勇気
今回の物語は花が出てきませんが、
花言葉を元にして考えました。
興味があれば是非…。
昼休みの教室での出来事。
「ねえ、まりってゆうごとどうなの?」
「どうって?」
「ほら、仲良いじゃん。付き合ったりしないの?」
不意の質問が飛んできた。
「…!?」
あまりにも予想外な質問だったので、まりという名の女の子は食べ物を口にしたまま驚きの表情を見せた。
喉に詰まらせなかったものの内心は少し戸惑っていた。
そんな2人の女子が会話をしていた。
その女子達の少し離れた席に1人の男子がその会話をこっそりと聞いていた。
「仲良いだけで付き合ったりはしないよ。そんな関係じゃないもん。」
「またまた〜」
そんな会話を聞いてじっとしてられないのかこっそり聞いていた男子が2人の女子達に近づいていった。
「よっ!何話してんだ?」
突然、女子達の会話に割り込んでは不思議そうに問いかけた。
遠くで会話を聞いていたのに、わざとらしく振舞っていたのには気付かれない為なのだろうか。
「噂をすれば…来ちゃったね。」
冷静な女の子の横でもう1人の女の子は
「余計な事言うからでしょ!ったくもう!」
むすっとしてそっぽを向いて黙々(もく)とお弁当を食べ進めていた。
「何々、俺の話?」
どこか嬉しそうに笑みを浮かべながら、2人の女子を見つめた。
すると、その男子の視線に気付いた女子は
「何見てんのよ!誰もあんたの話何かしてないんだから!」
と吐き捨てるように周りに聞こえる大きさで気持ちを言葉にした。
その声に周囲の子達が気付き
「何だ何だ?」
とある男子達が騒ぎが起きた場所へと向かった。
「ゆうご何やってんだよ?」
「何って此奴が俺の事…」
とある子を指差してゆうごという男の子は答えた。
しかし、
「何もあんたの事話してないって言ってるでしょ!」
「だってよ。勘違いで女子を傷つけないほうがいいぞ。」
「…俺は事実を言ったまでで。」
「はい、そこまで!次移動教室だから。早く終えないと、まり。」
まりの友の女子はゆうごという男の子の話を遮ると、さっきの状況が何もなかったようにまりのほうを振り向き問いかける。
「そうだった。」
ただ1人の男の子はその場で呆然としていた。
それを見かねて
「おい、ゆうご。俺達もだろ。」
ゆうごの友が声を掛ける。
「おっ、おう。」
それでも、ゆうごはどこか浮かない表情をしていた。
それを察した男の子は
「ゆうご、どうしたんだよ。悩みがあるなら聞くから早く動け。な?」
そう言って、ゆうごは無理矢理と言っていいほどに連れられてしまった。
「引っ張るな!」
ゆうごはそう最後に言い残したまま。
移動教室の授業中
「おい、ゆうご。悩みあるんだろ。」
先ほどの男子が授業の先生に聞こえないようにゆうごにひそひそと声を掛ける。
「…おっおう。」
ゆうごもひそひそと答える。
「今聞いてやるぞ。」
「授業中だろ。バレたらどうすんだよ。」
「バレないようにすればいい。何の悩みなんだ?」
不真面目な態度の友に呆れてゆうごはスルーするかのように前に向いて授業を受けようとしたが…
「分かった。恋の悩みだろ?」
「は!?」
突然の言葉にゆうごは大声を出してしまった。
「おい、そこ!私語は慎め。」
「はっはい。」
先生に注意されてしまったようだ。
授業が終わり、2人の男子が教室へと戻ると
「先生にバレたじゃん」
「お前が大きな声出すからだろ。ったくよ」
「…ん、そうだよ…な」
ゆうごという男子は友の言葉を軽く聞き流し、教室に入ってきた女子達のほうへと視線を移した。
「おい、ゆうご?」
友人の男子はゆうごの反応が上の空だったのを感じて、ゆうごの視線を自分でも目で追った。
すると、視線の先には女子が2人いた。
「ゆうご…まさか。…そういう事か。何だよ」
男子は知らなかった事が知れてよっぽど嬉しかったのか微笑みを浮かべて小さな声で呟いた。
ゆうごは、はっと我に返ると隣で微笑んでいる友人が妙に不気味さを放っていた事に不快を感じた。
「何、笑ってんだよ。」
「あっ、悪い悪い。ゆうごの好きな子分かっちまったかもしれない。」
「…!?誰だよ?」
キーンコーンカンコーン。
ゆうごが問うように言うと、ちょうど次の授業開始の合図のチャイムが鳴ってしまった。
「また、後でな。」
と友人は自分の席に行ってしまった。
いつの間にか時間が過ぎ、放課後の屋上。
ゆうごは気分転換に屋上に来たのだが、そこである現場を見てしまった。
屋上には先客に2人の生徒がいた。
1人はゆうごの知らない生徒だったが、もう1人の生徒は見知った人物だった。
見つからないように物陰に身を隠すことにしたゆうご。
『あの、屋上にまで呼び出して私に用事って何かな…?』
『俺の事知ってるだろ?ほら、あの時の...。』
『あの時?...あっ、あの時の!?』
そう聞かれたもう1人の生徒は思い出すと、目を丸くして驚いていた。
『そう。それであの時からかな。…まりちゃんのことが…好きになってしまって。いきなりの呼び出しで悪いと思ってる。
でも、どうか付き合ってくれたら嬉しいな。』
ゆうごという男子はどうやら、告白を目の前で目撃してしまったらしい。
ゆうごはその告白の最後まで見ようとはせず、その場に残らずに僅か数分で屋上から離れた。
それから翌日
朝の教室で2人の女子が話していた。
「それで好きな人がいるから断っちゃったの?もったいない。」
「もったいないって…。」
「だって、人気者に告白されたのに断っちゃうなんてさ…。」
「皆、そんな事言うよね…絶対。人間見た目ばかりじゃないのに。」
冷めたように遠くを見るように女子の1人が言った。
「何、まりがまともな事言ってる。本当に好きな人がいるの?」
もう1人の女子は友人が言った言葉に一歩引き、一旦静止したかと思ったら不思議そうな顔をして首を傾げた。
真面目だった。
「…好きな人…いないよ?」
目線を逸らして答えたまり。
「嘘でしょ。いるくせに…」
まりの友人はそれを聞いて面白くなさそうな表情をし、溜息をついた。
「いないってば!」
そう否定し、そっぽを向くと不意にとある男子と目が合ってしまった。
「なあ、ゆうごの好きな女子ってさ…まりちゃんだろ?」
笑顔でそう言い当てるように言うゆうごの友人。
「…ちっ違うし」
ゆうごは、痛いところを突かれたように動揺を見せる。
「嘘付いてもバレバレだぞ。」
微笑み続けて話す友人だったが、それがどこか不気味さを漂わせていた。
明るい教室も友人のところだけ何かのオーラを纏っているように見えたのは他の生徒には思わないのだろう、周りを見ても何も反応していなかった。
「…ゆうご、お前…告白してみたらどうだよ。案外上手くいくかもしれないぞ?」
動揺を隠しきれないゆうごに友人が追い打ちを掛けるように続ける。
「ばっ馬鹿言うな。」
そう、焦るような声を出すと不意にとある場所に視線を移す。
その瞬間、とある女子と視線が合ってしまったのだ。
ゆうごは女子に目を合わせたまま、じっとしていた。
すると、
『何見てんのよ…!』
女子の口元がそんな風に聞こえたような気がした。
咄嗟にゆうごは
『見てねえよ!』
そう口元を動かした。
通じなかったのか、女子がゆうごの方へと近付いてきた。
それは、まりという女子だった。
「なっ、何でこっちに来るんだよ」
ゆうごは慌てて少し大きめな声で喋りだした。
「だって、何て言ったか分からないから!」
それに答えるまり。
「…言ってない。」
ゆうごは面倒くさそうに答えた。
「…言ってた!」
「言ってない。」
否定と肯定のやり取りの繰り返しに隣にいたゆうごの友人は呆れた顔をしていた。
それにつられてゆうごも呆れていた。
そして、
「分かった。放課後、話あるから屋上に来い。」ゆうごがとうとうまりに折れた。
「…うん、分かった。」
素っ気ない返事をしたまりは、その後自分の席に戻っていった。
「ゆうご、ついに告白するのか?」
「違う。気になった事を聞くだけ。」
「気になった事を聞くって?」
「お前には言わねえよ。」
「何だよ…つまらない。」
それから、何時間経っただろう。
いつも通り授業を受けていると、あっという間に放課後になっていた。
放課後の屋上では、既にまりとゆうごがいた。
「あっあれは断ったけど、あんたが何で知ってるのよ!」
「たまたま屋上に行ったら、告白されてたんだよ。」
「たまたまね…。何か怪しい…。」
まりはゆうごの顔を覗き込むように顔を近付けていた。
「疑うなよ。本当にたまたまだし。でも…よかった。」
まりの行動にゆうごは少し顔を赤らめ顔を隠した。
「…今、何て言ったの?」
「は?」
まりの問いに場の空気が重くなるのが一気に押し寄せてきたみたいだった。
「良かったって…。」
まりは恐る恐る言葉にする。
「言ってない。」
「ふーん。そう…」
浮かない表情をして不意に背を向ける。
数秒の沈黙が流れた後だった。
「私…ゆうごが好きだから、他の男子からの告白振ったんだよ…。」
小言でも言ってるかのように、小さな声でまりはそう言った。
「…え?」
「だから、あんたの事が好きなんだってば!」
今度は大声で言葉に出した。
「マジか…。俺もまりの事好き。」
「…あんたも!?」
「おう、だから付き合って下さい。」
「何、敬語になってるのよ。もちろん」
2人は嬉しそうに手を繋ぎ、幸せそうに微笑みあった。
やっと、言えた一言。
勇気を振り絞って言えた事。
これから、この2人がずっとずっと幸せでありますように。
勇気 byマリーゴールド end




