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シェリアとアル

 *・*・*

 …ねぇ 知ってる?

 私達がなんて言われてるか━━━…


 いろんな噂を耳にしたけど、一番多かったのは

 “…………”なんだって、うふふっ


 あの時は分からない事だらけで、周りの人を振り回してばかりだったよね

 貴方が私は私なんだと言ってくれて

 私の心は、ふっと軽くなったんだよ


 自分が何者で、どこから来たのか分からない

 不気味な存在だったとしても

 温かな人達に私は守られてた


 皆のお陰で

 私は━━━…強くなれた



 どこの誰とも知らない私を

 貴方はあの時…━━


 …そう、あの時貴方は━━━━

 *・*・*






「…はぁ」


 眉間を抑え溜め息を吐く。本当にこんな娘があの伝説と言われるセレーディアであるのだろうか。伝説の中では、光輝く美しい女神セレーディア。その額には、十字架、バラ、五芒星と何とも言えない紋様があると伝えられている。それが目の前の娘にはない。娘の話では、孤島ルミナスで老婆に襲われる前まではあったと言うが…それも本当か疑わしい。それどころかこの娘を美しいと言えるのだろうか。腰まである髪はくすみ縮れ、肌はカサつき美肌とは言い難い。顔立ちは少し幼さの残る少女ではないか。これでは貴族の娘の方がまだ美しいと思える程だ。


 しかし話を聞く限り全く無関係とも思えない。神咎と戦った時に見たあの光景…あんな現象は今まで見た事がない。信教心を失い神を神と思えなくなった咎人の成れの果てが神咎だ。あれでは神の恩恵にあい天に召される姿ではないか。人成らざる者の神咎が人として天に還るなど━━━…聞いたことがない。だが現にこの目で見てしまったのだ。涙を流し微笑む神咎になる前の姿で天に還る所を…



「信用し難い話だが……オマエの話をとりあえず信じよう」


「…ありがとう」


「それはそうと、オマエは俺と一緒に王宮へ来てもらう」


「……ッ!」



 …━━━王宮へ?!


 ダメ、絶対に王宮へは行ってはいけない!と警告音が頭に鳴り響く。やっぱり話してはいけなかったのだ。自分の浅はかさを呪いたい。話してしまったものは、取り消すことなど出来ない。さて、どうしたものか…と考える暇もなく口は勝手に動く。



「…やっ、だ…ダメ……ッ!」


 そこまで大きな声ではないが、男が驚くには十分なものだった。王宮に行くと言った途端に声を荒げる。王宮に行ってはいけない何かがあると案に言っている様なものだ。そうとも知らず、セレーディア(彼女)の思いは一つだった。前世のセレーディアの想いを傷をうけた苦しみがある場所へなど…どうして行けるというのだろう。



「何故だ?」


「…それ、は……」



 言えるわけがない。前世のセレーディアが王宮の重役達に殺されたなど…それこそイカれた奴とでも思われてしまう。自分には無いが、歴代のセレーディア達は記憶を受け継いでいる━━男にはその事まで話してなどいない。


 じわり…掌に汗が滲みシーツを握る。記憶が無くとも魂が言っている…━━“嫌だ、恐い、殺される”と訴えている。



「俺はオマエを信用すると言った」


「…」


「言った…が、オマエは伝書に記されたセレーディアの姿とあまりにもかけ離れすぎている。信用する材料が少ない、神咎の件で“力”は間近で見たが…それでも━━━…セレーディアだという保証が何処にもない」



 男の話は最もだ。突然現れて自分はセレーディアの生まれ変わりだなど、誰が信じようか。


「勘違いはするな。オマエは信用してやると言っただけで、セレーディアだと決定したわけじゃない」


 この意味分かるな?

 と、要はセレーディアかどうかを疑われている。

 セレーディアであるかを確かめるには、王であるシェガールに会う他ない。王は王獣であるリーコルンと会話が出来る唯一の人物だ。しかし、王以外に会話が出来る者がもう一人…それが女神セレーディアなのだ。

 この話は終わりだとばかりに、男はトレーを渡してきた。



「食え。飯食ってないだろ?」


「…」


「少し冷めっちまったかもしれないが…」


 食欲はなかった。王宮へ連れていかれてしまうのに、食欲なんてわく筈ない━━━…食欲なんて……


 ━━━…ぐぅ~


「…プッ、食わないのか?」


「~~っ、た…食べるわよ!」


 食欲なんて沸いてない…だけどこんな時でも体は正直らしい。トレーの上には白くてふっくらとしたパンと野菜のスープが乗っていた。スープを掬うと、とてもいい匂いがしてくる。それを一口、口に入れると甘くて優しい野菜の味がした。強張っていた顔も思わず綻んでしまう。食欲がなかった筈なのに、一口また一口と進めるうちに自分は相当空腹だったのだと、綺麗に平らげたお皿を見て思うのだった。


「うまかったか?」


「…えぇ、とても。ごちそうさま」


「そりゃよかった。明日、王宮へ向かう。部屋出て左側の扉は浴室になってるから入って休むといい。」


「……」


 明日━━━王宮へ……


「何か質問はあるか?」


「…いえ、特には」


「じゃあゆっくりするといい。それと、変な気起こして逃げるのだけはやめておけよ。あとが面倒だ」



 用があれば声を掛けろと最後に言うと、男は部屋のドアノブを握り出て行こうとする。ガチャリと回すと「あ、」と再度振り向いた。


「オマエ名前は?」


「…え」


「セレーディアでいいのか?」


「……」


「ま、セレーディアでいっか。じゃあな…」


 聞くだけ無駄だなと言わんばかりに、それだけ言うと出ていこうとするが━━…



「━━━……シェ…」


「ん…?」


「…シェ、シェ…」


「…シェ?」


「シェ、シェリ…ア」


「シェリ、ア?シェリアか━━…」



 名前を確認する様に声に出す。俯いていた顔を男の方に向けると、今まで無表情だった顔が少しだけ…本当に少し柔らかく微笑んでいたのだ。男はそのまま部屋を出ていった。取り残されたセレーディアもといシェリアは、再びベットへ横になるのだった。




 “……で…なのか?”


「あぁ…恐らく間違いない」


 “王への報告は…?”



 ある一室で交わされる会話。一人は先程の男のものであるがもう一人は、少し聞き取りにくさを含んだ掠れた声の主だ。男は椅子に座り掌程の水晶玉に話しかけている。淡い光を放つ水晶玉には揺らめく影があった。


「それにしても…映り、悪いな」


 “…フッ、持ち運び様だ。精度が落ちるのは致し方あるまい”


「それはそうと、明日ここを発つ。お前の役目もあと少しってとこか…」


 “あぁ…やっと解放される。長く羽を伸ばしたんだ帰ってから思う存分働いてもらうぞ、アル”


「━━━…分かってるさ」



 はぁ。と溜め息を吐くのと同時に水晶玉の光が消えていった。水晶玉を近くの鞄へ入れる。室内は綺麗に整頓され、殆ど物がなかった。その代わり、大きな荷造りが二つ隅に置かれてある。すぐにでも出掛けられる準備だ。昨日今日準備した量の荷物ではない。それから椅子から立ち上がり、残りの物を仕舞い始め日が沈み月が出始める頃、いつもより早く床につくのだった。



 ━━翌朝…


 早めに就寝したシェリアは、朝日が昇る前に目を覚ましていた。窓から外を眺めるとまだ薄暗い。それでももう少しで朝日が昇るのか、遠くの空は光が射してきていた。窓を開け外の空気を吸う。新鮮な空気を吸って体が軽くなる感じがし、清々しい気持ちになったシェリアは外を散歩したいと部屋を出るのだった。


 裏口だろうか…外へ繋がる扉を見つけ出てみる。そこは裏庭なのかこじんまりと花やハーブ類が植えられ、煉瓦や石畳で出来た道があり歩きやすくなっていた。木製のベンチを見つけ腰を下ろす。目を閉じると感じる森の息吹━━…小鳥の(さえ)ずりに小動物の鳴き声。皆が起き始めるのを告げる合図。とても穏やかにしてくれるそれをジャリという音で我に返った。



「━━━…!? …ここに、居たのか」


「…?」


「部屋に居ないから逃げたのかと思ったが…」


「早くに目が覚めてしまって…お散歩をしていたらここを━━━」



 シェリアを見つけたアルと呼ばれていた男は、シェリアの周囲を見て驚いた。ベンチの縁には勿論、シェリアの肩や腕には小鳥にリスと周囲には野うさぎ、小鹿などの動物が集まっているではないか。本人は気付いてもいないだろうが、この森に住む動物達は警戒心が強いのだ。それをこんな意図も簡単に寄せ付けるなど…あり得ない。


「……その動物、たちは」


「ふふ、何故か少しずつ皆集まってきてしまって」



 微笑みながら小鳥を撫でるシェリア。朝日に照らされた彼女は正に女神の様であった。

 アルは昨日のシェリアとの変化にすぐ気付いた。それは、昨日みずぼらしいとさえ思った姿がまるで違ったのだ。シャワーを浴び綺麗になったであろうが、こんなに変わるとは━━━…

 光に照らされ輝く髪、幼さは残っているものの美しい美少女であった。雰囲気も穏やかになり、益々大人びた印象を受ける。

 アルはこの時、これは彼女の女神としての力なのではないかと思っていた。

 神咎の時に起きた事もまた…彼女の力なのではないか…と━━━



「…あ、もしかして…私を探してここへ…?」


「それ以外ないだろ」


「ごめんなさいっ…探させてしまったのね━━━」



 アルの額に滲む汗を見て慌て出すシェリアを気にするなと制した。


 それにしてもこの数……どうしたものか……


 あまりにも動物達の数が多過ぎて、頭を抱える。一先ずシェリアに朝食の件でも伝えようかと口を開きかけ、そのまま固まった。━━━なぜなら…



「……ふふっ、またお話ししましょ…えぇ、もちろんよ」


 シェリアが動物達と会話をしているからである。いや、会話と言うよりシェリアが一方的に話しているとも見えなくはない。しかし、シェリアに合わせ相づちなのか、首をかしげたり小さく鳴く姿は返事をしているようでもあった。


「彼をこれ以上待たせる訳にはいかないわ…え?そんな事言ったらダメよ?」


「……」


 やはりシェリアは動物達と会話をしているとしか考えられない。シェリアと動物達を眺めていると、ふと、彼女の視線がこちらを向く。


「お待たせして、ごめんなさい…」


「…いや、大丈夫だ。それより…動物達と話せるのか?」


「…?おかしい…ですか?」


「……おかしい…あぁ、そうだな。まず話せる奴なんてそういない」


「そう…なんですか━━━」



 落ち込み俯くシェリアに、側に居た鳥やリスらが寄り添ってくる。まるでシェリアの感情を汲み取っているようだ。


「私は大丈夫━━…じゃあまたね……」


 動物達の頭を優しく撫でてやり、シェリアはアルの元へと戻るのだった。二人は無言のまま部屋へ戻ると、始めに口を開いたのはアルだ。


「どうやって動物達と話すんだ?」


「…どう、やって…と言われても」


「だよな━━━まぁそれも女神の力と思えば不思議じゃない」



 …女神の力

 動物達と話せるのが力だというのだろうか。自分の事なのに何も知らない自分…動物達と話すのは嫌いでなく、むしろ落ち着いたしそれが当たり前の様な感覚だった。だからどう話すんだと言われてもよく分からなかった。話せるのが当たり前だと感じていたから━━━…



「…あの、私を探していたって…言うのは」


「あ、あぁ。朝食が出来た。食べたらここを発つ」


「わかり、ました……」


 歯切れの悪い返事だ。昨日、王都へ行くのを頑なに拒んでいた事が原因だろう。案内された所は料理スペースとテーブルが一組あるシンプルな部屋だった。テーブルには二人分の朝食が用意されてある。


 昨日の料理もそうだけど、この家にはこの人しかいないのかしら。


 小さな疑問が浮かび上がる。



「どうした?」


「…え、あの、此処には貴方しかいないの…?」


「あぁ、そうだな。広い家でもないし、俺には家族はいない。だから一通りは全部出来るな」


「すごい…ですね……」



 冷めるぞ。と私を座らせ、彼は鍋に入っていたスープをお皿に盛っている。バランスの取れているであろう朝食が並び、美味しそうで。この料理達も彼が一人で作ったと言うのだから驚きだ。料理が出来る様には見えないのに━━━



「…おい、何マジマジ見てんだよ。冷めっちまうぞ」


「あ、はい…いただきます」


「そうだ、ドジ子」


「…ど、どじ、こ?」


「お前の事━━ドジそうだからドジ子」


「え…いや、私にはシェ」


「シェリアって顔でもないだろ」


「━━…なッ!~~っ、むぅ~~」



 シェリアは頬を膨らませ(アル)を睨み見る。睨まれてる本人はどこ吹く風の如く、涼しい顔だ。暫く睨み付けていると、何か閃いたのか急にニヤニヤし出すシェリア。



「じゃあ貴方はオニ()ですっ!!」



 何を自慢げにいうかと思えば…

 フフンと名案とばかりのシェリアに溜め息を溢す。


「…━━俺の名前はアルだ。そんなに飯いらないなら食うな」


「あぁ!やっぱり貴方はオニ男です!」


「フン…何とでも言え。飯は没収だ」



 目の前の料理達を取り上げ、してやったり顔のアルを膨れっ面で見るシェリア。とても悔しそうで━━━…


「………オニ…」


 小声でまた憎まれ口を叩く。それを聞き逃さない地獄耳、顔を覗くと笑顔なのにこめかみがピクピク動いている。流石にまずいと思ったのも既に遅し…


「あ"あぁ?今なんつった?ドジッ子!!」


「━━ひぃ…ッ!ご、ごめ、んなさい!神さまアルさま…オニ男さまっ」


「…だから、一言余計だっつうの」



 苦笑いを浮かべながらも取り上げたお皿を元の位置に並べる。並べられたお皿を見て、目を輝せるシェリアは確認の意も込めてアルを見た。


「食えよ。その代わり二度とオニ男なんて言ってみろ…今度こそ飯抜きだからな」


「……冗談に聞こえない」


「冗談で言うかよ。返事は?」


「…はい」


 渋々と言った形で返事をし、漸く食事にありつける。落ち込む気持ちはこの食事の前では意味を成さなかった。朝食もやはり美味しくペロリと平らげてしまう。


 早々に食べてしまったシェリア。向かいで同じく食事をするアルは、無駄のない動作で優雅に食事をしていた。一日二日で身に付くような動作でない事から昔から厳しく教えられ身につけたに違いない。そうとも知らず、綺麗な動きで食べるなと感心するシェリアだった。



 この時アルは、自分にも非があったとは言え、初めて話した時とはまた違うシェリアの砕けた感じの話しようについ合わせてしまったと反省していた。アルはシェリアを盗み見ながら本来のシェリアは、今のように冗談を言って笑っている少女だったのではなかったのかと━━━━…思うのだ。

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