嵐の中で①
「これから本艦は発進いたします。
みなさまお急ぎください!!」
なんか拍子抜けだなと思いながら、不慣れな案内放送をする俺。
さあ!!
いよいよ出発だ。
水素と酸素は十分に発生し燃料はいっぱいだ。
初期魔法によりエンジンはエージングを始めた。
魔法を交えたとは言え通常の爆発反応であるのでエンジン音はそれなりだった。
物々しい音に皆は驚くとともに恐れていたかもしれない。
俺が作ったものだが、静かな飛行ができるかどうかは保証はない。
だって飛行機など作ったことはない。
ましてや、これは飛行戦艦のようなものだ、安定させる翼はない。
よって、もちろんシートベルトなどあるわけがない。
とりあえず皆が座る椅子と、振り回されなように手すりのような持ち棒は準備した。
「そばにある手すりを持ち座ってください」
俺の放送後全員が出発準備をする。
エンジンは徐々に出力を増していく。
やがて浮遊を始めた。
(良かった静かに浮遊し始めると言う感じだ。
あまり突発的なロケットのような発進ではなくよかった)
ラミアが何か言っている・・・
「どうしたんだ?」
「この船の名前は?」
「えっ?名前?」
「さっきの列車とかいう乗り物の名前はシリウスだったでしょ?」
そうか、名前を付けるのを忘れたようだ・・・
なくてもよさそうだが、少し思案する。
そうだ、とりあえずあの話にあやかるか・・・
「アークとでも呼んでくれ」
そう聞くとラミアは何かを思い出しているかのような顔になった。
でも元の世界の言葉なので意味は分からないだろう。
でも少しするとラミアは思いもしない言葉を発する。
「アーク?神の導きの船?」
驚いたことに「神の導きの船」という答えが返ってきた?
絶対にわかるはずのない異世界の言葉の意味を探し当てたのだろうか?
それともこの世界にも同じような伝説でもあるのだろうか?
「少し違うがまあ、近い意味だ」
ラミアが言う神の導きの船
「アーク」、つまりノアの方舟の意味にしようとしたのでそんなに間違ってはいない。
「なんでそう言う意味だと思った?」
「なんとなく、昔聞いたことがある気がするの。
それと乗ったことがあったような気がするの。
ああ、でも、そんなはずは無いわね。
記憶違いね」
ラミアは照れ隠しなのか軽く笑い顔になった。
「浮遊戦艦アーク発進!!」
いや、戦艦では無いが、なんとなくそう言ってみた。
船のエンジンは推力を上げ、重力から逃れるための垂直上昇から前進しながらの上昇飛行に移る。
少し斜めになるが、この後高高度での水平飛行に移っていく。
この巡行飛行になると船内も安定する。
完全に水平飛行に移ると安定しみんなは普通に立っていることもできるようになる。
「もう手すりを離しても大丈夫、普通に動いても大丈夫です」
本当に不慣れだと自分でも思いながら俺は艦内放送をする。
俺たちの船「アーク」は目的地ダガダへ出発した。
そうか、船に愛する者の名前を付けることもあるから「ラミア」とつけても良かったかなと後悔した。
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船が安定飛行になるとロザリア王女はフェイスリーのところに向かった。
フェイスリーは魔物の姿に戻っていた。
その大きな魔物の胸元の毛皮に埋もれるようにするロザリア王女。
「サンクスが一人で行って・・・・
いえ、サンクスがグレス達を手伝うために旅立ってしまいました。
本当のことを言えば、今は少し寂しいです」
「そうか、サンクスも漢になるための試練の時が来たんだね。
ロザリアは強い子だね、見送ることができたんだね。
そして嬉しいよ、私には寂しいと本当の気持ちを言ってくれて」
「えっ?、なぜ私がサンクスを涙を見せないで見送れたことがわかるんですか?
というかサンクスは、もともと男の子ですよ・・・」
「もし貴方が寂しい顔をするとサンクスは旅立っていないだろ。
でも旅立ったということは貴方がサンクスを立派に見送ったということさ。
それと、男の子は人生を賭けることを見つけて精進して、漢になるんだ」
「不思議ね。
じゃあサンクスは帰ってきたら漢になっているんですか?」
「漢というのは決まった終わりがないからね。
だからいつまでも漢を磨き続けるんだよ」
「じゃあ、いつまでも旅に出たままで、もう戻ってこないの?」
「大丈夫、好きな人に会えるくらいには漢になった時に帰って来るさ。
ただ漢を磨き続けることはやめないよ」
「よく分からないわ・・・
漢ってなに?
私は、ただいつも一緒に居たいと思っていた。
そしていまもそう願っている。」
「あはははは。
そうだね漢っていうのはバカだよ。
漢が考えているような絶対的な力なんてない。
それはどこまであれば良いのか分からないはずの力。
『自分の大切なものを守る力』
それが欲しいと『ないものねだり』をするのが漢なのさ
でも、それは大切な人のため・・・
そう、サンクスは大切な人のためにその力を求めている。
だからきっと貴方のもとに帰って来るさ」
ロザリア王女は自分を大切な人と言われて、なぜか顔を赤面させた。
いつも一緒に居てくれた、その人が今は自分を守る力を得るために離れている・・・
嬉しくもあり寂しい思いが込み上げてきた。
「すまないね、少し寝かせてくれるかな・・・」
フェイスリーは少し調子が悪そうだった。
そう言えば出産を控えているのだった。
「御免なさい、そうね、今が大切な時だったわ。
私ったら本当に配慮がないわね」
「アイシャを妹と言ってくれたロザリアは私の子供も一緒だよ。
でも、王女様を魔物の子供なんて言ったら不敬罪かね・・・」
「うれしい、お母さんと言ってもいいのね。
本当にうれしい。
あの時感じたの、私を守る炎、その豪炎であっても私を守ろうとする気持ちがわかる・・・
そんな暖かい母の炎を私に感じさせてくれた。
今は母のいない私のお母さんに間違いありません」
「ありがとう、ロザリア」
「御免なさい。
寂しかった。
いつも一緒だったサンクスが・・・
でも彼にとって大事な時期なんだ。
そう、理解することもできず、寂しかった」
「そんなに頑張って大人ぶらなくてもいいんだよ。
本当は理解なんかできなくてもいいんだよ。
まだロザリアはそんな大人にならなくてもいいんだよ。
そう、我儘でも、子供ぽっくてもいいんだよ。
でも、貴方はそんなことはできないんだね。
そう貴方は間違いなく王女だからね。
寂しくなったら、私のところへ、いつでもおいでロザリア」
「ありがとう、フェイスリー母さん。
早くアイシャに会いたい!!」
そう言いながらフェイスリーのお腹を優しく撫でるロザリア王女。
「もう少しさ。
もう少しでアイシャに会えるよ」
「お邪魔して御免なさい、じゃあ、フェイスリーお母さん、おやすみなさい」
ロザリア王女は少しにこやかに、いつも同じように笑いながら自分の部屋に戻って行った。
精霊石と魔石の拒絶反応は間違いなくフェイスリーを蝕んでいた。
言葉を話すことなど、本当はできないくらい苦しくつらい。
でもフェイスリーにとってロザリア王女は大事な存在となっていた。
それは昔、アイシャの父である愛するものと暮らしていた時に感じたものにも似ていた。
多分それは、人と魔物の種族を超えた「家族」になれたからだろうとフェイスリーは思った。




