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わだかまりと誰だお前?④

 巨大な蜘蛛は空中に浮かぶと高速で動き回る。

 あんな大きなものが浮かぶんだ・・・不思議な光景だった


 いきなり消える蜘蛛の姿。

 高速思考で追ってみると、実際には前かと思えば横に後ろにと自由自在に高速で飛び回るため視覚から消えるのだ。

 

 高速移動で対応しないといけないのだが相手は空中だ、予測して(フェザー)を発射するが避けられてしまう。

 考えて見れば直進している状態からいきなり横移動出来るのは反則だ。


 空中から糸が降ってくるこのままでは糸に捉えられてしまう。

 ちょっとピンチになった気分だった。


 俺にはまだ余裕があった。


 だがラミアは余裕が無くなって来ていた。


 巨大蜘蛛の糸に絡まりながらその糸を爪で必死に切り裂くのだが中型や大型の蜘蛛がその間も襲ってくるのだ。

 そしてラミアは今までの大量の蜘蛛の相手で時間が掛かっているため相当消耗している。


「ラミア大丈夫か?」

 そう言うが返事は無かった。 


「この危機は私の責任だ、今更躊躇して何になる」

 なにか悲しそうな表情で、ラミアはそう呟くと変化しだした。


 ラミアの下半身が大きなヘビに変化した。

 そして中型や小型の蜘蛛の火炎や毒攻撃はその鱗の前では無意味だった。

 小型や中型の蜘蛛はラミアはその尻尾で押し潰されて行った。


 そして大型の蜘蛛もラミアの尻尾の一振りでサクッと分断された。  

 尻尾の一振り、それは加速度と重量による恐ろしい攻撃だった。


 ラミアの上空の巨大蜘蛛は糸ではらちが明かないことを認識し紫の毒霧を口からまき散らし始めた。


 蜘蛛の毒は消化系の毒だ、通常の生物は消化酵素で溶かされてしまう。

 それが証拠に小型と中型の蜘蛛はこの攻撃で溶けてなくなって行った。

 なるほど最初から使わないはずだ。


 人型を維持する魔法を使わずに済むからだろうか魔力の消耗が激しかったラミアも対抗して魔法を使いだす。

 火炎魔法を空中に向けて放つがやはり高速に縦横無尽に飛び回るため当たらない。

 それでもラミアは空中に向けて火炎を放ち続けた。


 巨大蜘蛛たちは火炎には火炎とばかりにラミアに向けて火炎弾を打ち始めた。


 その頃、俺に大量の糸が降り注ぎ、俺は捕らえられたように思われた。


 だが俺は並列思考を最大化し高速な思考状態にしていた。


 高速思考が出来ないと制御できない術式を使うからだ。


 その術式は前回使った砲弾術式、そう前回”むち打ち”になりかけた人間砲弾の術式を拡張しマクロ化したものだ。


 まずは水を空中から取り出し、ノズルの上部、つまり腰のあたりに溜める。

 その水を水素と酸素に分離しノズルに供給し放電点火する。


 一気に水素爆発が起こる、それ以降も水は空中から収集し続け水素と酸素は供給され続けるのだ。


 そして最大の変更点は柔らかい結界により上半身を固定することだ、これにより上半身は衝撃から解放される。


 もちろんコントロールもできる、水素量を変えることで爆発力は変わる。

 ノズルの上下右左の爆発バランスを変えれば、方向転換も出来る。


「ドドドッドカーン」

 大きな爆発音が響き渡る。

 そして何度かの爆発音の後糸の塊は盛り上がると、糸の塊を突き抜け、大量の炎を噴き上げ砲弾化した俺が飛び上がった。


 巨大蜘蛛は確かに巨大だが、その巨大さ故に的にはなりやすいだから錯覚を利用した動きで目を胡麻化しているのだ。


 だから近づければ、こちらのものだ、俺は雲を操り大きな放電を誘導する。


 誘導する道を作ってやれば、その中心に雷を落とせば、その通り大電流が流れる。


 そしてその形は皮肉にも蜘蛛の巣のようであった。


 巨大蜘蛛たちはその形に恐れを抱いたようだったが遅かった、俺は雷をその中心に落とした。

 大きな雷でできた蜘蛛の巣状の広がり、それに捕らわれる巨大蜘蛛達。


 蜘蛛たちの内羽は薄くこの放電で燃え始め燃え尽きた。

 そして羽を失った巨大蜘蛛たちは地面に落下して行く。


 落ちてきた巨大蜘蛛たちをラミアの爪は簡単に切り裂いた。

 雷により外骨格は脆くなっていたのだろう。


 地上に戻るとラミアも魔力を使い果たしていた。


「ジェイ大丈夫だった」


 ラミアは今の自分の状態よりも俺を心配してくれた。

「大丈夫さ、少し疲れたけどね」


 ラミアは胸に手を当て黒い霧を発生させ、そこにある全ての蜘蛛の死骸を黒い霧に変えた。

 そしてその霧はラミアに吸収された。


「ジェイ、貴方も受け取る権利があるわ」


 そう言うとラミアは俺に口づけをした。


 彼女の口から俺の口を通して魔力が流れてきた。

 少しすると俺の魔力は回復していった。


 十分に回復したので離れようとした。


「えっ?もう十分なの?」

 ラミアが不思議そうに聞いた。


「魔力はそんなに使っていないからね」

 ラミアが信じられないような顔をしていた。


「信じられない、あれだけ大きな魔法を使ったのに?雷なんて大変な魔法で魔力をどれだけ使ったことか想像も付かないわ」


 そう言われても俺は魔力を殆ど使っていなかった。


 そして俺はその時エレメントという概念が邪魔をしているのではと理解した。


 エレメントという理論は大まかな理論なのだろう。

 ものをたった五つのエレメントとかで区切るのだ、そりゃ無理があるわな当然だ。


 俺が使っているのは科学だ。

 自然の(ことわり)を利用することで本当は準備さえできれば魔力など要らない。

 だがこの世界のエレメントを使う魔力はその自然の(ことわり)すら魔力で制御しなければならないのだろう。

 だから魔力の消費が激しいんだろうと理解した。


 戯れにラミアに聞いてみた。

「ラミア今度一緒に空を飛んでみないか?」


 ラミアは一瞬で否定する。

「なんか怖いわ・・・」


「そんなことは無いよ、飛んでみて分かったけど、すぐそばに湖や町があった、砂漠の真ん中だと思っていたけど、こんなに近く町があるなんて?」


 俯くラミアは小さな声で答えた。

「驚くことは無いわ、私はそこまでジェイを送って行くつもりだったから」


 「送って行く?」突然だった、ラミアが何を言っているか分からなかった。

「俺は町なんかに行きたくないな、出来ればラミアと砂漠中を旅していたいよ」


 だがラミアは俯いていた。

「ジェイは特別な人、そう貴方にはきっと何かを成し遂げなければならないことがあるのよ」


「ラミアどうしたの?、なんかおかしいよ?」


「ジェイとは町までよ、そこでお別れよ、貴方は人間の世界に戻るのよ」


 この時初めて、ラミアが積極的に道を選んできたわけが分かった。


「なんで、なんでだよ、そんなことって、そんなことって」

 俺は目の前が真っ暗になって行くのが分かった。


「ダメだ、今のまま一緒に旅をするんだ」


 ラミアは何も答えなかった。


 だが少しして沈黙していたラミアの顔が強張り戦闘態勢になった。

 弱電センサーを張っている俺にも分かった後ろから誰かが近づいて来た。


「水と食べ物を持っていたら少し分けてくれないか?」

 子供の声だった。


 後ろを振り返ると剣を俺に向けた子供が荒い息をしながら赤い顔をして立っていた。


 取り込み中の俺たちにお構いなしでその子供は再度要求してきた。

「水と食べ物を持っていたら少し分けてくれないか?」


「子供のくせに強盗か?」


「違う、分けて欲しいだけだ」


「剣を突き付けて、何が分けてくれだ、大体何なんだお前は、誰だお前!!」


「俺は強盗ではない、アクアのエレメントの勇者(ヒーロー)の子だ」


「はぁ?」


 『アクアのエレメントの勇者(ヒーロー)の子』

 その言葉を聞くと呆気に取られて次の言葉が出なかった。


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