砂漠の民 2
デザート方面隊ザフグルート基地。
そこは砂漠の中にある元ザガール国の国民を2千人とそれを管理するサンブルド王国のデザート方面隊五十名ほどの部隊で構成されていた。
管理者達は管理楼と呼ばれる塔に住んでいたが元ザガール国民はテントのような粗末な仮住まいのままであった。
デザート方面隊バグラ隊長は報告を待っていた。
だがクレスト参謀の報告は期待しているものでは無かった。
「バグラ隊長、ロザリア王女追跡部隊の魔導士からのライフシグナルが消失しました。どうやら全滅した模様です」
「砂漠の勇者などと言われても大したことは無かったと言うことか」
「相手はセグリア王国のシルクス団長を倒した奴らですから、二十名では力不足と言うことでしょう。しかし砂漠の勇者たちはこの夜でも襲撃が出来るのです。ですから今は奴らも安心して居ることでしょうから、今から夜襲を掛けようと思います。流石に奴らも暗闇から襲われれば一溜りもありますまい」
「クレストよ、既に一度失敗しておるのだ二度目は無い。我々に失敗は許されん」
「その点は大丈夫です、ザガール兵など捨て駒です、百名でも二百名でも幾ら出陣させても惜しくはありません。この作戦の夜襲にはこれから直ぐに赴きます。そして今回は五十名を前方から先兵隊として襲撃させます。そして奴らが後退することも考えて、奴らの後方の二方向から時間差攻撃を掛けて行きます。この攻撃で休む暇も与えず、避ける方法も無いため王女を手に入れることが出来ましょう」
「そこまでの手段であれば安心だな。ゴーズ団長に良い報告が出来るように直ぐに魔導部隊とザガール部隊を調整後直ぐに出発しろ」
「はっ、了解いたしました。必ずや良き報告を齎せましょう」
クレストが指令室よりザガール分隊の指令室へ行く。
「イグラ、イグラは居るか?」
「クレスト参謀如何いたしましたか?」
「先程出発したお前達の先遣隊二十名は全滅したぞ。自慢の部隊とか言っておきながら情けないものだ、お前達も大したことは無いな」
「まさか、グレスの隊が全滅?」
「グレスだと?グレスと言えばお前の倅か?」
「その通りでございます、我が倅では力及ばずであったようです」
「馬鹿め、お前が出陣せず倅などに任せるから全滅などということになるのだ」
クレストは簡単な地図を描いて作戦を説明し始める。
「このままでは我が軍のゴーズ兵士団内での評価が下がってしまうからな、直ぐに攻撃を繰り出すのだ。次の出発のために先鋒五十名と後方二方面に二十名ずつで四十名、計九十名の出陣準備をさせろ。もちろんお前達が得意な夜襲で攻めるぞ」
「了解いたしました、直ぐに準備致します」
「そうそう、失敗した二十名の家族はまだ生かして置いてやる。だが今回失敗すれば、前回失敗した者の家族と今回参加した者の家族は処刑する。そう心してしっかり働け」
イグラは管理楼から出ると、直ぐにザガール戦士達を広場に集めた。
集まったザガール戦士達はイグラのいつもと様子の違う顔に大事が起こったことを感じていた。
いつもと違いイグラが悲しそうな声でひと言目を発した。
「グレス達が全滅したようだ」
皆に衝撃が走る、その中で戦士の一人であるサムリが聞き返した。
「イグラ様、それは本当でございますか?選りすぐりの戦士二十名がですか?」
「クレストからの話だ、間違いは無いだろう」
大声で泣き始める女戦士ミサガ、イグラはミサガに声を掛ける。
「ミサガ泣くな、勇敢に戦ったザガール戦士には涙を手向けてはいけない、その健闘を褒め讃えるのだ」
涙を流し始めるサムリ。
「『お前はもう直ぐ子供が出来るから何かあるといけない』と代わりにグレス様が出発した、まさかこんなことに。私が代わりに行っておけば良かった」
「安心しろ我が子グレスは生まれるお前の子供にお前を会わせたかったのだ。グレスは後悔などしていないだろう」
その言葉を聞いて涙を拭うサムリ。
「私などに勿体ないお言葉です」
「皆、聞いてくれ。また出陣の要請が来ている、今回は九十名だ。前と同じく元セグリア王国の王女追跡だ」
驚きを隠せないサムリ。
「まさか九十名?相手は一個師団ですか?」
「セグリア王国にそんな師団が残っている筈がない、これは予測だが居ても十名以下であろうと思う」
「そんな人数に九十名は多すぎる」
「サンブルド王国の魔導士も含めて前回二十名以上で作戦に失敗したのだ、サンブルド王国も必死で必勝の体制を取ろうとしている」
サムリが真剣な顔でイグラに申し出た。
「今回こそは私が出陣させて頂きます、必ずやグレス様の無念を晴らし我が民族の誇りを取り戻して見せましょう」
「グレスはそんなことは望まないだろう、お前は生まれてくる子のために・・・」
だがサムリは話を途中で遮った。
「私は子供には勇気を残したく考えております。グレス様を身代わりにした親がいるなど子供にとっては不幸でございますからな」
イグラは少し悩んでいたがサムリの要望を聞くことにした。
「本当に良いのだな」
「はい、後悔はありません」
ミサガも同じく名乗り出た。
「グレス様の弔い合戦です」
「お前は間違っているぞ、元セグリア王女は襲われたから応戦しただけだろう、そうだ仇などいない。それと弔い合戦などグレスは願っていない。我々は狂戦士ではないし、ただ戦うだけの物でもない。いつものミサガで在って欲しい、ミサガよ、お前の優しさにグレスは惚れたのだ」
涙を堪えるミサガ。
「でもグレスのために何も出来ないなんて残酷です」
「今は、祈ってやってくれ」
九十名の選抜は直ぐに終わった。
サムリをリーダーとする先兵隊が準備を終えた。
サムリはイグラに出陣の許可の礼を言うと勝利の誓いをした。
「グレス様を倒したものが居るのであれば私が相手を致しましょう。そして勝利しザガールの名を皆に知らしめます」
その後サンブルド王国の魔導士十名が付き添い先兵隊は出陣して行った。
だが、イグラは知らなかった、ミサガが先兵隊にこっそり紛れ込んでいることを。




