そしてそのままブレイゼル家の面々を引き連れ、逃げるように訓練場から出ていったのだった。
「やっと帰ってくれたね」
『最初から今のようにマスターが脅して、無理やり帰らせればよかったのでは?』
かわいい赤ちゃんはそんなことしないよー。
『マスターは決してかわいい赤子などではありません』
それはそうと。
俺は床にめり込み潰れた魔剣に近づいていく。
「死んだふりしてるけど、死んでないよね?」
「~~~~ッ!?」
よく見ると砕けた刀身の修復が始まっていた。
放っておくとそのうち復活してしまうだろう。
危ないから隷属魔法で俺の支配下に置いておくとするか。
「や、やめろっ……お前のような化け物に隷属されたら、二度と自由に暴れられなくなっちまう!」
「そのために隷属させるんだから当たり前でしょ」
「ギャアアアアアアアアアッ!」
よし、完了っと。
これなら刀身を復元させても問題ないな。
刀身復元魔法を使って剣を元通りにすると、とりあえず亜空間へと放り込んでおいた。
「……結局、我々がどうこうする必要などなかったのかもしれない」
「ですが、あれでもまるで諦めた様子ではありませんでしたから、また来るでしょうね」
「どんな手を使ってくるか分かんないし、面倒だよねー」
「そうだな。何よりギルドのせいにしているのが厄介だ」
と、そんな会話が聞こえてくる。
ううむ、どうやらかなり迷惑をかけてしまっているみたいだな。
「そうだ。リル」
「我に何の用だ、主」
「リルは狼だから、鼻が利くよね?」
「我はただの狼ではないぞ、主よ。そして利くどころではない。並の狼などとは比べ物にはならぬ。何なら魔力の種類すらも嗅ぎ分けられるほどだ」
「そっか。じゃあ、さっきの連中の臭い、覚えたよね?」
「無論」
後のことはリルに任せるとしよう。
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