Train Train

電車出発を知らせる音楽が流れ始めた。僕は改札を走り抜けて電車に飛び乗る。

別に急ぐことなんてないのに身体が自然に動いてしまう。郊外から都心に向かう夜の電車。誰も座っていないロングベンチシートの左端に腰を下ろす。ドアが閉まり電車が動き始める。

何か用があるわけではない。ずっと家にこもっている時間が長くて、ついつい家を飛び出してしまった。実のところ僕は、Netflixで5本続けて映画を観てたって、合間にNikeのスマホアプリで15分のエクササイズをやるだけですっかり気分は晴れてしまう方だ。でも「出てはいけない」と言われてしまうと却って意識してしまって、天邪鬼の僕は我慢ができなくなってしまう。

次の駅に着いたが、誰も乗って来ない。なぜ僕は端っこに座っているのか。染み付いてしまった習慣が嫌になる。

車両には僕のほか、前方の座席に女性が一人。身体を乗り出して他の車両を見渡しても、乗客は乗っていないようだ。僕はロングシートの真ん中に座りなおして、脚と腕を大きく伸ばす。

ほぼ規則的なほどの車輪の音。窓の外の景色は物凄い勢いで移っていく。郊外を走る電車は速い。

僕は外に居る。何か用があるわけではない。不要不急。窓ガラスに映っている自分の顔が笑っている。

雨が降ってきた。窓ガラスに打ちつける。大粒のしずく。雷の音。

車両の電気が消える。何のアナウンスもないまま電車は走り続ける。

車内に明かりが戻る。僕は少し怖くなってしまって、前方の女性が座っている方に近づいていき、彼女の斜め前に座る。

「酷い天気になりましたね」

普段、僕は知らない人に話しかけるなんてことはしないのだけど。

「これでウィルスも流されてしまったら良いんですけど・・・・・・」

「東京に行くんですか？」

彼女は少し考えてから聞こえないくらいの声で答える。

「はい・・・・・・たぶん」

稲光のあと、すぐに身体にずしんとくるような雷の音。

再び車内の蛍光灯が消える。外も真っ暗で何も見えない。自分が深く呼吸している音が聞こえる。

そしてまた稲光。

明るく照らされた社内の座席にはズラリと乗客が並んで座っている。皆ただ静かに前を見つめている。

徐々に暗闇に戻っていく。自分の両隣に誰かが座っているという感覚。

車内に明かりが戻ったが、斜め前の女性も含め、そこには誰も居ない。

スピードが落ちてきて駅に停まる。そこでは大勢の人が乗り込んでくる。

「降ります、、、降ります」

僕は、乗車客に押し戻されながらもかき分けて何とか下車する。

誰も居なくなったプラットフォーム。乗客を乗せた電車は都心に向かって走っていく。

僕はホームのベンチに座り込む。

噴き出た汗が徐々に引いてくる。疲れを感じ瞼が落ちてくる。

どうやら家のソファで腰かけたまま居眠りをしていたようだ。膝の上には開いたままの本。

僕は汗だくになってしまった服を脱ぎ、シャワーを浴びる。

さっきまで降っていた激しい雨は上がり、何も無かったかのような青空が広がっている。