砂漠の民 8
ザガール解放作戦。
今回の作戦で最大の問題はゴーレムを操れる魔導士がまだ数名居ることだ。
奴らを始末するには人質を解放してからでなければ存分に戦えない。
襲ってきた魔導士は全員死んだわけでは無い。
数名は確保できたのだ、だが生き残った者は捕虜になったもの同士で殺し合いを始めたので縛り上げた。
どうしたものかと思っているとラミアが誘惑(催眠)に彼らを落とした。
催眠に落ち魔導士は俺達の命令を聞かせることが出来た。
まずは本体に連絡をさせた。
「ロザリア王女を捕まえました、夜明けを待ってロザリア王女を連れて基地に引き返す」
嘘の連絡を入れさせた。
連絡を信じた本体からの返事があった。
「これで枕を高くして眠れる!!」
そう応答するとそれが罠とは知らずに本体の奴らも安心し眠りに入ったようだった。
本体が油断してくれるなら作戦は上手くいくだろう。
人質解放作戦に掛かるために最初に先行隊を編成する。
ザガールの戦士達が操るトカゲ、ダバハ。
ザガールの戦士達がこのトカゲに乗る時に布を被っている理由。
俺は背中に隠れ砂の上での虫を避けるためのものだと思ったが違っていた。
実は、ダバハは砂に潜り砂の中を移動できるのだ。
ザガールの戦士達は隠密行動をする時ダバハの背中に布に包まり一体化することで砂の中を進むことが出来た。
夜は何も見えない暗闇、そして虫たちが多くウゾウゾと這いまわり静かではない。
だからザフグルート基地近くまでの接近は簡単だ。
だがザフグルート基地の見張り番に見つかってはいけない。
そこでダバハに乗ったザガールの戦士の先行隊を四十名指名しザフグルート基地へ向かわせた、
もちろん人質の解放と確保が主な目的だ。
先行隊が基地近くまで進むと管理楼の上に明かりが見える。
管理楼の天辺からは目の良いザガール兵士が監視しているのだ。
つまり逆にザガール兵士であるから彼らにメッセージを送ることで、作戦を知らせることが出来るだろう。
メッセージを送るのは簡単だ。砂の中を移動すればいい。
そうすることで虫たちは「クルワカの虫の血」の臭いでその場所を避ける。
結果砂に虫の居ない所にメッセージが作り出せるのだ。
案の定、管理楼の頂上のザガール兵はそのメッセージに反応して明かりを点滅させた。
その光を確認すると先行隊はザフグルート基地への進行を開始した。
ザフグルート基地の周りは日干しレンガ風の壁があるが、そんなものは簡単に穴が開く。
ザフグルート基地の中では大きなテントが十張程度ある。
その中に二千人が集団生活させられているのだ。
ザガール国が従属を申し出たとしても彼らに対する扱いは人の扱いではないな・・・
テントの周りでは下っ端の魔導士が見張りをしていた。
人員的にもそんなに多くは無いのでまばらであることが幸いしていた。
数名のザガールの戦士たちが一人の魔導士に一度に掛れば声も出さずに魔導士は確保できた。
テントに入る先行隊。
その音に気付いて起き上がる人質たち。
「ミザカ、良かった帰って来たのね、グレス様の仇は討てたのね」
「違うわマロバ、グレス様は生きていたのよ」
話をするミザカの目には涙が溢れて来る。
「運命の歯車が動き出したのよ。私達は約束の場所へ誘われるのよ」
「約束の場所?ダガダってこと?」
「ダガダへの道、神獣様と巫女が現れたのよ。でも今は詳しい話は出来ない。私を信じて付いて来て」
各テントに入った先行隊は全員を静かにテントから移動させ始める。
先導するザガールの戦士が「クルワカの虫の血」を撒きながら虫たちを駆除しながら進んで行った。
その頃俺達とザガールの戦士とは基地の近くまで近付いていた。
俺はその場所に二千人が収容できる大きな結界を作り始めた。
そこでザガールの兵士を全員で「クルワカの虫の血」を撒きながら人質たちを迎え入れる準備を始めた。
やって来る人質を案内し安全を確保することを依頼しておいた。
やがて人質がひとり、ひとりと辿り着いてくる。
その顔を確認しながら親族の顔を見つけるとザガールの戦士達にも安堵の表情が浮かんでいた。
サムリもこちらに残っていたが妻の顔を見ると抱きしめていた。
「どうしたの?」
妻は驚いていた。
「会いたかった。何年も会っていないようだ」
ラミアの目を見た瞬間から彼の頭の中には妻の顔と生まれてくる子供のことで一杯だった。
それはミザカの頭の中にグレスのことが一杯になったのと同じだった。
安心したサムリはダバハに跨ると管理楼に向けて走り始めた。
「ラミア様か、この何物も恐れない俺をこんな気分にさせたのだ恐ろしい人だ。でもやっと落ち着くことが出来たイグラ様の所へ向かうか」
さて俺達だが、結果を作り出した後準備に掛っていた。
催眠状態の魔導士に使えそうな戦車にロザリアを乗せて基地へ向かう準備をして結界で明るくなるのを待った。
フェスリーはロザリアのローブの背中に回したフードの中に隠れていた。
その間に人質解放作戦は最終段階に入っていた。
グレスが管理楼に向かう。
見張りの下っ端は全て確保されていたので殆どサンブルド王国兵は残っていなかったが魔導士二人が異変に気が付いた。
「おいなんかが変だぞ?何かが可笑しい?一体どうしたことだ」
「お前もそう思うか?さっきから基地内の見回りが一人も居ない」
「様子を確認しに外に出るぞ」
そこにグレスが現れる。
「残念だったね外には行かせないよ」
激怒の戦士になるグレス。
「馬鹿め俺たちは上位者なのだ下位魔導士と同じに思うな」
「「呪縛蔓」」
二人同時に呪縛の魔法をかけ、その場から大量の蔓が伸び始めグレスに巻き付いて行く。
「その蔓は鉄線より固いのだ、たとえお前達の馬鹿力でも切れはしない」
「うっ、しまった、上位魔道か・・・」
その時後ろから激怒の戦士となったミザカが二人の魔導士の一人に襲い掛かった。
「残念だったわね、さっさと魔法を解きなさい」
だがもう一人の魔導士がミザカに炎の砲撃をかけて来た。
「うっ」
その攻撃に耐えるミザカ。
「早く魔法を解けと言っているだろう」
そう言いながらグレスへの攻撃を止めさせようと魔導士一人を締め上げていた。
それとは別にミザカへの炎の攻撃は止まず、体に火傷が広がる。
「ミザカ、俺は良いから逃げろ」
グレスの言葉が発せられるがミザカは逃げなかった。
蔓の根元に火炎攻撃が当たった。
「フレイムビット」
その攻撃に蔓は根元から枯れ始める。
「「サンクス君!!」」
魔法を出したのは連絡係として先行隊に同行させたサンクスだった。
サンクスは何時もの武器である棒を魔導士に投げた。
魔導士は魔法で棒をはじき返した。
「こんな棒で何が出来る」
「こんな棒で悪かったな!!えいっ!!」
サンクスが手でジェスチャーするだけで棒は再度魔導士に向かって行った。
「何っ?」
魔導士に再度襲い掛かる棒、必死に避けようとする魔導士だが気が付くとグレスが横に立っており魔導士はアッサリと殴り倒された。
ミザカの締め上げていた魔導士はというと、そのまま気を失っていた。
「二人とも急いで」
サンクスがそう叫んだが、グレスはミザカの肩を抱いていた。
「こりゃ酷いな」
ミザカは火傷を数か所負っていた。
「応急処置なら俺でも出来るよ」
そういうとミザカの火傷を治療するサンクス。
サンクスの治療は仮の治療だった、表面上の治療と痛みを引かせるだけだった。
「今出来るのはこの程度だけど、一度戻ってくださいラミア様なら痕も残さず治療してくれますよ」
「ミザカ、一度戻ってくれ」
「でもイグラ様を・・」
「父は俺が連れて行く、ジェイ様が言っていただろ、みんな無事であることがこの作戦の条件だと」
「分かりました、グレス様気を付けてください」
「では行きますよグレスさん」
サンクスに先導されイグラの元に急いだ。
イグラの部屋は管理等の上層にあった。
「あそこだ」
グレスに言われサンクスも急いだ。
扉を開けるグレス。
「何者だ」イグラは声を掛けた。
「父上」
その声を聞くとイグラは驚いていた。
「グレス、グレスなのか?その子供は?」
「父上、今は詳しい話はできませんが、急ぎ私と来てください」
イグラを急がせると直ぐに部屋を出て行った。
階段を急いで降りる三人。
「深夜にうるさいのはどなたかと思えばまさかねグレスだとはね?さっきの連絡も嘘なのかな?」
管理楼の入り口で待ち伏せていたのは魔導士グランズだった。
「さっきから魔導士のライフシグナルが消えていたからね、外を見ていたんだよ」
激怒の戦士になるイグラとグレス。
炎魔法で攻撃を始めるサンクス。
だがグランズは結界を張っているらしく炎魔法では動じない。
その上、身体強化魔法を掛けたグランズは激怒の戦士に匹敵する力を持っていた。
二人と一人の戦いでも一歩も引けを取らないグランズ。
サンクスも攻撃をするが全く効かなかった。
「時間が無いよグレスさん」
余裕があるのか言葉が多いグランズ。
「馬鹿め、こんなことをしても無駄だ、所詮お前達のような力だけの民は支配されるしかないのだ」
その時激怒の戦士が加勢に加わった。
「イグラ様、グレス様加勢致します」その声、サムリだった。
「何人で来ようが同じだ」
そういうグランズ。
だが明らかに三人であれば攻撃が効いている。
「「「同じところを打撃続けるんだ」」」
三人の打撃攻撃の後をサンクスが火炎攻撃する。
「馬鹿な、こんな攻撃で俺の結界が・・・」
結界が揺らぎ始め慌てるグランズ。
「お前らも道ずれだ、グラン・フレーム・ボム」
だが、その術が発動しかけた時。
「うるさいわね、寝て居なさい」
声が聞こえた。
槍が飛んで来てグランズを結界ごと貫いた。
「ラミア様」
サンクスが声を掛けた。
「女の子のミザカに酷い火傷を負わせるなんて酷い人達ね」
「この人達は?」
事情の分からないイグラがグレスに質問する。。
「我々を約束の場所に導く者です」
「それは本当なのか、伝承が本当になったのか?」
イグラは天を向き何かを願うような仕草をした。




