野宿の時間
カーテンから差し込む光を眩しそうに見つめると、私はソファから降り、カーテンを全開に開けて光を全身にあびる。
「リュー。」
まだ太陽は昇りきっていないため、少し肌寒いがとても気持ちの良い朝だった。
今日は早起きしちゃったな。
腕を伸ばして体全体で延びると自然と深呼吸をしてしまう。
冷たい空気をいっぱいに吸い込むと、少しずつ目が覚めてきた。
朝の初めに体を動かしていると、ヴィル様が起きたのか寝室の扉が開いた。
「リュ。」
おはようございます。
開いた扉に向かうと、案の定まだ寝癖の着いたヴィル様が起きてきた。
「ん?あぁ、フィー起きていたのか、早いな。」
そのまま、私に気づくとヴィル様は寝ぼけているのか優しい笑みを浮かべて挨拶をしてきた。
ヴィル様、朝からその笑顔は反則です。
キラキラと輝くような笑みが眩しかったので、両手で顔を覆うとヴィル様は何をしているのか分からないと言うように首をかしげた。
とりあえず、シャワーを浴びるように促すと、ヴィル様は従うようにクローゼットから着替えを取りだしシャワールームへと向かった。
「リュ!」
ヴィル様がシャワーを浴びている間に、私は荷物の確認とチップを置いて、いつでも出られるように準備した。
そうこうしていると、ヴィル様がシャワーから上がったので、濡れた髪を乾かすために魔道具を使い温風を起こしながら櫛でとかすと、あっという間に髪が乾いた。
ヴィル様の準備が終わると、今度は時間が余ったので外に散歩にでる。
「リュー。」
ヴィル様の肩の上で、飛ぶように羽を動かしながら外の空気をおもいっきり吸い込むと、周りに咲いている花や草の匂いが一気に体に入ってくる。
冷たい風が鱗を撫でて、まだ朝が明けきれていないことを教えている。
そんな中で、ただ少しヴィル様に触れているところが暖かくて心地よかった。
散歩が終わり部屋に戻ると、ヴィル様は私を連れて食事を食べに階段を降りる。
昨日は、まだ来たばかりであまり大勢人がいるところは心配だからと部屋で食べていたが、今日は朝早くに行くので大丈夫だろうと言うことになり現在店主のおばちゃんに頭をぐりぐり撫でられている。
「可愛いお客さんだね。
あんた、まだ子竜だろ。これ食って早く大きくなんな。」
おばちゃんは、私の事を変身が出来る魔獣だと勘違いをしているためなんの躊躇いも無く接してくれた。
すると、おばちゃんはサービスと言って店の看板メニューであるクルック鳥のトマトスープを出してくれた。
「リュ!!」
赤いトマトのスープにシェルマカロニのようなマカロニと大豆やひよこ豆や黒豆などの豆類に加え、クルック鳥という鳥の肉が大きく皮ごと入っており、食べると口の中に鶏肉の油が広がり後にトマトの酸味が広がるため、すっきりした飲み口になっていた。
お腹いっぱいになると、いつのまにか降りて来ていた他の客がじろじろ私を見ていることに気がついた。
「あんたたち、この子は恐がりなんだ。あまり見てやるんじゃないよ。
それに、この子は白竜じゃない。
ただの恐がりな魔獣なんだからあんたらが狙っても意味がないよ。」
「リュー。」
自分を見る目が怖くなり、思わずヴィル様にしがみつくと無言で私をマントの下に入れて視線を遮ってくれた。
ヴィル様ありがとうございます。
マントの下でヴィル様に体を擦り付け甘えると、ヴィル様は下ろしていた手で背中を優しく撫でて安心させるように支えてくれた。
しばらくするとオリビアとアルジーク、アリシアが降りてきたので、皆で食事を済ませ手配していた馬車に荷物を積んで出発した。
「それにしても、食堂にいた時のフィーちゃん可愛いことになっとったな。
どないしたん?」
オリビアがマントの下に隠れていた理由を楽しそうに聞いてくると、ヴィル様のマントから出た私は身振り手振りで説明しようと試みた。
「リュ、リリューリュ。」
一生懸命に説明するが、あまり伝わっておらずオリビアは首をかしげた。
息切れしながら伝えようとするが伝わらないのを見かねたヴィル様がオリビアに食堂であったことを説明すると、オリビアは納得がいったように「あぁ!」と声を漏らした。
「まぁ、それは仕方ないな。
フィーちゃん可愛ええし。」
笑いながら、仕方ないと言うオリビアに落ち込みながらヴィル様の膝の上で頭を垂れていると、ヴィル様は優しく背中を撫でた。
「大丈夫だ、お前は俺が守ってやる。
だから安心して、今の旅を楽しめ。」
ヴィル様に励まされていると、本当に安心するためか背中を撫でられながら眠りに着いた。
気がつくといつの間にか予定していた野宿のポイントについていた。
今度はオリビアさんの膝の上に寝ていたためか、起きると何故かアルジークに羨ましそうに見つめられた。
あれ?これはもしかしたらもしかする?
「リュ。」
オリビアさんにお礼を言うと、自分も手伝うというジェスチャーをしてヴィル様の元へ向かい、野宿のための道具をおろした。
と言っても、任されたのは干し肉などの軽いものと、毛布などの持ちやすい物だけだけどね。
その後、みんなが食材を取りに行っている間オリビアさんと薪拾いをして火を起こしていた。
「リュ、リュ、リュ。」
一生懸命薪を拾いながら火を起こすと、一気に周りが暖かくなり、ホッとしながらみんなの帰りを待った。
しばらくすると、ヴィル様達が獲物を大量に捕まえて帰ってきた。
ヴィル様はジャイアントボア二匹にクルック鳥一匹その他果物などの植物。
アルジークくんは、ウサギ三匹に川魚が五匹。
アリシアさんは、キジ一匹にクルック鳥三匹ボアが一匹だった。
「リュ!」
そんなにどうするんですか?
余りの大収穫に驚きつつオリビアさんを見ると、まるで何も無かったかのように取ってきた獲物の血抜きをしていた。
「しかし、今日はまるで取れへんかったな。」
え、この量で?
「仕方ないんじゃないか?
最近この辺りに竜が出たって噂だし。」
マジですか?
「そうだな、欲を言うならもっとほしいがな。」
どんだけですか。
私の常識では取りすぎと言っても過言ではない量でもまだ足りないとおっしゃいますか。
取ってきた獲物を運びながら、アリシアさんに野菜を洗うように言われたので、オリビアさんと野菜を持って川に向かう。
「リューリュ。」
同じくらいの大きさの籠にたくさん野菜をいれているため足元がふらつき、たまに木に躓きながらなんとか川に着くと、川下に網を引いて野菜を洗う。
鱗が滑るため、頻繁に野菜を流しながら拾って洗う事を繰り返し、全て洗い終わる頃には何故か息切れしていた。
「大丈夫?」
地面に寝転がり動けなくなっていると、追いかけてきたのかアルジークくんがやって来た。
「あれ、もう終わっちゃいました?
手伝おうと思ったんですけど、少し遅かったですね。」
ごまかすように頭をかき、当たり前のように荷物を持つと、私を抱えているオリビアさんに手を差しのべ、満面の笑みを浮かべた。
「さぁ、戻りましょう。
皆待ってますよ。」
森の中で疲れて抱えられている私を無視して軽いラブコメ展開が始まると、私はだんだんと二人の微妙な空気に堪えられなくなり、腕からぬけだして皆の元に着くと、ヴィル様の膝に飛び乗ってマントの下に隠れた。
「あら、どうしたのかしら。
何かあったの、アルジーク。」
威圧的な視線を送っているアリシアさんにかまっていられるほど余裕なく、マントの下で赤面している私は食事が出来るまでマントの下から出られなかった。
その後、食事の後にアリシアさんに連れていかれたアルジークくんは翌日小さい声で謝って来たのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この調子でどんどんあげていきたいとおもうのでよろしくお願いします!