砂漠の民 5
飛び出す二人のサンダーボード。
始めてだというのにラミアは昔から使っていたかのように乗りこなす。
なるほど蛇行に近いバランスのとり方だ、彼女にとっては普通のバランス感覚なのかもしれない。
本当に凄い、俺などアッサリ抜かれた。
そうだ俺は未だ怖い、そうだな時速150キロを超える辺りから速度を上げることが出来ない。
なのに、いとも簡単に時速200キロ近くで走行するラミア本当に凄い。
相手集団が見えてきた。
だがトカゲしか見えない。
「人が見えないな?」
そう思っているとトカゲの背中からいきなり人が剣を持って現れた。
どうやら走行中は虫よけに布を被っているようだ。
虫よけは「クルワカの虫の血」以外にも色々な方法があるようだ。
とりあえず鉄の塊にした剣で一発殴っておく。
「ラミア取り合えず指示を出している魔導士を狙うぞ」
「了解よ」
二人で高速で移動しているためトカゲでは追いつけはしない。
そして剣を持ってトカゲから飛び出してくるものは、この速度では弾き飛ばすだけで相当なダメージを与えられているだろう。
トカゲにけん引されている貨車のようなもの、あれが戦車だろうな。
あれに指揮をしている奴が乗っていると言うことだろう。
戦車は十台が襲撃に参加していた。
まずは羽マクロの展開、俺の周りに少数の羽が作り出された。
そうだ威力はそれなりにあるのだ、多数である必要はない。
一気に羽を発射した。
戦車は簡単に崩壊し乗っていた者は高速の状態から砂に落ちた。
一台に一人か、贅沢な使い方だな。
落ちた男は魔導を使って虫に抵抗してはいたが最後には虫に襲われて絶命した。
臭いは凄いが「クルワカの虫の血」を塗っていなかったのが敗因だな。
ご愁傷様だ。
ラミアはその速度を生かし槍で戦車ごと貫いている。
その間にもトカゲに乗った者達も襲ってくるのだがこちらも弾き飛ばすだけでダメージを受けて倒れた。
あっという間に残り三台となった時、横で大きな声を出している奴が来た。
最初にトカゲに乗って襲って来たので弾き飛ばした奴だ。
その男は大きな声で叫び出した。
「お前に怨みは無いが、俺は戦士サリム、我々の名誉のために死んで貰う」
「今忙しんだ、後にしてくれ」
そう言うと速度を上げて残りの三台に向けて走り出した。
奴は『激怒の戦士』になりトカゲに乗った。
前回も見たが身体強化魔法の特殊なものだろう、魔法なのだが使っている奴らは魔法だと思っていない節がある。
しかし『激怒の戦士』になってからもトカゲは操縦できるのか?
確かに奴のトカゲは少し大きく色も黒っぽい。
驚くことに『激怒の戦士』になってからトカゲの速度は上がっていた。
物凄い力で剣を振り回すサムリ。
ラミアがその間に1台、1台と戦車を破壊していく。
だがラミアの前にも女戦士が現れた。
「私は戦士ミザカ、グレス様の名誉を復権するために死んで貰います」
ミザカという女も『激怒の戦士』になる。
だがラミアは全く相手にしていなかった。
槍の一撃でミザカをトカゲから落とすと何事も無かったようにラミアはそのまま戦車に向かってサンダーボードを走らせた。
◆ ◆
カブラから戦況を聞いていたグレスは落ち着きが無くなっていた。
「ここから出してくれ、俺をあそこに、あそこに行かせてくれ、二人を二人を止めないと、俺なら止められるんだ」
そう叫び続ける。
その声を聞いてロザリアは腕輪に話をする。
(これはジェイ様の並列意識で起動する、そうであれば私の魔力で話しかければジェイ様に話が出来る筈)
「ジェイ様グレスがその二人を止められると言っています。グレスをそちらに向かわせたいのですが、よろしいですか?」
最初は小さく聞こえるだけのその声を認識した時、俺は驚いた。
(そんなことできるんだ)
「えっ?ロザリアなのか?今は無理だ魔導士が後一人居る、そいつを片付ければ大丈夫だが」
「それでは直ぐにやっつけてください、そして結界を開けてください、私はグレスをお連れします」
「分かった、ロザリア結界を纏うんだそうすればその結界の壁を抜けられるからグレスのところで待機してくれ、魔導士をやっつけたら結界の一部を開けるよ」
だがサンクスは賛同しない。
「姫、無茶です、人質にされたらどうするんですか!!」
「私は今はこうすることが最善だと思っています、ラミア様、ジェイ様のためでもあります」
結界を纏うロザリア、同じように結界を纏うサンクス。
「しょうがない姫を守るのは俺だけだな」
にこやかに笑うロザリア。
結界を中和し隣の結界の中に入る二人。
その姿を見て「ロザリア姫」という驚きの声が漏れてくる。
思わずサンクスから言葉が出る。
「臭い・・・」
それは虫よけ用の「クルワカの虫の血」の臭いだった。
その匂いは酷くサンクスの反応は普通の人の反応だった。
だがそんな中でも姫はたじろぎもせずグレスに言葉を掛けた。
「グレスさん、あなたを外の二人の所に連れて行ってあげましょう」
「それは本当か?それはありがたい、ロザリア姫・・・すまない・・・」
だがロザリアの顔を見て、グレスは少し躊躇する。
「だが良いのか、俺たちはお前達の仇だぞ、お前達の国を滅ぼした者の片割れだぞ」
ロザリアが見渡すと知った顔が居る、王城を襲ってきた者達が混じっていた。
手を握りしめ目を瞑るロザリア。
「・・・国は無くなった、そう私はもう姫ではありません」
最初は震える声、だが強い信念があるのだろうか次からはハッキリとした意志を現すように。
「今は私の信じる道を進むことにしたのです。ジェイが信じる貴方を信じましょう。そしてあなたをジェイの所へ連れて行きます」
その気持ちが嬉しかった、だがそれに甘えることも出来そうもないグレス。
「ロザリア姫、無理をしなくても良い、結界さえ開けてくれれば俺は自分で行く」
「あなたの足では間に合いませんよ、今のままでは貴方のお知り合いは剣を引かないから無事ではすみませんよ」
そう言うと相棒を呼んだ。
「フェスリー」
その動物はロザリアの後ろに隠れていたが肩に乗った。
その動物を見た時全てのザガールの民は驚いた。
◆ ◆
ラミアは戦車に槍を投げ、その槍は最後の一台を貫いた。
最後の魔導士も片付いた。
サムリという男に向かって話しかけた。
「もう止めろ、お前達に指令を出す魔導士たちはいなくなった、お前達は自由だ」
「戯言を、私はお前を倒すことが目的だ」
「グレス達も生きているんだ、なぜ戦う必要があるんだ」
「嘘はもっとうまくつくんだな」
そう言うと、こちらの言うことなど聞かず襲うことを決して止めなかった。
「しょうがないな無いな」
俺は電撃攻撃を奴に食らわせた。
奴は倒れたように思ったのだが、直ぐに立ち上がった。
ただし虚ろになる意識を為つために剣を足に差して。
「なんでそこまでするんだよ、戦う理由などないのに」
ラミアを襲っていたミザカも同じだった。
ラミア目掛けて何度も攻撃を繰り返していたがラミアのサンダーボードの速度には追いつけないため攻撃はかわされ続けた。
「武器の無い今なら」
ミザカは何度もそう言って攻撃をしようとするが、ラミアは相手にしていなかった。
ミザカは最後の手段とばかりに持っていた革袋をすれ違いざまラミアに投げた。
かわすことに慣れていたラミアは革袋に当たってしまった。
バ~ン、バ~ン・・・
ラミアの悲鳴のようは声が聞こえた。
「きゃあ」
その革袋の中には爆裂弾が入っていた。
最も結界を張っているのだラミアは無傷だったがラミアは少し怒ったようだった。
それが証拠に彼女のサンダーボードは最大の速度でミザカのトカゲの前に進むと方向転換して止まった。
目の前のラミアの目を見たミザカは恐怖した
ラミアはミザカの乗るトカゲを殴った。
トカゲはその一撃で頭が無くなった。
頭が無くなる?そんなことが?ミザカの目の前で信じられないことが展開する。
そしてミザカに芽生える恐怖、ミザカはそのまま飛ばされた倒れた。
倒れたミザカにラミアが近づきながら言葉を掛ける。。
「手加減をしているのは分かっていたでしょ、そんなに死にたいの?」
そう言うと逃げようとするミザカを睨んで近付いて行った。
ミザカは今までに感じたこともない恐怖に取り付かれて動けなかった。
「うそ、うそ、うそ、なんで、なんで、グレス様、グレス様・・・」
その姿を見たサムリは何かを感じたのだろうミザカの所に向かって行った。
「ラミアよせ」
俺はラミアが心配なので俺はラミアの所に向かった。
サムリはミザカを助けるためラミアの頭の上に剣を叩きつけた。
「なんだと!!」
サムリは驚いた。
ラミアはサムリのミスリスの剣を素手で握り止めた。
そのまま剣ごとサムリを地面に叩きつけた。
剣を取り上げると刃の部分を持ったままミスリスの剣を握りつぶすように折った。
「なんだ、なんなんだ、お前は・・・・」
サムリもラミアの目を見た瞬間に恐怖を植え付けられた。
サムリはミザカと同様に今までに感じたこともない恐怖に取り付かれて動けなくなった。




