契約の時
ヴィル様に拾われたその後、私は見事フィーリルという名前を着けていただき、更にヴィル様の名字であるフォン・クライストもいただきました!
晴れて私フィーリル・フォン・クライストはヴィル様と共に行動し現在に至るということです!
そうして、1人ぼっちの森から拾われた私はどこかの宿の一室でばんざいをやっています。
「リュー。」
両手を上に上げ下げして遊んでいると、部屋の扉がノックされ、その向こうからスープの美味しそうなにおいが漂って来た。
「フィーちゃん、ご飯やで。」
そして、部屋の中に若い女性の声が響いた。
あ、アリシアさんだ!
この人は、アリシア・フランベール私のご主人様であるヴィル様のパーティーでマジックアーチャーを担当している女性で、茶色の髪を三つ編みにして一つにまとめており、緑の瞳には不思議な黄色い光りが漂っている。
急いで寝室から出て、アリシアのもとへ駆け寄る。
「リュー!」
足元まで行くと、頭を撫でられお盆の上のスープを渡され、スプーンでそれを口に運ぶと、口の中にトマトのような酸味とコンソメの塩気が広がり、あっという間に完食してしまった。
あー、もう食べ終わっちゃった。
「リュー。」
悲しそうに鳴くと、アリシアさんは笑いをこらえて鞄の中からリンゴに似た味のアプの実をくれた。
「リュー!」
一口かじると、甘酸っぱい味と香りに段々顔が緩くなっていく。
おーいしー!!
夢中でかじりつき、これもあっという間に完食してしまった。
両手を頬に持っていき、口に入っているものも飲み込むと、アリシアさんにお礼をいう。
「リュ。」
両手を前に持ってきてお辞儀をすると、アリシアさんは笑いながら「どういたしまして。」と返し、膝の上に私を乗せるとドラコンの弱い部分であるお腹の柔らかい部分をくすぐり始めた。
「こちょこちょー♪」
ちょ、いきなりなんですかー!
「リュ?」
や、やめてー。
「こちょこちょー。」
「リュ、リリュ。」
苦しいー。
アリシアさんはしばらく私で遊んだ後、「また遊ぼうな。」と言って出ていき、交代するようにヴィル様が入って来た。
おかえりなさーい。
「リュー!」
先ほどの疲れはどこかに飛んでいき、元気いっぱいにヴィル様のもとへ駆け寄ると、ヴィル様は屈んで抱き上げてくれた。
「遊んでもらっていたのか?」
「リュ!」
返事をするように鳴くと、ヴィル様は優しく微笑んだ。
う、笑顔がまぶしい。
まぶしそうに目を細めていると、ヴィル様は分からなそうに首を傾げた。
もぅ!何なんですかその可愛いしぐさは!
今度は悔しそうに鱗を叩くと、ヴィル様は私を床に下ろした。
違いますよー、下ろして欲しいときの行動では無いですよー。
「リュー。」
両手を上げて抱っこをねだるとヴィル様は私を持ち上げ、歩いて部屋の中央にドカンと置いてある猫足のソファへ腰掛けた。
「フィーリル、お前は親に捨てられた。
だから、これからは俺がお前の親代わりだ。」
「リュ?」
何を言ってるんですか?
訳が分からないままヴィル様の話に耳を傾けると、つまりこういう事だった。
私は、白竜の子供で生まれてすぐ親に捨てられたため、たまたま見つけたヴィル様が親になる、そのためのルールを提示したいのだそうだ。
一つ目、ヴィル様は私の親代わりとして必要な事を教える。だが、その為にはヴィル様と契約を交わさなければならない。
二つ目、一刻も早く人形が取れるようになること。
三つ目、命まで狙われる可能性があるため、人形に慣れるまでなるべく一人にならないようにする事。
四つ目、もしも、拐われたもしくは襲われた場合は契約の紋章からヴィル様を呼び出す事。
などを、守るようにとの事だった。
「リュ!」
了解しましたー。楽勝です!
いつものように返事をすると、ヴィル様は置いてある家具をどかし、荷物から大きな布を取りだして床に敷いた。
思わず下に潜り込みたくなるのを我慢しながら布を見ると、そこには黒く大きな魔法陣が書いてあり、何故か私はその魔法陣が読み取れた。
どうやら、これが契約の魔法陣のようで、この中に立って互いの血を飲めば契約完了だよ的なことが書いてあった。
「それじゃあ、始めるぞ。」
「リュ!」
ヴィル様が床に手を着き、呪文のようなものを呟くと布に描いてある魔法陣が白く輝き出した。
どうして光っているのか気になり動こうとすると、ヴィル様が立ち上がり、腰の鞄から銀色のナイフを取り出して指を切った。
「リュ!」
指から赤い血が流れ、伝い床に落ちるところで体が動いた。
あれ?
無意識に、落ちていくヴィル様の血にかぶり付き飲み込むと、飲み込んだ血が体に溶けていき、全身が喜ぶかのように力が溢れ出す。
「リュー。」
体が火照り熱くなり、その熱が額に集まると額に紋章を刻んだ。
落ち着いた後、治まった事が分かったのかヴィル様はホッとしたように笑い、ナイフを渡して来た。
ナイフを受け取り、今度は自分の手を切ろうとするが、鱗が強固過ぎて切れない。
「リュ!」
何度やっても傷一つつかない手にイライラしていき勢いに任せて噛みつくと、口の中に自分の血の味が広がり、傷が着いたことが分かると、手を引き抜きヴィル様に差し出した。
何やってんだ私!
そこで我に帰り、自分がしていること理解して、手を引っ込めようとするが、ヴィル様は私の手を掴み躊躇せずに傷口を舐めた。
か、間接キスしたー!?
余りの出来事に頭が追い付かず唖然とすると、いきなりヴィル様は苦しそうに呻き、床に膝を着いた。
な、何どうしたの?
「リュー!」
急いで駆け寄り、額に手を当てる。
すごい熱。
どうしよう。
焦りと、不安でうろうろしていると、ヴィル様の手が頭に置かれた。
「大丈夫だ。
少しすれば落ち着くから。」
そう言ってヴィル様は倒れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もどんどんあげていくのでよろしくお願いします!