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声優 御堂刹那の副業  作者: 大河原洋
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Act17.ビッグアイ Part1

 郡山駅西口にそびえるランドマーク『ビッグアイ』。


 首都圏と違い高層ビルが少ないこの市では、この建物に匹敵する高さのビルは数少ない。そのため、二一階から二四階部分に嵌められた巨大な球体は、正に郡山を見下ろす眼だ。


 永遠は二〇階に用意された控え室にいた。ビッグアイの二〇階から二四階をスペースパークといい、二〇階は研修ゾーンと呼ばれ研修室や事務室がある。二一階の球体と接する床の部分が展示ゾーン。二二階の球体を囲む床が展望ロビーとなっており、球体の下部内に太陽系の模型などの展示物がある。そして、二三階と二四階は吹き抜けで、球体の上部が宇宙劇場というプラネタリウムだ。


 今回この宇宙劇場で『鬼霊戦記星見会』を行う。今、会場ではツアー参加者とイベントの参加者の入場が開始されている。


 用意されたお弁当を食べ終えると、永遠は出演者の様子を窺った。


 東雲監督は小岸と行けなかった飲み屋について話している。


 優風は刹那と舞桜にアフレコ時の思い出を話しているが、もっぱら答えているのは刹那だけで、舞桜は硬い表情をしている。二人は何とか舞桜の気持ちを上向かせようとしているのだろう。


 沙絢は……。


「大丈夫、永遠ちゃん?」


 キョロキョロしていたら、自分の後ろに立っていた。


「あ、はいッ、準備万端なので安心してください!」


 しやの衣装の腰に差した小太刀を握りしめる。


「頼もしいわね」


 と、ほほ笑んだ顔を沙絢は再び真顔に戻し、


「見学に来ただけなのに、こんな事に巻き込んでごめんね」


 と謝った。


「とんでもありませんッ。迷惑をかけているのはわたしの方ですし、少しでもお役に立てればうれしいです」


「ありがとう」


 沙絢は永遠の肩に手を置いた。


「それじゃあ、みなさんスタンバイお願いしま~す!」


 太田の声が室内に響いた、いよいよ始まるのだ。


 永遠は他の出演者と共に宇宙劇場に向かった。


 MCをする刹那と舞桜に続いて永遠が先にステージに上がる。


「お待たせしましたぁ~ッ、みなさん、『鬼霊戦記星見会』にようこそ!

 MCを務める、娑羯羅役の御堂刹那です」


「同じく、光奈役の島村舞桜です。福島巡礼ツアー参加者の方も、星見会にお忙しい中ご来場いただいた方も」


「「最後まで楽しんでいってくださいッ!」」


 刹那と舞桜の声が見事にハモり、客席から二百名の歓声が上がる。


 何もしていないのに永遠の心臓はバクバクと鼓動を始めた。もともと人前に出るのは得意ではない。


 このステージで永遠は、特に何かをするわけではない。イベントが終わるまで娑羯羅のコスプレをして立っているだけでいいのだ、表面的には。


 実際は鮎瀬千尋が現れた時、昨日の夏祭り同様、サプライズイベントに見せかけて一時的に祓わなければならない。


「ところで、娑羯羅はいるのに光奈はいないの?」


 舞桜が永遠を見て刹那に尋ねる。


「フッフッフッ、このはタダのコスプレ少女ではない、あたしの妹、永遠ちゃんなのだ!」


 刹那は永遠の肩を抱いた。


 観客に向かいペコリと頭を下げる。ほほ笑んだつもりだが、上手く口角が上がらず引きつってしまう。


「あ~ッ、それで似てるんだ!」


 舞桜は永遠が刹那の妹と知らされているが、今知ったような驚き方をしている。控え室ではあんなに元気がなかったのに、さすがはプロだ。それに比べ自分は素人丸出しだ。


 永遠の素性については、早紀と刹那とも話し合った結果、誰にも話していない。舞桜は開成山公園で朱理を見ているが、永遠と同一人物とは気付いていないのだ。


 客席から「似てる~!」「ソックリ!」という声が次々に上がる。


 阿武隈川散策でほとんど汗をかいていなかったが、早紀がメークを直してくれた。刹那もメークで少し永遠に似せている、そのお陰でより姉妹らしく見える。


「だから、光奈のコスプレ少女が欲しかったら、妹を創りなさい!」


「いや、今から親に頼んでも、間に合わないってッ」


 ドッと観客から笑いが起こる。


「それでは、これからあたしたちと一緒に、『鬼霊戦記』の第一話と最終話、そして星空を観てくれるゲストをお呼びしましょう!」


 刹那と舞桜が次々に東雲と声優陣を呼ぶ。


 スケジュールでは最初に第一話を、次に星空の投影、三番目に最終話を上映する。そして、アニメを観ながら監督と声優たちが生解説をするのだ。


 一通り挨拶を終えると、出演者は最前列に設けられた専用シートに腰を下ろし、館内が暗くなると第一話の上映が始まる。


 監督が中心となり、制作の裏話などをしていく。声優たちも演じた時の思い出を話すが、今回は彩香と光奈の出番が多いので、沙絢と舞桜のコメントが多めだ。


 一番端の席に座った永遠はアニメも生解説も無視して、神経を研ぎ澄まし周囲を探った。


 刹那も出番は少ないがトークに集中しなければならない、鮎瀬千尋に全力で対処できるのは、今は自分だけだ。


 散策同様、異常は感じられない。このまま何も起こらずに終わって欲しい。


 腰から外して、両手で握っている小太刀に力を込めた。


 アニメは沙絢の演じる彩香が、ビッグアイの窓の外に自分と同じ顔をした人間が立っているのを目撃する場面になった。この後、彼女はこの宇宙劇場に入り、見たのはドッペルゲンガーで、自分がもうすぐ死ぬのではないかと案じる。


 観客は知る由もないが、千尋の幽霊を自分も含めた出演者は恐れている。それが彩香と似ていると思い、こんな状況なのに親近感が湧いてきた。


 取りあえず、『鬼霊戦記』の第一話は何ごとも起こらずに上映を終えた。


 館内が再び明るくなり、刹那と舞桜と共に永遠はステージに戻った。


 二人は次の星空の投影に関して宇宙劇場と設備の簡単な紹介をした。


 宇宙劇場は地上から最も高い場所にあるプラネタリウムとして、二〇〇二年一月にギネスに認定されている。投影機「スーパーヘリオス」は日本に五台しかなく、約三万八千個、天の川を含めれば六五万個の星を表現することが可能だ。さらにスーパーヘリオスの前後に取り付けられた二台の高機能ビデオプロジェクターは、フルハイビジョンの約八倍の解像度で映像を映し出すことが出来る。他にも様々な機器が美しい夜空を演出するのに使われているのだ。 


「いや~ここのプラネタリウム凄いね!」


 星空の投影も何ごとも起こらず終わり、再び永遠は刹那と舞桜と共にステージに立っていた。残るは『鬼霊戦記』の最終話と、ツアー参加者対象の記念撮影会だけだ。


「彩香が年間パス買うわけだよ」


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