閃光は暁に刺す
『少女との出会いが、青年にもたらしたものは何か? 花火が繋いだ、一冬の物語』
「花火、売ってもらえますか」
冬に浴衣という季節外れのいでだちで現れた少女、旭は、花火師の父を持つ主人公暁青年に、おずおずとそう告げた。
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そんな二人の交流を描いたヒューマンドラマです。
恋と呼ぶほど大袈裟ではなく、けれど、少女のお願いや、「一緒に花火をしませんか?」という誘いを無下に断ることはできないほどには、少女は不思議と魅力的で。
材料を集めて線香花火を作り、駄菓子や玩具を買い求めて少女と戯れる。
冬なのに、夏の空気感すら感じられる情景描写と、段階的に移り変わっていく暁青年の心情が、丁寧な筆致で綴られるのが、なんといっても本作の魅力でしょうか?
なぜ、少女は青年の前に現れたのか?
少女との出会いにより、彼を取り巻く環境がどう変化したのか?
僅か六千文字とは思えぬ濃厚な世界観と、ちょっと切ないボーイミーツガールの甘酸っぱさに、触れてみませんか?
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前回に続いて、短編作品の紹介となります。
とある町の郊外にある寂れたトタン小屋。ぼんやりと、一人くすぶっていた主人公のもとに、浴衣姿の少女がやって来る、という場面から始まる物語。繊細で丁寧な情景描写が冒頭から描かれるため、読み始めから比較的文字が多いです。ですが、その中にさり気無く主人公の葛藤であり人となりの情報などが混ざってくるため、すっと物語の世界に入っていけるのです。
ここが本作の実に上手いところ。
作品の設定を並べる部分というのは時として退屈になってしまうのですが、そこに〝心情〟を混ぜ込むことで、物語を飽きなく読ませることができるのですね。
情景が目に浮かんでくる丁寧な筆致。リズム感良いの文章もあいまって、文字数のわりにするすると読み進めることができます。
面白い作品というのは、一ページ読んだだけで分かることが多いのですが、本作はまさにそんな感じ。
上手いのは情景描写だけではなく、物語の構成もまた巧みです。
主人公のもとに少女がやって来た、という事実から段階的に真相が明かされていくのですが、情報が増えるたびに状況(含む、主人公の心情)が変化していく様が描かれているのです。
ネタバレになるので多くは語れませんが、短編とは「かくあるべき」という構成の上手さだと感じました。
季節外れの浴衣と花火に彩られた爽やかなボーイミーツガールの世界観に、今こそ浸ってみませんか?
僅か六千文字とは思えぬ濃厚な人間ドラマが展開される、オススメの、短編作品です。
※こんな人にオススメ
・青春モノが好きな方
・情景描写が巧みな作品を読みたい方
・完成度の高い短編作品を探している方
作品名:閃光は暁に刺す
作者名:平賀・仲田・香菜様
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕
作品URL:https://ncode.syosetu.com/n1574gu/