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砂漠の民 3

 最初に食事をした男が俺に話しかけてくる。


「俺の名はグレスこの隊のリーダーだ、今回の戦闘で一人も欠けることなくここに全員集まっていることは奇跡だ礼を言うよ。あっそう言えば名前を聞いても良いか?」


「俺はジェイ、連れが付けた名前だ」


「ジェイか、でも本当の名があるような言い方だな?本当の名前は秘密なのか?」


「連れに新しく付けてもらった名が気に入っているだけだ。それ以外に理由もないし本当の名前なんかどうでも良い」


 そうだ前の世界の名前はこの世界の人間には馴染みにくいだろう、それよりこの世界で呼ばれるならラミアの付けたジェイが一番いい。


「それよりお前達の家族は大丈夫なのか?」


「分からない、でもな今の俺達ではどうすることも出来ないな」


 その話は他のメンバーも消沈する話のようだ、みんな暗い顔になった。


「だがもし本当に水が手に入るのであれば、せめて残っている民を新たな場所でで何とか救いたい」


 グレスは頭を地面に擦り付ける様にしながら嘆願した。


「だからお願いだジェイ、水を、命の水を俺達にまた与えてくれ」

 その声は心から絞り出すような切ないものだった。


「心配するな、何とかするさ!!大船に乗ったつもりで居るんだな」


「「「ありがとう、ジェイ」」」


 気付くと周りの男達も一緒に頭を下げていた。


 そんな雰囲気で話しているとラミアが結界の窓から手を振っていた。

 ラミアの傍に行くと『中に入れろ』という手の動きに思えたので結界の中に入れた。


「俺の名前を付けた相棒のラミアだ」


「名前は冥土の救女(すくいめ)ラミア様と同じだな」


「冥土の救女(すくいめ)?」


 俺の知らないラミアの呼び名だった。


   ◆    ◆


 ラミアも壁の向こうに行ってしまった、残されたふたりに向こうの声は聞こえていた。


 その結界の壁にもたれ掛かり暗い顔のロザリア王女とサンクス。


 サンクスは面白くなさそうな顔をしていた。

「ジェイの馬鹿野郎。なんであんな奴らと・・・あいつ等もお父さんを襲ったんだ。なんであんな奴らと仲良くしてるんだ。あいつ等だって父さんの仇だ。姫だって奴らに王城を攻撃され家族を・・・、それなのに何で助けようなんてするんだ、絶対にダガダには行かない、そうだろ姫」


「私は・・・」


 ロザリア王女は膝を立てて座って膝に顔を埋めていた。


 顔を少し上げると呟くように答えた。


「私は本当に愚か者ね、何も知らなかった、何も知ろうとしなかった」


 サンクスはロザリア王女の言っていることの意味が分から無かった。

「どうしたの姫?ジェイ達に幻滅したの?」


 覗き込んだサンクスの目に涙に濡れた姫の顔が写る。


「違うわ、ジェイ様達は凄いわね。私は自分のお愚かさを思い知りました」


「なんでだよ、あんな敵を迎え入れて仲良くするジェイのどこが凄いんだ、あいつ等はお父さんの仇なんだよ、姫だってお城を攻撃されただろ」


「そうね、そうかもしれないわ。私もそう思っていた。あの時は『なんでそんな酷いことが出来るの?』って叫んでいた。でも私はその前に彼等の何を知っていたのかしら、そして彼等にどんな関りを持っていたのかしら?」


 ロザリア王女は顔をあげると両手で顔を塞ぐようにして隠した。

「そうよ何の関わりもない何も知らない彼等のことを、ただただ悪い人達と思っていたのよ」


「別に良いじゃないか。知らないことは知らないことだよ、人の道に外れるようなことをするような奴らのことなど知らないで良いんだ」


 ロザリア王女はまた立てた膝に顎を乗せる様にして話始めた。

「私はセグリア王国に育ったからセグリア王国の常識しか知らなかった。ザガール国の人は強さを求める戦闘に特化したプライドの高い民族で野蛮な人たちだと教えられた。そしてザガールがサンブルド王国に併合された時もザガール国の人は敵になったという人たちの言うことだけを信じていました」


「どこも間違ってないじゃないか、どこか間違っているの?姫様」


 ロザリア王女は少しの間沈黙した。


「でも本当はどうなんだろう?私は自分で体験してこの砂漠で生きて行くことが相当難しいことを知ったわ。だからザガールの戦士達が強さに傾倒するのも分かるような気がする。この砂漠ではあの強さが必要なのよ。そして彼らにとっての強さやプライドは砂漠で生きて行くために必要なことだと思うの。でもその最も高く大事なのはずのプライドがあるのに今彼らがジェイに頭を下げているのよ」


「ジェイが強いから、強者に媚びを売っているんだよ」


「違うわね、家族、友、同族を守りたい---そうね、プライドも何もかもをかなぐり捨ててジェイに頼っている姿。それは私達と変わらない家族や友を思う普通の愛情だと思う」


「俺達と一緒ならなんであんな酷いことが出来るんだよ」


「水・・・それを奪われた、それは皆の命の水・・だから言いなりになるしか無かったじゃないかしら?」


「プライドがある民族なら、そんなことに負けたらダメだろ!!自分達だけ良ければ良いわけない、だってお父さんは、この世でたった一人の俺のお父さんは・・・」


「満たされている時は誰でもそう言えるかもしれない。でも思い出してみてサンクス、あなたも私のために水を得ようとしてジェイに剣を向けたんじゃないの?」


「それは・・・・」


「ごめんなさい、私のためだったのは分かっているわ、本当にごめんなさい弱い私を許してください・・・自分勝手と思われても追い込まれると、そう言う行動に出てしまうことを常識や正義感だけで責めることは出来ないのかもしれない、ジェイは追い込まれている状況を何とかすることを選択しようとしている」


 無言のサンクス。


「サンクス、あのね私はジェイと一緒にダガダに行こうと思う。そこに行けば私が知らなかったことを知ることが出来る気がする」


その言葉を聞いて目を閉じているサンクス。


(馬鹿ジェイなんでこんなことをするんだ。そうだ今も分からないけどお父さんが言っていたことを思い出した。もしジェイがお父さんの言っていたことと同じこと考えて居るなら?そうだとすると・・・そうだ)


 何かを考えている様子だったサンクスは少し間をおいて口を開いた。

「大丈夫です、俺もダガダに行きます。馬鹿ジェイについて行かないと何をするか分からないからね」


 ◆   ◆


「冥土の救女(すくいめ)?」

「知らないのか?この砂漠には妖女ラミア様という妖怪が居るという話だが?」


「ああ、聞いたことはあるが?冥土の救女(すくいめ)というのは初めて聞いたよ」


 これにはラミアも同意した。

「私もよ」


 グレスは俺達が知らないと言うと得意になって冥土の救女(すくいめ)の話を始めた。

「誤解だよ。ラミア様と言うのは確かに人外な存在だ。でも我々砂漠で彼女の近くで見ている者には分かっている。ラミア様は死を迎える人に寄り添い安らかなる死へ導くものだ。人外であろうと彼女は高貴な心の持ち主さ、例えばな昔俺たちの国のには強いが頑固な戦士が居てな・・・」


 彼は彼の民族に伝わる話を沢山話してくれた。


「そうなのか知らなかった、このラミアはもしかするとその妖女ラミア様かもしれないぞ?」


「ないない、そんなことは絶対にない。だってその格好は女神レゾナンテの恰好だからね。冥土の救女(すくいめ)は女神の格好は絶対にしないよ」


「そうなのか?」

 俺はラミアに聞いてしまった?


「そうね、人外は神の怒りを買うから女神の格好はしないでしょうね」


「なるほど」

 思わず納得してしまった。

 この旅を始めるにあたりラミアが服装を変えたのはそう言う理由なんだろうか?

 

「本当にお前達は仲が良いな、なんか二人で納得しているな?」


「すまない、それよりラミア何か用なのか?」


「貴方方は砂漠に民なのでしょ、これを見て欲しいの」

 ラミアは紙を出してきた。


 紙を見たグレスが驚いて内容をまるで紙を舐めるかのように上から下まで眺めていた。


 その顔は段々と真剣になった。

「これを、これを何処で手に入れたのですか?」


「あるダンジョンの宝箱の中に入っていたのよ」


「宝箱?考えられないな」


 直ぐに分かる嘘だ、きっとラミアがそいつの最後に関わった時に預かったのだろう。

「真剣に読んでいるが、その紙はなんだ?」

「そうね、私も聞きたいわ」


 グレスは紙の内容を見せながら説明を始めた。

「これはクラバト王の伝言だ」


「「「クラバト王」」」

 全員の声が揃った。


「クラバト王は最後の王に成ってしまった。王城陥落後追っ手から逃げ延び併合された我が国を取り戻す方法を探し求めています。ただ一緒に逃げ延びていた王族達はその後次々に捕らわれ処刑されて行きました。しかし国王の所在は今も不明だったのです、その国王の伝言というか遺言です」


「 「「遺言?」」 「「では王様は・・・」」 」


 周りの者達のすすり泣く声が聞こえ始めた。


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