表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声優 御堂刹那の副業  作者: 大河原洋
PR
13/38

Act10.開成山 Part2

 開演時刻の午後七時になり、刹那は舞桜と一緒にステージに上がった。


 音楽堂の観客席には、二百人近い人がひしめき、刹那と舞桜の登場に歓声を上げる。


「娑羯羅ぁ~!」「光奈ぁ~!」とキャラクターの名前や、「刹那ぁ~!」「舞桜ちゃ~ん!」と芸名を叫ぶファンもいる。


 ライトが眩しくて観客の姿はよく見えないが、人数の多さと熱気を感じる。単独でイベントをやっても、これだけ自分の名前を叫ばれた事はない。驚きと喜びと緊張で頭が真っ白になる。


 隣を向くと舞桜が口をパクパクしている。


  あたしがしっかりしなきゃ!

  刹那、ハートで乗り切れッ、ハートで乗り切れッ!


「みなさ~ん、今晩はー! 司会を務めます、『鬼霊戦記』しや役のどうせつです!」


 さっきよりも多くの観客が「刹那ぁ~!」と叫ぶ。


「お、同じく、役のしまむらですッ、暑い中来てくれてありがとぉ~!」


 今度は舞桜コールが起こる。


「ちょっと噛んだね、緊張してる?」


「き、緊張なんてしてないしッ、みんなが来てくれたから、ちょっとだけ嬉しいだけだし!」


 刹那のツッコミに舞桜がツンデレキャラで返す、この調子なら大丈夫だろう。


「それでは始まります、『鬼霊戦記夏祭り』。『聖地巡礼ツアー』で参加してくれている方も、」


「お忙しい中、『夏祭り』に来てくれた方も、」


「「最後まで楽しんでいってくださいッ!」」


 見事に声がハモった。


 刹那と舞桜はステージの下手に移動する。


「それでは、今夜の出演者を紹介します!」


あや役、おきさん!」


ほう役、みやもとさんッ」


とくしや役、ぎしキヒロさんッ」


「そして、しののめともひろ監督!」


 一人ひとりステージに登場する度、歓声が上がる。一際大きいのが優風と小岸だ。


 全員がステージに揃うと作品に関するトークが始まった。しかし、今回はそれほど時間を取っていない。明日の『星見会』がプラネタリウムでアニメの映像を流すので、そちらで詳しく話す予定だ。


『夏祭り』ではウェブラジオの公開録音が行われた。


 また、東日本大震災の時、郡山出身の東雲が東京で何を思ったのか、祖母が郡山に住んでいる優風は何を感じたか、そして郡山に在住していた舞桜はどうしていたのかについても、刹那がインタビューする形式でトークがされた。


 東日本大震災が、アニメ『鬼霊戦記』を制作する大きな切っ掛けになっていたからだ。


 舞桜はここでも、当時を思い出したのか、言葉に詰まる事が多かった。


 そして、それらが終わると刹那にとっては鬼門の『歌』が待っている。


 だいぶ緊張がほぐれてきたが、再び緊張が高まる。


 刹那と舞桜がエンディングを先に唄い、その後、沙絢がオープニング主題歌を唄う。刹那たちは沙絢の前座的な役割なのかも知れないが、そう思っても気は楽にならない。


 衣装替えのため刹那と舞桜、そして沙絢は控え室へ戻る。その間、優風と小岸、そして東雲がトークで繋いでくれる。


 控え室に聞こえてくるのは、東雲の開成山公園に関する思い出話だ。優風も子供の頃、祖母に連れられてきたと応じて、来たことがない小岸がマイノリティになっている。


 前回のウェブラジオ収録を思い出し、笑みがこぼれる。


 衣装替えが終わった。このステージ衣装は、各々が演じたキャラの衣服、つまり自分のキャラのコスプレだ。


 沙絢と舞桜は高校の冬服のブレザーで、刹那はばかまじんおりだ。


 ブレザー組は冬服なので暑いが、刹那はコスプレ用だがそれでももっと暑くて動きにくい。


「いよいよだね……」


 不安なのか、顔色の悪い舞桜が刹那の手をギュッと握ってきた。その手は汗ばんで、震えている。


「円陣組みましょうか」


 沙絢の提案にうなずくと、三人で輪を作り肩を組む。


「さぁ、今日のクライマックスよ、気合い入れてッ。レディー」


「「「ゴーッ!」」」


 気合いのお陰か少し緊張がほぐれた気がする。


 スタッフが合図を送り、準備が出来たことをステージ上の東雲たちに伝える。


 小岸が曲紹介を始める。


 刹那は舞桜とアイコンタクトを取り、ステージに向かった。


 それからどうなったか、よく覚えていない。歌詞を幾つか間違え、ステップはもっと間違えたと思う。


 それでも歌い終わると、満場の拍手と歓声が上がった。


 余韻に浸る暇も無く、次の曲が流れ始める。今度は優風の曲紹介で、沙絢が姿を現す。


 刹那たちは速やかに控え室に戻った。


 二人とも汗だくで息が上がっている。


「ふぅ、なんとか出来たね」


「あたし、だいぶ間違えたけど……」


「でも、ハートで乗り切った」


「うん、ハートで乗り切れた」


 二人で顔を見合わせて笑い出した。


 スピーカーから沙絢の歌声が聞こえる。刹那たちとは違い、魂に響く歌声だ。


 二人は控え室からステージを覗き見た。


 やはり振り付けも完璧だ。沖田沙絢は声優としてだけではなく、歌手としても一流だと思う。


  なのに、最近ほとんど仕事が無いなんて……


 不条理だと思う。


 でも、それが芸能界だという事もよく知っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ