わだかまりと誰だお前?①
「この世界でラミアが俺に一番優しかったんだ、行かないでくれ!!」
"行かないでくれ"、そう何度も叫んだがラミアは離れて行く。
ただ、言葉は聞いていない訳では無かった。
俺の発する言葉をを一つ一つ聞き入るように実はゆっくり進んでいるようにも思えた。
俺には彼女が何かに躊躇しているように思えた。
だがまだ俺は足が全く動かせないのだ、これでは追いかけることが出来ない。
離れていくラミアとの距離、このままでは見えなくなってしまう。
「ラミア~ッ」
女々しい奴と思うだろうが、彼女と会えていなければ俺は死んでいただろう。
だから今彼女を失っても俺の命は終わると思う。
もうラミアは俺には無くてはならない存在になっていた。
今足を負傷している俺が、ラミアを追いかけることが出来る唯一方法を思い着いた。
それはぶっつけ本番の命掛けの方法だと思われる。
時間がないので早速マクロ化した術式を発動する。
下半身を覆う結界とその後方に結界の袋を作った。
(袋というよりはノズルと言うべきかもしれない)
その中に大量の酸素と水素が充満する。
さっきの結界の強度から言えば耐えられないかもしれない。
今回は少し強化はして見たが全く結果は分からない、俺はバラバラに吹き飛ぶかもしれない。
水魔法から水蒸気の摩擦で作る放電で火を着けた。
「ドドーン」
低い音で爆発すると俺は発射された砲弾の如くラミア目掛けて飛んで行った。
爆発音に負けないくらい大きな声で「ラミア~ッ」と声の限り叫んだ。
だが、本当はそんな余裕は無かった。
「首・・・首・・・首が変な方向に・・・」
首は、強烈な反動で変に捩じられ、むち打ち状態になっていた。
ラミアは爆発音に驚きこちらを向いていた。
「ラミア、行かないでくれ!!」
首を手でしっかり支えて言葉を発する。
その到達した破壊力は射出速度と俺の体重を考えれば砲弾と変わらなかったらしい。
彼女の胸の辺りに到達した時、その力はそのままラミアを押し倒すくらいは十分に出来た。
俺は手を広げ彼女を抱きしめた。
「行かないでくれ、最初に言っただろあの時は『寂かったんだ』今も俺は君がいないと寂しくて死んでしまうよ」
ラミアは何も言わなかったが、ラミアは人の姿になっていく。
ただ何かを考えながら一言だけ漏らすように呟いた。
「ほろ苦い・・・か・・」
あの歌詞だろう。
その意味は何となく分かったような気がした・・・
いや気のせいだ俺には本当の彼女の気持ちは何も分からない。
でも俺のことを思ってくれる彼女の気持ちは分かる。
妖女だからとか人間だとか、もうどうでも良い。
彼女を邪悪な者というのか?
さっきの奴らや俺を砂漠に追いやった奴らの方がよほど邪悪で悪魔的だろう。
それに引き換えラミアの方がよっぽど人間らしい。
砂漠で迷い絶望しかなかった者達に寄り添った彼女。
最後には英霊達と呼び彼らを送ることが出来るんだ。
そうだ、ラクちゃんも送ってくれたラミア。
彼女は妖女なんかでは無い。
「今は、今は俺と一緒に居てくれ、それだけでそれだけで良いんだ!!」
後は覚えていないが何かを言い続けた。
周りの騒がしさが無くなるとまた虫や小動物が集まって来た。
俺もラミアも傷まみれだ、傷口の血の臭いに虫や小動物が集まって来る。
ラミアが俺に声を掛けてくれた。
「結界を張って貰える、今日は遅いわもう休みましょう」
「分かった直ぐに結果を張るよ」
そう言いながら涙を拭った。
ただ、まだ傷が完治していないのでラミアの肩を借りて作業をする。
安堵する俺は、今まで通りには行かないことは未だこの時には分かっていなかった。