【プロローグ】事故
キイィィィ……
ブレーキを思いっきり踏んだ時の、嫌な音がする。
ドンッ
音とともに大きな衝撃が身を襲った。
しばらく、何が起きたのか理解できなかった。
いや、理解したくなかったのだ。
車体が完全にとまった数分後、いや、もしかしたらほんの一瞬だったのかもしれない。
時間の感覚がなくなっている中、僕は自分の呼吸が段々荒くなるのを感じた。
そして、今は真夏だというのに、体が震えてくる。
――血の気が引くというのは、こういうことか。
なんて冷静ぶった考えが頭をよぎるが、それがただの強がりだというのは明白だった。
とにかく、外に出なくてはいけない。
ドアを開けようと取っ手に手をかけるが、もう幾度となく行っていたその行動がうまくできない。
指先までガタガタと震えている。
きっと、他の人がみたら「大げさな芝居だなぁ」だなんて言われてしまうほどだろう。
「はぁ、はぁ……くそっ……」
自分の意志とは関係なく荒くなる呼吸と、震える体に悪態をつき、ようやくドアをあけることができた。
足まで震えているせいで、うまく駆けることができない。
ほんの、数メートル先に、影が見える。
「ああ……あああ………」
極寒の中を何時間も歩いていたような寒気がした。
やっとの思いで影までたどり着いた時には、息をすることも苦しくなっていた。
それでも、必死に影を抱え……、更に血の気が引いた。
柔らかい岩を抱えているかのようなずっしりとした重みと、もう二度とその影が光を浴びることはないと証明するかのような水音。
「あああああああ!!」
その叫びが何に対するものだったのか、今でもわからない。
ただ、ひとつだけわかったのは、
僕は、その日大きな過ちを犯してしまった。
ということだけだった。
職場で毎年毎年見させられる交通事故のビデオを見て、こういう話のがイイんじゃね?とふと思ってしまった話。