大賞『ユア・フォルマ』、そして金賞
こちらもゴールド帯となっております。
推薦文は4年前に『86』で大賞を受賞された安里アサト先生。
「緻密に張り巡らせた謎を読み解くにつれ<ユア・フォルマ>というタイトルに秘められた意味に戦慄させられる」
おや。これはなんとなく期待させられますね。
では序盤。多くの方もそうだと思いますが、私は攻殻機動隊を連想しました。してない方はたぶん読んでないだけなので、是非とも目を通してもらいたいものです。できれば士郎正宗が描いた漫画版、というか原作を。そこいらのSFラノベよりずっと面白いです。
話が逸れました。
このお話の主人公エチカは人間の脳にダイブして情報を集める“電索官”と呼ばれる仕事をしています。そしてこのダイブには潜った電索官を引き上げる“電索補助官”必要となります。この引き揚げ作業、かなりのダメージが補助官へいくようです。
ダイビング能力が高すぎるためパートナーを次々に潰してしまうエチカの前に現れた新しい電索補助官ハロルド。彼は今までにないほどの耐久力でエチカのダイブを補助します。平気なのです。なぜなら彼はアンドロイドだったからです。
さて、ここで物語にもう一つのテーマが発生します。アンドロイドは機械かヒトか?
作中では“機械派”と“友人派”という構図でささやかな対立があります。
一つの話に何個もテーマはいらないとは思いません。3つあっても4つあっても構わないです。
ただ事あるごとに「お前機械だろ」「人間だって電気信号で動いている」ってやりとりがあって辟易とします。エチカが事件解明を進めながら(でもハロルドは機械なんだよなー)って、まあくどいです。
攻殻機動隊の第二話。草薙素子がアンドロイドと話しているシーンがかなり長くあります。情報を共有しつつ驚いたり、呆れたり、嫌味を言ったりしているのですが、アンドロイドがハッカーによって内部破壊されます。そのつぎのコマです。
「行くぞバトー。そいつはただのスピーカーだ。公安部が修理するさ」
と一言残して戦闘へ向かうのです。ロックですねぇ。
閑話休題。
ロボットと心、アンドロイドと人権を扱った作品は70年前80年前から絶えずあるものです。代表的なのは『鉄腕アトム』でしょうか。
それだけに鋭いキレが欲しかったのですが・・・まあ、なかったですね。
さて『ユア・フォルマ』は『忘却の楽園』と違い1冊で完結します。かなりキレイにまとまりました。
が、巻末に2021年夏に2巻の発売が告知されています。
これ以上何をするのでしょうか。エチカが実はアンドロイドだったとかいう話でもするんでしょうか。まあ、しないですね。となると「お前機械やんけ」の再放送は確実。ちょっと2巻は追えないかな。
それにしても皆様は受賞作の結果や内容に満足しているのか?とカチカチしたところ興味深いものを見つけました。
金賞 4位→ 3位→ 7位
大賞 5位→ 6位→11位
銀賞 11位→14位→20位
受賞作品が発売してからの3日間のライトノベル売り上げランキングです。
一番売れたのは、私が選んだ銀賞でもなく、一等賞の大賞でもなく、金賞。それは香坂マト先生による
『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』です。
私が「なろう系」だなーとチラ見して、試し読みで「やっぱりなろう系だわ」と購入を控え、そして今レビューを眺めて「最後までなろう系」だったことを確認しました。
ここで第27回電撃文庫小説大賞は敗北の年とします。
「なろう系」を超えられなかった応募者の敗北。
時代を読めず、一作品しか「なろう系」を選出できなかった審査員の敗北。
第28回の締め切りは丁度昨日まででした。もう座して待つ他ありません。
来年こそは、是非とも勝利に満ちた作品を読みたいと思う次第であります。