レガシィ リュウの伝承20
レイラは自分の気持ちが殺伐にならぬよう
努めて明るく振る舞う。
サレヒュトは
『また会おう。』
の、一言を残し一足先に村へと
飛び発って行った。
慧人はレイラに断り
燃料補給中のイサレガの中枢部と
コクピット内部を見せてもらう。
中枢部のシステムを確認後
そこへ1cm四方のカプセルをセット
コクピットへ乗り込み
制御系のオペレーターを立ち上げると
モニターへ手をかざし何やら
スキルを発動させた。
慧人はコクピットを降り
レイラへ伝える。
『レイラ、
燃料の補給が終わりました。
イサレガは良い機体ですね。』
レイラはイサレガの補給と整備指揮を
担当した技師長へ礼を述べ
慧人の元へ小走りに近づく。
金髪の腰まで届きそうな艶やかなロングヘアー。
トップモデル並のプロポーション。
色白でハッキリした目鼻立ち。
透き通るサファイアの様な瞳。
騎士の凛々しさを纏い
王女の気品とチャーミングさも
合わせ持つ。
そんなレイラが微笑を湛え
自分の元へ駆けて来る。
慧人でなければ
誰でも一目で恋に落ちてしまっただろう。
『分かりますか?。
今のガセアの技術力を全て盛り込んだ
機体です。
慧人殿の機体も素晴らしいですね。』
慧人には珍しく
何時もの仏頂面では無く
柔らかな笑みを浮かべている。
『ありがとう。
続きはガセア王都へ向かいながらに
しましょう。』
折角、歩み寄って来たレイラを
簡単な一言であしらった慧人に
嫌な顔一つ見せず
可愛いらしく頷くレイラ。
『了解です。』
慧人がATEへ向かい
コクピットへ乗り込むまでを
見送り自分もコクピットへ乗り込む。
(慧人殿…。
あの素晴らしい甲冑と言い
立ち居振る舞い。
やはり王族の血筋…。
サレヒュト殿の弟君だろうか。
似ているがそこまで近くはないか?。
引き締まった中に
優しげな面持ち。
あの時、咄嗟に私を庇って…。)
何やら考え込むレイラへ
慧人から通信が入る。
『こちら準備完了。
そちらはどうですか?。』
(ダメだダメだ…。
発進に集中しよう。)
『こちらも準備完了。』
『自分はレイラ機に続きます。
先行どうぞ。』
『了解。
イサレガ発進します。
中央門解放。
イサレガ発進。』
『ネイ シーティス スプレマシー発進。』
二機はガセアへと飛び発つ。
(ネイ、ナノマシーンによる
イサレガ解析と構造強化。)
慧人は思考波でネイへ命令する。
(イエス マスター。
構造強化とスムース化は
既に実行中。
解析はメインシステム内部へ
進行中。
終了予定時間 概算で
10分後。)
(やはりこの時代の技術力では
このシステムでこの速度が
限界か…。)
慧人は咄嗟に退避したこの世界の事を
概ね理解するに至っていた。
慧人の産まれた世界の
時間軸はかなりの昔。
そんな思考にふける慧人へ
レイラより通信が入る。
『慧人殿、
先程の話しの続きいいかな?。』
気負わぬ軽やかな声音で
レイラが話し掛ける。
『ええ、どうぞ。』
慧人の平静は変わる事はない。
『慧人殿…。』
『レイラ、殿はやめにしてくれ。
なにかこそばゆくて。
慧人と呼び捨ててくれないか。』
嫌味な言い方にならぬよう注意して
慧人が申し出る。
『そうか、ならば慧人
貴方の機体先程の戦闘でも
感じたのだがかなりの高性能。
その、こんな言い方は可笑しいかも知れないが
この世の物とは思えぬ速さと力。
宜しければマイスターを
紹介しては頂けないだろうか。
同盟国と言っても新兵器に関して
情報を開示出来ぬ部分も多いのは
承知の上で切にお願い致します。
今回の様な事があれば
我が国は全滅してもおかしくない。
同盟界隈で科学技術最高等と
奢りによりこんなにも
遅れを取っていたとは。
何ともお恥ずかしい話しなのだが。
ここは恥を忍んでどうかお願い致します。』
レイラが興奮を抑え切れず
一気にまくし立てる。
少し間を置いてその熱を
冷ます様に慧人が
静かに喋り出した。
『この機のマイスターは自分です。』
慧人は一言答えると
言葉を切った。
レイラは言葉を失った様に
少しの間、声を発する事が出来なかった。
『慧人が造ったのですか?。』
『そうです。
自分がとあるデータを基に
設計した物です。』
『そうだったのですね…。
慧人、私の機体の改造を
お願い出来ないでしょうか。
どんな謝礼でもさせて頂くつもりです。』
慧人は勿体つける様に黙ったまま。
既にナノマシーンにより
イサレガの解析は終了。
フレーム構造の強化
新メインシステムを受け入れる
下準備も整っていた。
勿論そんな事はレイラに
知らせたりはしない。
レイラが沈黙に耐え切れなくなり
声を発する。
『ダメでしょうか?。』
『いいえ。
ガセア到着次第、レイラの機体を
見させて頂きます。』
『ありがとうございます!。慧人。』
慧人へ約束を取り付け
喜んだのもつかの間
ガセア城下街がレイラの機体の
モニターでも視認出来る距離へと
近づくと気持ちは一変した。
慧人の静かな物言いは
既にネイ シーティス スプレマシーの
複合センサーと
バトル フィールド スカイサイトにより
街の状態を把握していた為だった。
『王都が壊滅している…。』
二人の目の前には
数刻前に見た景色に酷似する
瓦礫と化した
ガセア城下街の様子が
デジャビュでも見ているかの様に
広がっていたのであった。
そんなレイラを待っていたものは
またしても絶望か…?




