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コモドドラゴンのコモド

作者: 羽生河四ノ

「コモドドラゴンのコモドを一緒に探してくれ」

即興小説風に話を始めるなら、こういう感じの始まり方。


長く会っていない昔の知り合いから突然連絡が来て、電話口で急にそんなことを言われて当然私は困惑したし、コモドドラゴンって何?飼ってるの?ってなった。


「それは来てくれたら説明する」

知り合いはにっちもさっちも行かないらしかった。話ぶりに余裕がない。そもそも私に連絡してくるあたりがすでに余裕がない。完全に交流が途絶えたわけじゃないけど、でも頻繁に会っているわけでもない。現にここ二、三年はあっていなかった。それなのに急に連絡してきて、来いという。行くか?

「いやあ・・・」

行かないんじゃないかな。多分。そこまでの縁めいたものはない。ぶっちゃけて言うけど。


それに私は現在埼玉県に住んでおり、知り合いは千葉に住んでいた。で、私は車もないし、行くとなると電車移動ということになる。面倒だなあ。それ。埼京線だったら何?赤羽で京浜に乗り換えて、東京駅で乗り換えて千葉まで行く?あるいはなんだ?武蔵野線で船橋あたりまで行って、それで行く?


「め、面倒だなあ・・・」

それを声に出して言うと、電話口で相手に結構な感じでキレられた。

「コモドドラゴンだぞ!」

ってキレられた。いや、コモドドラゴンだぞって言われてもなあ。


コモドオオトカゲ、別名コモドドラゴンらしい。それを知り合いは飼っているらしい。詳しくは聞いてないけど、電話口での話ぶりを聞くとそういう事だと思われた。そのコモドドラゴンが日本で飼えるものなのかどうかは知らない。もしかしたら密輸入的な感じとか、密売的な感じとか、そういうダークサイドな事柄かもしれない。犯罪行為に巻き込まれるのは困る。


檻の中に入れられたら、こういう活動ができなくなる。それは困る。


「困るなあ・・・」

しかしまあ、結局は行くことになった。来てくれたら佐倉市にある焼き肉屋大王をおごるというのでそれで手を打った。


「どうもー」

電車に乗って長い時間をかけて知り合いの家まで行くと、知り合いは家の前で白い顔で立っていた。

「さあ来てくれ、コモドを探してくれ」

久々の邂逅にも挨拶一つなく、やはり焦っているようだった。

「え?」

でも私は私で、もう頭の中が大王のことでいっぱいいっぱいになっていたので、本来の目的も半ば忘れていた。聞き返す。

「コドモ?」

「違う、違うよ!コモドだよ!」

「ドコモ?」

「コモド!コモドドラゴンのコモド!」

何だそれ?


「それが無いと大変なんだ。今家の地下に入れてるけど、あれがないと大変なんだ」

知り合いは、本当に心底困ったみたいな声音で頭を両手でかきむしりながら、汗だくになって泣きそうになりながらあたりを探していたが、


「コモド?」

私は棒立ちだった。コモドドラゴンのコモド?なんだそれ?何を探せばいいんだそれは?


「おい!早く探せ。探してくれよ!」

知り合いはそう言ってるが、そんで中腰になって草むらとか探しちゃいるが、コモドドラゴンのコモドって何?


まずそれを説明してほしい。


いや、もしかしたらこの知り合いは、


「ねえ・・・」

「なんだよ!?」

もしかして薬とかやってる?


私はコモドドラゴンの子供を探してくれって言ってるのかと思ってた。つがいで飼ってて子供がいなくなったのかと思っていた。でも違うらしい。友人ははっきり言った。

「コモドドラゴンのコモドだ」

コモドだって。コドモ?って聞き返した。でもコモドだって。ドコモってふざけてみても、コモドだって。


つまり、実際知り合いはコモドドラゴンのコモドを探しているのだ。間違いなく探している。


そりゃ・・・、


薬やってるだろ。


だってありもしないものを探しているんだもの。


「おい!早く探せ!そうしないと・・・」

知り合いが、そう言うか言わないかのタイミングで家が突然倒壊した。


それからすぐぎゃーすっていう声が聞こえてきて、瓦礫の下から、立派な、それはもう立派な、翼をもったドラゴンがはい出してきた。


日本の竜とは違う感じの、細長くない。西洋のやつだ。


それがぎゃーすって言って出てきて、立ちすくんでいる知り合いを見つけると、すごいスピードで飛びかかり、大きな口で知り合いの上半身をほぼほぼ、一気に食べてしまった。下半身だけになった知り合いはその場に倒れて、赤黒くぬめったところから血が噴き出していた。でももう下半身だけだから知り合いかどうかもわからない。


それから驚くばかりの私を尻目に翼を広げ空に飛んで行ってしまった。


「うわー・・・」

結局コモドドラゴンのコモドがなんであるのかはわからなかった。

ただ、

「コモドドラゴンからコモドをとるとドラゴンになるんだなあ」

っていうのはわかった。すげーってなった。



知り合いが下半身だけになってしまったので、大王云々という約束もなくなり家に帰ることにした。


ただ、何もしないで帰るのも勿体なかったので、千葉駅で電車を降りてちばチャンに行って、唐揚げの舟盛りを頼んでお酒を飲んだ。


「多いな・・・」

一人で絶望的な気持ちでからあげとお酒を飲み食いしていると、知らないスーツの人が近づいてきて、

「写真いいですか?」

って言ってきた。


あ、インスタですか?どうぞ。


私もはじめようかなインスタ。


ああでもそうなると、さっきのドラゴン撮っとけばなあ。


映えたろうになあ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぎゃーすの鳴き声が可愛いです。ドラゴンって狂暴なのですね。羽も生えてて、人間を食べる肉食獣なのでしょうかね。 コドモやドコモと聞き間違う主人公も惚けていて面白いです。友人が襲われて半身だ…
2020/08/23 01:27 退会済み
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