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勇者パーティーの料理番

作者: 黒天狗

山も谷もオチもない話。リハビリ的な何か。

「そそそそれは誠ですか!?」



 カリーナは王都の一角にある貴族御用達のレストランでシェフ見習いをしている、しがない18の女である。

 いや、しがなくはないのだろう。平民の身でシェフ見習いになれる者はほんのひと握り。いくら腕がよくとも高貴な方の目に止まらなければ出世できないのが現実だ。そう考えるならば、彼女は幸運な女である。



 そんな彼女に今、転機が訪れていた。



「ああ、ほんっっとうに不本意だが勇者さま自ら仰られたんだ、仕方ない……お前は飯炊き要員として魔王討伐に同行だ。せいぜい、ない腕をふるうことだな」



 いつも偉そうに見下してくる上司の男が悔しそうにしている。イヤミを言う口調だって苦々しい。部屋を出ていく際わざとぶつかられた衝撃でよろけるも、カリーナはようやく夢じゃないのだと理解した。



「お、おお、」



 魔王討伐に同行、つまり騎士やら魔術師やら権力者に自分を売りこむチャンス。

 成功すれば討伐後に王宮のコックになれるだろうか。もしくは貴族家の専属料理人か……功績を認められて自分の店を持てる可能性もゼロではない。とにかく、あの平民だからと虐げられる劣悪な環境からは抜け出せるに間違いない。



「おおおお、」



 平民向けの食堂で働いていた三年前、とある貴族様にその腕を認められ、その方の推薦でシェフ見習いになれたものの周りは貴族出身のプライド高い男ばかり。

 女のクセにと妬む声は大きく、平民の身で生意気だと詰られることしばしば。上司に私用でこき使われて調理台に立てる時間は減るし、料理用ワインで酔っ払った阿呆に襲われかけるし、マジふざけんなである。



「う、っぐ、」



 何度辞めてしまおうかと悩んだだろう。小さなあの店に戻ろうかと思っただろう。

 それでも辞めずに耐えてきた努力が報われるというわけだ。

 いつの間にやら流れ出していた涙を乱暴に拭って、嗚咽を押し殺しながらカリーナは決意した。



 ───このチャンス。絶対、無駄にしない。

















 ▶▶▶



 あれからひと月、ついに魔王討伐の旅が始まった。

 パーティのメンバーは全部で6人。



「えーっと初めて顔を合わせた子もいるし、まずは自己紹介しようか。異世界から着ました、勇者のツバサです」

「平民のために、ツバサさまはお優しいですわね。ワタクシはマリナーゼ・シュトラス、公爵令嬢で巫女ですの」

「私はティルダ・バルス、薔薇隊隊長で騎士をしているわ」

「…アイリン・ウォーム、魔術師。よろ」

「ボクはユーラ・カノンだよ! 召喚士のトップ! よろしくね!」



 そして、カリーナである。

 なぜ勇者以外女性なのか不思議でならないが、機嫌を損ねられると困るのはカリーナだ。出発早々クビになるなど笑えない。今後の身のために黙っておく。



「カリーナです。食事を担当させていただきます」

「よし、じゃあ行こうか」



「ええ」「は」「ん」「はーい!」



 勇者の声に彼女達はそれぞれ気合を入れる。カリーナも深く頷いた。



「はい」



 ──さあ行こう、出世への道を。












 なお、カリーナの疑問(なぜ勇者以外女性か)についてはわりとすぐに解答が得られた。なんと女性がいるだけで勇者は勇気倍増、つまりやる気が出るらしい。どおりで綺麗な女性ばかりなわけだ。

 カリーナはそれを知って、自分が選ばれたのも女だからではと思い当たりやさぐれた。チッ。





















 ▶▶▶




「はああああっ!」

「聖なる光よ!」

「フッ!」

「……燃やしつくせ」

「アイツを倒して!」




 次々に現れる魔物を蹴散らしながら魔王城へと向かう。



 勇者の聖剣が悪を切り裂き、巫女の祈りが傷ついた民を癒し、騎士の長剣が踊るように舞う。

 魔術師の炎が辺りを包み込み、召喚士の聖獣が雄叫びを上げる───

















 ───その横でカリーナは今晩の夕食を考える。


「昨日は電気魚を使ったソテー。なら今日は肉か」




 北の果て、荒れ果てた大地の中心にある魔王城までの道のりは長い。味に飽きられたら一巻の終わりなのだ。

 今のところ評価は上々、どうにかこれを保ちたい。


 ふと、矢がカリーナの耳を掠る。見ていた勇者が「カリーナ下がって!」と叫んだので素直に従った。なんで呼び捨てなのかわからないが焦っただけだろうし気にしない。



 さて食材はどこで仕入れようか。この辺に商店はないと聞いたし自分で狩るしかないのか。



 頭を悩ませながら戦場を眺める足元に勇者が葬った魔物が吹き飛ばされてくる。弓矢を手に持った猿の形をした魔物はもう事切れていて動かなかった。

 何かを訴えかけるような魔物の濁った瞳。それは人間に倒される己の運命を嘆いているのか、それとも……。


 その場でしゃがんだカリーナはグチャグチャになった魔物に「ごめん」と呟いた。

























「状態が悪すぎてさすがに食べられない」


 もう少し綺麗だったら食卓にならべてあげられたのに。










 ちょっとオカシナ料理番を連れた勇者一行の旅は、まだ続く。

料理番 カリーナ(18)

栗色の髪と瞳を持つ平民。幼い頃から料理が好きだった。なぜか出世に燃えている変人。平凡枠。


勇者 ツバサ(17)

異世界人。ある日突然召喚されて勇者になる。とりあえず勇者といえばハーレムでしょと美人を集めてみた。ぷちイケメン。


巫女 マリナーゼ(17)

公爵令嬢。金髪碧眼な派手系美少女。平民を見下すが嫌っているわけではない。ツンデレ枠(?)


騎士 ティルダ(19)

凛とした美女。ダークブラウンの髪を一つに纏めている。ひそかに1番年上なのを気にしてる。お姉さん枠。


魔術師 アイリン(13)

色白な無口系美少女。全属性なチートさん。得意なのは氷魔術と闇魔術。ヤンデレ枠かもしれない。


召喚士 ユーラ(15)

テンション高めな可愛い系美少女。実は平民上がりだったりする。ヒロイン枠に近いと思われる。

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