蟲毒①
砂漠を一人魔獣に跨り走る男。
元セグリエ王国の王都の警備を主に担当する近衛第三騎士団のシルクス・サーキッド団長である。
セグリエ王都では王都警備の者は王都の民にとっては英雄だった。
そしてこの男は団長であるので王都では彼の評判は高く人気者であった。
そのシルクスは行方不明になっているロザリア・エス・セグリエ王女を探していた。
ただし不思議なことに彼の団の団員たちは一人も付いていなかった。
この砂漠にまで微かな王女の臭いを魔獣に嗅ぎ分消させながらやって来たのだ。
「風に舞い散る砂で出来た砂漠と言えど、私の魔獣ゴーレズであれば臭いを嗅ぎ分けることが出来る。そうかゴーレズどうやら姫は近いようだな」
彼はそう言うと魔獣に鞭を入れ急がせた。
◆ ◆
その日の昼間、俺はサンクスがどうしても付いて行くというからサンクスを連れて狩りに来ていた。
「ジェイ見ていろよ俺の狩りの腕前を見せてやる」
自信たっぷりなサンクス、剣は折れてしまったので棒を持っていた。
「ほう、お手並み拝見だな、じゃあ今日の夕飯のネタは頼んだぞ」
期待半分で見ていた、だが小僧の狩りの腕は確かだった。
彼は棒を体の一部のように扱っていた。
そして持っていた棒を数回砂の中に叩きこむと、驚いて虫や小動物が飛び出してくるのだ。
サンクスはその瞬間を逃すことなく、棒で一気に獲物に止めを刺していた。
「見事なものだな」
「こんなのは朝飯前さ、棒術は父さんに教えてもらったんだ」
「お父さんからは剣を貰ったんじゃないのか?」
「父さんからは棒術を最初に習った、俺の得意はやっぱり棒術なんだ。剣は騎士団に入るのに必要だからということで買って貰ったんだよ」
実は棒はその辺りにあった棒を拾ったのだ。
「剣は無くても、そんな棒でも役に立つと言うことだな」
「そんな棒とは失礼だなちゃんと削ったんだぞ。本当はクルムシの木で作る長棒が一番手に馴染む武器なんだ」
「そうさ父さんはアクアのエレメントを使った魔法だけじゃなくクルムシの木で出来たこん棒二本をチェーンで結んだ形にしたものを振り回して敵を倒していたんだ、第一~第三騎士団の団長さんとも仲が良くて、よくその武器を使って模擬戦をやっていたんだ」
「その武器ってヌンチャクみたいだな」
「えっ、ヌンチャク知っているのか?それって父さんの世界の言葉なんだよ」
はあ?ヌンチャクが異世界の言葉?
もしかして前アクアのエレメントヒーローって地球人なのか?
とは言え今は誤魔化すことにした。
「俺の田舎にも言い伝えによるとそう言う名の武器が伝えられているんだ。多分だが昔、そう昔だな、俺の田舎にもお前の父さんと同じ異世界の人が来ていたのかもしれないな?」
「へえ~、どんな武器なの教えて欲しいな、どんな武器なの?」
「ヌンチャクと三節棍とかサイという武器が残っていたよ」
「三節棍?」
「チェインで三つの短棒を繋いで棒状にした多節棍の一種さ、ヌンチャクとはよく似ているな、言うなれば兄弟のような武器だな」
「父さんの世界の武器かもしれないのか、一度見て見たいなどんな武器だろう」
「しかしセグリエ王国には騎士団は三つもあったのか?」
「何にも知らないんだなセグリエ王国には役割に合わせて八騎士団あったんだ。その中でも第一騎士団は王族警護、第二騎士団は王城警備、そして第三騎士団は王都の警備をしていたんだ、俺の父さんは騎士団とは別に王直属だったんだけど、特にこの三つの騎士団とはよく連携していたのさ」
「なるほどな、小国だと言ってもそれなりの規模ではあったわけだな」
「特に第三騎士団のシルクス兄さんは父さんの親友だったんだ。王都では一番の人気者でお父さんの次に強かったんだ」
小僧の遠くを見るように回想して話す顔は実に楽しそうだった。
「そのシルクスさんは、今はどうしてるの?」
「分からない、二つの大国に分断された者たちはそれぞれの国に所属させられているらしいが、俺たちにはそんな情報は知らされないからね。シルクス兄さん元気だと良いな」
大国に滅ぼされた国は悲惨だろうな、捨て駒として戦の最前線に派遣されているのだろ。
「さてと狩りをするかな」
俺はいつもの様に太陽を集め狩りを始めた、初めて太陽の威力を見た小僧は驚いていた。
「そんなことが出来るのか、でもエレメントを感じない。ジェイは本当に人間なの?」
真顔で人間じゃないと言われると悲しいものだ。
「人間だよ、俺の力も小僧と同じで魔力を使っているんだ」
そう言っても何となく信じていない小僧。
「エレメントを感じないで魔力を魔法に変えられるなんておかしいよ、本当は魔人じゃないの?」
なるほどそう言うことか魔人ね、魔人は魔石を体のどこかに着けているものだ。
俺に葉何処にもそんなものは付いていないけどね。
「はははは魔人、俺の胸に魔石でも付いているか?」
そう言って胸を見せた。
説明だけは一度しておこうと思い少し説明口調で話してみた。
「エレメントの考え方は全てのものが五つエレメントで出来ているっていうことだが、それって無理があると思わないか?俺はもっと多くのモノで出来ているという理論を作り出して実践する者、言うなれば原子拡張者だよ」
小僧は信じられないという顔をするとあきれ顔になった。
「子供に嘘を教えてはいけないよ、この世は五つのエレメントで出来ている。実際に五つ以外のエレメントは見たことが無いよ。やっぱジェイはおかしな奴だ」
やっぱりね、根拠の説明に俺の居た異世界の話はしてもしょうがないのでアッサリ引き下がることにした。
「じゃあ、獲物も取れたので血抜き処理してら帰るとするか」
「そうだな、原子拡張者とかの戯言聞いても仕方が無いからな」
「その内信じるようになるさ、時代がその内追いついて来るのさ」
「そんな馬鹿なことは絶対に無いよ」
本当に全く信用されていないな。
当たり前だ、俺だってエレメントという話が信じられなくて魔法が使えなかったんだ。
世界が変われば考え方も違うのは仕方が無いだろう。
そして俺たちは狩りの獲物の処置をして帰途に就いた。
その男が俺たちの前に現れたのは、俺たちが狩りから帰って夜食の準備をしている時だった。
ピロロロロ~ロッ
聞きなれない動物の鳴き声が響き渡った。
「ロザリア姫様」
そう言うのが聞こえると小僧とロザリアは結界の外に飛び出して行った。
ロザリアはその男の顔が見えると声を掛けた。
「シルクス団長、よくここが分かりましたね」
小僧は涙すら浮かべていた。
「シルクス兄さん」
だがラミアは二人と男の間に立ちはだかった。
「ダメ、危ないわ二人とも、中に入りなさい」
そしてフェスリーも魔獣モードになって二人の前に立った。
「ラミア様、その人は仲間なんです。そう元第三騎士団の団長です安心してください」
何やら喧騒な雰囲気の中どうなっているのか事情が分からない俺。
「ラミア一体どうしたんだ?」
「あれは蟲毒に侵された者、もう人ではありません」
その言葉は二人の子供達には意味が分からなかった。
「ラミア様、そんなはずはありません、間違いなくシルクスです」
「そうだ、シルクス兄さんに間違いない」
こちらの状況などどうでも良いように男はこちらに近付いて来た。
「ロザリア姫様、お迎えに上がりました」
小僧たちの様子や話から、さっき小僧の話していたシルクスとういう男だと言うのは分かる。
だがさっきの話の内容と違い、俺は好感を持てるというよりその男からは薄気味悪さを感じていた。




