仲間の証
目が覚めると、なぜかいつも使う宿屋の部屋にあるベッドの上に寝転がり、天井を見上げていた。
「気が付いたかしら?」
「あぁ、もう大丈夫だ。」
何があったのか思い出し少し落ち込んでいると、隣にいた女性が話しかけてきた。
「珍しいわね、貴女が契約で倒れるなんて。」
「あぁ、恐ろしい程の魔力だった。」
深刻そうに声を低くしていると、指にくすぐったい感触が触れた。
そこには、心配そうに涙を流し契約の儀式でできた切り傷を寝ながら舐める小さな子竜の姿があった。
「リュー...。」
白い鱗は汚れ、小さな声は不安気に揺れていた。
「その子が貴方をベッドまで運んで、私を呼んだのよ。
相当頑張ったんでしょうね。
大丈夫だからお風呂に入れようとしたんだけど、貴女から離れたがらなくて。」
「そうか。」
俺は空いている手で小さく軽い体を抱き上げ、胸元に引き寄せると優しく撫でて契約の紋を見つめた。
「よし。」
契約に不備がないか確認し終えると、一言発して笑った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
...えーと、これはどういう事なんですかね。
どうして、今まで苦しそうに寝ていた人が私の頭を撫でながら微笑んでいるのでしょう。
「リュ?」
私が起きたことに気付いたのか、抱き直して今度はヴィル様と同じ目線の高さまで上げられた、首を傾げながら対応すると、ヴィル様は真剣な顔でうなずき、私をシーツの上に降ろして懐から赤いリボンを取り出した。
両端に赤の飾りが付けられ、レースで飾られたリボンを私の首に結ぶと、満足そうに笑った。
「あら、可愛い。」
少し動くと、飾りが音を立てシャランと綺麗な音色を奏でた。
「リュ?」
なになに、何でただのリボンからこんな綺麗な音出るの!
てか、確かに子竜がリボン着けたら可愛いけど、精神だけは大人にされた私にこれはきつい。
穴が有ったら入りたいー!
「リュー。」
しかし、これどうなってるの?
ただのビーズに見えるけど。
気になって首に巻かれたリボンを見ようとするが、頑張りすぎてこけてしまった。
それはもう、コロンと可愛く転がってしまったのです。
その性か、ヴィル様が笑いをこらえて頑張っているように見える。
「リュー。」
不満を込めて鳴くと、ヴィル様は堪えきれなくなったのか吹き出した。
「リュー!」
笑うなー!
おこって、ヴィル様の胸をポカポカ叩くと何事も無かったように隣の女性に話しかけた。
彼女の名前はオリビア・オスカーナ、ヴィル様の仲間で、精霊使いだ。
「それで、俺はどれくらい眠っていたんだ?」
「ほんの1時間程度よ。」
いやそれ、ほんのって言わないから。
とりあえず心の中で突っ込むと、言っていて虚しくなった。
「リュー。」
一人で自爆していると、ヴィル様が心配していると思ったのか、頭を撫でてきた。
「さぁ、それだけ汚れてしまってはせっかくの白い鱗が台無しだ。
風呂に入れてやる。」
「リュ?」
わーい、お風呂だー。って違う!
今何て言った?一緒にお風呂?
ムリ!
急いでオリビアの後ろに隠れると、逃げられたのが驚いたのか、ヴィル様が固まった。
その隙にオリビアを引っ張りお風呂場まで行くと、ようやく理解したのかオリビアは服を脱ぎ始めた。
「あら、やっぱり貴方女の子だったのね。」
「リュ!」
勢いよく頷くと、オリビアは楽しそうに笑ったあと、精霊に何かを頼んだ。
おそらく、誰かにフォローを頼んだのだろう。
オリビアに洗って貰い、全身森にいたときよりも綺麗になり出ると、ヴィル様はリビングのソファに腰をかけ、安心したように力を抜いた。
どうやら、オリビアの呼び出した誰かがうまくフォローしてくれたんだろう。
グッジョブ。
密かにガッツポーズをきめると、ヴィル様のもとへ向かい足にすり寄った。
「リュー。」
ヴィル様は私をかかえ、ソファに降ろすとキッチンの方から来た人物に礼を言った。
「お前のいった通りだった。
ありがとう。」
「どういたしまして。
まったくお前は焦りすぎなんだよヴィル、少しはこいつの事も信用してやれよ。」
奥から出てきたのは、オリビアの弟件、パーティーメンバーであるアルジーク・オスカーナだった。
オリビアさんが呼び出してたのって、アルジークさんだったんだ。
「そうよ、ヴィル、フィーちゃんはあなた自分の使い魔になったんだから、性別くらい把握しておきなさいよね。」
オリビアさん、その言い方だとまるでヴィル様が私の性別に気付かずに契約したように聞こえるからやめて下さい。
「あぁ、次からは気を着けよう。」
え、ヴィル様否定してくれないんですか?
まさか、本当にヴィル様に女の子と思われて無かった感じですか!?
それは、少しへこみますよ... 。
足元で落ち込んでいると、いつの間にか話が跳んで、次の行動をどうするかと言う話になった。
「とりあえず、王都に戻ってギルドに依頼の完了を申請してからフィーリルの使い魔申請をした方が良いだろうな。」
「そうね、白竜の子供なんて申請しても心配な位だものね。
さっさと心配事を少なくするためにも、申請は早めにしておくべきね。」
おそらく、私はとても珍しい種類のドラゴンらしいとは思っていましたが、そこまでですか?
どうやら、本当に自分はヤバイくらい珍しいらしいと自覚すると、今度はヴィル様と契約したことを後悔した。
おそらく、この世界の裏では人身売買の類いが盛んにおこなわれている(本で読んだ)ため、もしも私を標的にされた場合ヴィル様やみんなに迷惑をかけてしまう。
「リュ!」
それだけはいやー!
かといって、ヴィル様から離れてあのもといた森に戻るのも嫌だし、一人で生きていける自信なんか無いし、どうしよう。
一人自問自答しながら悩んでいると、アルジークさんが気付いて抱き上げてくれた。
「どうした、不安なのか?
大丈夫だって、俺らもヴィルも強いんだぜ、もしそこら辺の犯罪組織が来たってちょちょいのちょいだぜ。
それに、お前はもうこのパーティーの仲間なんだから迷惑かけたって良いんだよ。」
安心させるように笑って見せると、周りで予定を話していたみんなが当たり前と言うように微笑んでくれた。
少し泣き出しそうになり、下を向くとリボンに着いた飾りがシャラと鳴った。
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