マウントマウンテン
学校の課題で書いた文の消化です。
大分尻切れになってしまってるかも・・・。
眩しい光に思わず目を瞑ってしまっていた。
目を開くとそこには“見慣れない景色が広がっていた“だったらわくわくしたのだろうが、残念ながら見慣れている景色が広がっている。
せっかく異世界転生物語でよく見るような導入ができると思ったのに残念だ。
でもいつもよりサイズ感が小さい。というより良く見えない。あそこに町があるな、と気づけても人の行き来までは、目視できない。
この全体像を見て、子供のころ学校の授業で見ただけなのに意外と覚えているものだなと少し自分自身に感心した。
ここは間違いなく日本のようだ。さらにこの場所は群馬県。あそこに有名な大型ショッピングモールの看板が見える。
見渡すと、山々が堂々とそびえ立っていることが分かった。むしろそれくらいしかわからなかった。
北は北海道、南は九州まで。沖縄半島はさすがによく見えないが、何となくあるのだろうという程度で見える。ここからだと一部富士山に阻まれて見えない部分があるが、おそらく富士山がなければその向こうも見えるのだろう。
これから何をすればいいのだろうか。この状況を理解しても何も進まない。どうにかしようにもここから動くことができない。
これからのことをどうにかしようとして、いわばどうにもならないことをどうにかしようとしたが、結局妙案は思いつかなかった。
このままではセンチメンタリズムに影響してしまう。
そこはサンチマンタリスムだろだって言いたげだな。うるせえ、これは下人の話じゃないのだ。
とりあえず周囲をもっと把握しようと背伸びをしながら北海道の方へ目を向けていると、背後から声をかけられた。
「おお、新人がくるなんて珍しい。君はどこにいるんだい」
声をかけられた方へ顔を向けると、さっきまでそびえ立っていた富士山の姿が消えてしまったかわりに、富士山があった場所に立派な白髭を蓄えて青いちゃんちゃんこを着た老人が一人立っていた。いや、浮かんでいた。
老人が浮かんでいるという頭のおかしい状況よりも、日本のシンボルでもある富士山が消失しているということの方が理解出来なかった。頭のおかしさで言えばどちらもさほど変わりは無いのだが。
「新人だからまだ誰とも話をしていなかったのか。それはすまないね」
「おじいさん、これはどういうことですか。なんで浮いていられるんですか。富士山・・・・富士山はどこへ消えたんですか」
「がっつかなくてもしっかり説明するぞ」
「まず、何で浮けるのかなんじゃけど・・・。だってわしたち、死んでるからね」
「なるほど、死んでいるからか」と心の声が漏れ出た。
しかし、それだけで納得できるわけがない。危うく納得しかけていたのだが。
「死んでる!? 死んでいるのに何で会話が出来るんですか」
「理由は分からないんじゃけど、なんらかの事故で死んだ人間の魂が残って、死ぬ前の記憶を持ったままこの状態になるらしいんじゃよね。俗に言う異世界転生の異世界要素がなくなったようなものじゃ」
異世界転生は異世界だから良いんじゃないのか・・・。
「分かりました。そんな霊魂不滅思想みたいな考えたかを受け入れるのは難しいですが、実際目の当たりにしてますし受け入れるしかないのでしょう」
と言ってみたものの、死んだ実感はないし、なぜ死んだのかどのように死んだのかも覚えていない。
自分が死んだ状況に関して想像していると、老人が続けた。
「次に富士山の行方なんじゃけど、おぬしの目の前におるじゃろう」
僕の目の前に立っているのは浮かんでいる髭の老人だけだ。それともまた宗教チックな話が出てくるのだろうか。
「すいません。僕には見えないんですよ。さっきまで富士山に遮られていた景色も見えるようになりましたし」
「いや、じゃから、おぬしの目の前におるじゃろうて」
生前の人間がぼけていたら魂もぼけてしまうのだろうか。介護が必要になっていた認知症の母を思い出す。介護は兄夫婦がやってくれている。
「ですから僕には山なんて見えないんですよ」
あたりを見渡してもやはり富士山らしき姿は見当たらない。あんな大きな山を見失うわけがないだろう。
「見るのは山じゃなくてわしね。わし富士山だから」
とうとうこの老人はぼけてしまったらしい。いくらこの老人を見たところで、富士山に見えるわけがないだろう。
「その顔はこいつ頭がおかしいと思ってる顔じゃろ。失礼な奴め。わしらの魂は山に宿ってるんじゃよ。わしが出てきとる間、富士山は消えるんじゃ。おぬしだって出てきて居るんじゃから、おぬしの山も消えとるはずじゃ」
なんともおかしな話だが、魂やら空中浮遊やら非現実的なことを聞かされいるため、そこまでおかしいとは思わなかった。もうすでに僕も重傷なのかもしれない。
というか老人に言われて気づいたが、僕自身も浮いている。サイズ感が小さく感じたのは、自分が高いところにいたからなのか。
「わしは、富士山に魂が宿っておる。つまりわしは富士山なのじゃ」
老人は自分を富士と名乗った。
富士山ならば“富士山さん”となりそうなのだが、彼自身がそう名乗っているのでそう呼ぶことにした。周りの山たちにもそう呼ばれているらしい。というより、富士さん以外にも他に山がいるらしいのが少し怖い。
「状況は飲み込みました。でしたら僕は何の山なのでしょう」
疑問に思ったことを口に出してみると「そんなのしらん」という冷たい返事が返ってきた。
「そんなのおぬし自身で確認すれば良いじゃろう。わしくらい有名な山だと一目で分かるんじゃがのう。おぬしみたいな地方の山じゃとわからんよ」
群馬に有名な山はある。しかしそれがどこにあるかと言われると少し頭をひねる必要があるくらい群馬の山については無知だ。位置や方角はもちろん、大きさも形も知らない。
「すまんのう。わしは山の中でも古株のはずじゃし、そこらの山なら知ってるはずなんじゃが、おぬしがどこの山か見当も付かぬ」
富士はそこからも、「わしは古株じゃ・・・。物知りなんじゃ」としばらくブツブツつぶやいていた。
それを聞いているとだんだん「おぬしは、全くの無知で、それに加え、わしでさえ知らない有名じゃない山に宿ってかわいそうじゃのう」と馬鹿にされているように感じてきた。このジジイ僕に「自分は博識で経歴が長い」とマウント取ってきてるのではないだろうな。
やっぱり彼は人ではなく山だと痛感する。
なぜかと聞かれると思うので話しておこう。上着を一枚着てほしい。
「山」と「マウント」もうおわかりになっていただけるだろうか。
僕は富士のようにならないようにしよう。
ご清覧ありがとうございました。
「下人ではない」って言い回しを気に入って二作品で使ってしまっていました・・・。
いずれはこれをリメイクしてそこそこ長い文にしようかなと思っています。
最後になりますが、感想、意見などございましたら遠慮無く言ってください。それを糧に、土台にますます良い作品を作りたいと思っていますので何卒よろしくお願いします。




