第101話 あんまりジロジロみないでよ
「……ここが三十階層ね」
「ん。なかなか大変だった」
「Aランク以上の冒険者にしか、推奨されていない階層なだけはあるわ」
俺たちはダンジョンの三十階層へと辿り着いていた。
レッドドラゴンと戦ったニ十階層より、十階層分も深い場所だ。
階層を潜るほど出現する魔物が強力になってくることもあって、ファナとアンジェでも道中それなりに苦戦していた。
さらに、ここまで潜ってくるだけでも丸一日がかりだ。
この階層からミスリル鉱石が手に入るというが、今日のところはここで野営し、探すのは明日になるだろう。
「よいしょ」
亜空間に保存しておいた小屋を取り出す。
「……これ、丸ごとその亜空間とやらに入れてたの?」
「そうだよ。テントとかよりいいでしょ? トレント素材で作ってあるから、寝てる間に魔物が来ても、簡単には壊されないし」
人面樹の魔物であるトレントは、硬質な木材になる。
こんなときもあろうかと、それを加工してあらかじめ小屋を作っておいたのだ。
「そんなに広くはないけど、ちゃんとトイレとシャワールームも付いてるよ」
「ん、嬉しい」
「え! トイレ!? つ、使ってもいいかしら!?」
どうやらアンジェはここまで我慢していたらしい。
冒険者がそこら辺で用を足すのは珍しいことではないのだが、まだ若いので恥じらいがあるのだろう。
ちなみにこのトイレはスライム浄化式だ。
便器の下に何でも吸収してしまうスライムを住まわせ、便を処理してもらうという仕組みである。
これがもっとも簡単に作れるトイレだ。
なのにあまり一般的ではないのは、放っておくとスライムが逃げ出したり、成長し続けて危険な大きさになったりするからである。
定期的にスライムを入れ替えるのも大変なので、普通の家庭のトイレとしては使えない。
「シャワー浴びたい」
ここまで来るのに随分と汗を掻いたのだろう、ファナが服を脱いでシャワールームへと入っていく。
しかし中に入っても、そこにはシャワー器具そのものが付いていない。
「……どこからお湯が出る?」
「大丈夫。ほら」
俺は魔法でお湯の雨を降らせた。
そう、このシャワーは人力なのだ。
つまり俺がいなければ、シャワーを浴びることができないのである。
「どうかな、ファナお姉ちゃん、お湯の加減は?」
「ん、ちょうどいい」
そのときこちらのやり取りが聞こえたのか、隣のトイレからアンジェの声が響く。
「ちょっと! それじゃ、あんたと一緒に入らないとダメってことじゃないの!」
「そうだよ?」
「そうだよって!」
「んー、別に嫌なら浴びなくていいけどねー?」
「ぐっ……」
その後、シャワーですっきりした様子のファナを見て、やはりシャワーを浴びたくなったのだろう、アンジェも渋々ながら俺提供のシャワールームを利用したのだった。
「あんまりジロジロみないでよ!」
「ばぶー?」
「都合の悪いときだけ年相応の赤子に戻るんじゃない……っ!」
翌朝、俺たちは三十階層の探索を開始した。
三十階層は洞穴のような道が立体的に入り組む、非常に複雑な構造をしていた。
闇雲に進んでいては確実に遭難してしまうだろう。
幸い俺は探索魔法が使えるため、ルートに迷うことはない。
目の前の道が七又に分かれていても、正しい道を選択することができた。
「あの右から二番目の道だね」
「ん」
「……もしこんなところを普通に探索しないといけなかったとしたら、ゾッとするわね。元の場所に戻ってくる自信は皆無だわ」
もちろん出現する魔物も、これまでの階層よりずっと凶悪だ。
今のファナやアンジェの実力だと、二人きりの探索はお勧めできないだろう。
実際、ブラックオーガの群れに囲まれてピンチになりかけていた。
「まぁでも、僕がいるから心配しなくていいよ。だいたいの怪我は、治癒魔法ですぐに治せるしね」
そんな感じでミスリルを探すことしばらく。
ついにダンジョン壁に輝く、白銀色のそれを見つけたのだった。
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