第8話 脱出
迫りくるドラゴンの圧力に屈することなく、乙葉はショットガンを連射した。
『ドン!』と、最初の1発が十数メートル先に向かって放たれた。
が、ドラゴンの勢いは止まない。
『ドン!』という2発目はドラゴンの顔面を捕えたように見えた。が、それでも勢いを削ぐには至らない。そして間髪入れずに3発目を撃とうとしたところで乙葉が目を剥いた。
「い!? あれ!?」
引き金を引いたのに弾が発射されない。
「うそ! やだ!」と、乙葉が慌てる。
しかし、ドラゴンは待ってくれない。低空飛行で向かって来るドラゴンの足が地面すれすれに迫ってくる。それは猛禽類の足をグロテスクに進化させたような邪悪な形をしている。しかも爪の部分だけでも包丁ぐらいの大きさだ。
「やだっ!」と、乙葉は反射的にショットガンを突き出して顔面をガードする。
強烈な風圧! そして『ガキンッ!』という衝撃!
両手で掲げたショットガンを蹴飛ばされた乙葉が「ぎゃっ!」と、尻もちをついてしまう。それを尻目にドラゴンは、あっという間に去っていく。まるで竜巻が通過するみたいに風圧が周囲を蹂躙した。
余りの迫力にモエは、微動だにすることができなかった。乙葉はバンザイの姿勢でショットガンを掲げたまま引っ繰り返っている。嵐の後の静けさが不気味な存在感で4人に圧し掛かる。
「行ったのかナ……」と、野乃花が恐る恐る茂みから顔だけを出す。
モエはドラゴンの行方を気にしながら乙葉に駆け寄った。
「大丈夫か? 乙葉!」
「う、うーん……なんとか」と、おヘソどころかお腹を丸出しにしていた乙葉が上体を起こす。
「どや? ケガはないか?」
「うん。それは平気。これのおかげで助かった……」
そう言って乙葉はショットガンをしげしげと眺める。
「そうか。けど、ムチャすんなや」
「へへ。ゴメン」
乙葉の様子を見る限りドラゴンに蹴飛ばされたダメージは残っていないようだ。モエはホッとしながら、もう一度ドラゴンが飛んで行った方向に目を凝らした。が、その姿はどこにも確認できなかった。
「なんとか行ってくれたみたいやな。けど、あれはヤバイで……」
昨日の大蛇も現実離れしていたが今回はよりによってドラゴンだ。架空の生き物という点で大蛇とは存在感がまるで違う。それに大きさもスピードも桁違いだった。例えるなら暴走トラックが目の前を通過していったようなものだ。それに立ち向かっていった乙葉は無謀すぎるとモエは思った。
乙葉はすっくと立ち上がってショットガンを構える。
「でも、おっかしいなぁ」
「どうしたん?」
「なぜか3発目が撃てなかったんだよね」
「そうなん? それ、弾切れとちゃうん?」
「弾!? ああ、これって弾が要るんだ」
そう言って乙葉は引き金を引く。すると『ドン!』と、弾が発射された。
「あれっ? 何で今更?」と、乙葉は目を丸くする。
そこにいつの間にか茂みから出てきた詩織が尋ねる。
「そ、そ、それって、弾はどうしてるの?」
「え? 知らない」と、乙葉はあっけらかんとそう答える。
詩織はやれやれといった風に首を振る。
「そ、その銃ってショットガンっていうんでしょ? え、映画とかで見たことあるけど、弾が大きいんだよね」
「へえ、そうなの?」
乙葉は初耳だといった風にそんなことを言うのでモエが呆れる。
「そんなことも知らんで使とったんか? で、今まで何発ぐらい撃ったん?」
「うーん。十発ぐらいかなぁ」
それを聞いて詩織も乙葉に確認する。
「た、た、弾の補充はしてないの?」
「したことないよ。てか、どこから弾を入れるのかも知らないし」
「そ、そんなバカな」と、詩織が乙葉のショットガンに手を伸ばす。
「ホントだって」と、乙葉はショットガンを詩織に持たせる。
マズル(銃口)はシルバー。バレルジャケットは白くツヤツヤした強化プラスチックのようなもので覆われている。ストック(肩当て)は、まるで高価な陶器のような質感で銃というよりは装飾品、それも貴族の広間に飾られているような代物だ。
詩織はしばらくショットガンを調べていたが首を振る。
「ぜ、全然分からない。ど、どこからどうやって弾を入れるのかな?」
そのやりとりを見ていた野乃花が呑気そうに言う。
「弾なんか要らないんじゃないノ?」
「そんなアホな。せやかて……いや」
モエは詩織からショットガンを受け取って、しばらくそれを眺めまわしてから唸った。
「うーん。やっぱり弾を入れるとこが無いなあ。けど、ちゃんと撃てるんやろ?」
乙葉がコクリと頷く。
「うん。撃てるよ。前にそれでタコを倒したもん」
「ホンマかいな……いや、そっか。そういや何かゲームセンターでそういうのがあったな。リロードっちゅうのかな?」
それを聞いて野乃花が目を輝かす。
「それだ! エネルギーなんだヨ。ひょっとしたらエネルギーが溜まらないと撃てないんじゃない?」
詩織は妙な顔をして首を捻る。
「じゅ、銃なのに? エネルギー? へ、変なの……」
乙葉はショットガンをモエから受け取りながら言う。
「つまり、いっぺんに何発も撃てないけど時間を置いたら撃てるってことね」
「けったいな話やな。どないなってんねん?」
モエの呆れ顔に対して乙葉は軽い調子で答える。
「まあ、撃てればいいんじゃない?」
『ヘソ出し元気娘』らしく細かいことは気にしないのは乙葉の良いところだ。だが、もしも乙葉のショットガンのように弾が無くても銃が撃てるとなると、それはヘレンのライフル銃にも同じことがいえるかもしれない。モエは、その可能性について考えた。
「つまり、弾切れが無いっちゅうことかいな……」
そう言ってモエは複雑な顔をした。
* * *
智世がハルバードを手にフラフラと病室を出てきたイリアに声を掛ける。
「イリアちゃん。それって……」
「え? ああ……これね」
「それって、もしかして?」
「うん。病室の中にあったの。十字架と一緒に。どうやら私のものみたい」
「病室にそんなものが? そうなんだ……」
智世はそう言ってイリアの武器をチラ見する。まるで見てはいけない物を前にして戸惑っているようだ。
ハルバード(斧槍)は、槍の先端である尖った部分と斧が一体化した武器だった。形としては『けん玉』みたいなのだが、その構造は武器版の『キメラ』で、槍のように突いても斧で斬っても敵に大ダメージを与えることは確実だ。長さは1メートル半ぐらいで色は白色銀。持ち手部分は白地に金色の蔦模様が施されている。それは外国の博物館に収められているような中世風の武器だった。
智世が上目遣いで尋ねる。
「それ、持って帰るの?」
「ん……まあ、一応ね」
智世の不安そうな顔を見てイリアが強張った笑みで取り繕う。
「あ、いや。なんていうかな。これを持ってると落ち着くっていうか、私が持ってないと駄目な気がして……それにこの島には変な生き物が居るみたいだし」
何となく気まずい雰囲気になってしまった。これ以上、上の階を見て回ったところで成果はなさそうなのでイリアは下の階で物資を集めることを提案した。また、暗くなる前に帰ることを考えて二手に別れて探索を続けることにした。
一階に戻ってイリアは薬品棚を漁って薬を調達した。幸い、幾つかの薬品は英語またはドイツ語表記のものだったので止血剤、痛み止め、抗生物質、そして血清を確保した。併せて注射器と注射針もバッグに詰め込んだ。その間に智世は食料を探した。しかし、厨房は見つかったものの、残されていたのは調理器具や調味料ばかりで食べられそうなものは皆無だった。せめて売店でもあれば良かったのだろうが院内にそれらしき場所は無い。それに待合室にあった唯一の自動販売機は紙コップ式のものだった。
ロシア語で表示された自販機を前に智世が途方に暮れていると、イリアがすっと現れて無言でコインを幾つか投入した。驚く智世にイリアが冷静に尋ねる。
「どれがいい?」
「え? あ……なんでも」
「自分の飲みたいものを言わないと。そういうの好きじゃない」
怒っている訳ではないのだろうがイリアのそういった言い方は智世を委縮させた。
「ゴメン……じゃあ、ミルクティーで」
智世のリクエストを受けてイリアがボタンを押す。すると機械が動き出してカップが排出された。そこに飲み物が注がれるのを待ちながら智世がイリアの様子を観察する。そして、彼女が手にしている小銭に気付いた。
「イリアちゃん、それ……」
「ん? ああ、そこの受付にレジがあったの」
「え? 持ってきちゃったの?」
「うん。だってルーブルなんて持ってないし」
しれっとそんなことを言うイリアの横顔を見つめながら智世が力なく笑う。そこで自販機の動きが止まった。
「取って。私も飲むから」と、イリアが智世を促す。
結局、2人は無人の薄暗い待合室でしばらく休憩した。飲み物は想像していたよりも甘かったが、疲れた身体には心地よかった。
2人が病院を出る頃には暗くなりかけていた。あれほど晴れていたのが嘘のように空は灰色の雲で占められている。
「寒い……」と、イリアが身震いする。
「あ、降ってきた」と、智世が手のひらに雪を受けながら空を見上げる。
「急ごう。本降りになる前に」
「うん」
院内で拝借した上着を羽織っていても下は2人とも短いスカートだ。それに来るときに遭遇したサーベルタイガーの存在も気になった。そのせいで自然と足早になる。なるべく積雪の少なそうな場所を選んで歩くが足首までは、どうしても埋まってしまう。それに時折、靴に纏わりつく雪を落とさないと足が重くて仕方が無い。
会話をする余裕も無く2人は来た道を黙々と辿った。と、その時、突然イリアが後ろからの圧力に吹っ飛ばされた。
「きゃっ!」と、いうイリアの悲鳴に前を歩いていた智世が振り返る。
「イリアちゃん!? いっ!?」
だが智世の叫びは瞬時にかき消されてしまった。いや、正確には智世が押し倒されてしまったことで急に声の出所が下がったのだ。
急に現れたのはサーベルタイガーだった。それは背後からイリアに体当たりを食らわせ、続いて智世にも突進してきたのだ。サーベルタイガーは仰向けの智世に覆い被さろうとした。前足で智世の胸付近を押さえつけ、鋭く長い牙の先端で智世の顔面をなぞる。まるでどこにそれを突き刺すか吟味しているように。
「や! やめっ! やだ……」と、智世が必死に頭を振って抵抗する。
智世の叫びと雪の冷たさで我に返ったイリアは何とか起き上がり、武器を探す。突き飛ばされた時にハルバードを手放してしまったのだ。
「う……」と、よろめきながら絶体絶命の智世をチラ見して次にハルバードに目を遣る。躊躇している時間は無い。いうことを聞かない身体にムチ打ってイリアは武器を手にしようと雪を掻き分ける。
その間にも智世の悲鳴が絶えず聞こえてくる。
ようやくハルバードに手が届いた。それを手にした瞬間、イリアの目つきが変わる。恐怖と焦りで強張っていた表情から感情がふっと消え去った。
イリアはサーベルタイガーを睨みつける。そして迷うことなく一直線に駆ける! そしてジャンプ一閃、右手を振り上げ、遠心力を利してハルバードの先端部分を振り下ろす。
「離せっ!」
ハルバードの斧がサーベルタイガーの首筋に当たった。添えた左手にも力を込める。すると『ギャウッ!』と、サーベルタイガーが怯んだ。
「浅い……」と、イリアは手応えに物足りなさを感じた。確かに傷をつける程の一撃は与えられなかった。そこは流石に腰が引けていたせいかもしれない。
着地と同時に左足が積雪に大きく沈み込んだ。そこでバランスを大きく崩してしまう。
「くっ!」
イリアは体勢を立て直しつつ敵の様子を伺う。が、サーベルタイガーの咆哮がイリアの聴覚を塞いだ。
「くっ……耳が……」
近距離で聞くそれは鼓膜が破壊されそうなほどの音量だ。
顔を顰めながらイリアはハルバードを杖代わりにして足を引っこ抜く。
咆哮を合図にサーベルタイガーはイリアに照準を合わせてきた。ゆっくりと頭をイリアの立つ方向に向け、低い唸り声で牽制してくる。
「今度は引かない!」
イリアは槍を突く為の体勢でハルバードを構える。
サーベルタイガーは飛び掛かるための体勢をとる。
近距離での睨み合い。だが、イリアに迷いは無い。
『ガァッ!!』と、先にサーベルタイガーが動いた。相手の動きに合わせて突く! それは意図したものではなかった。が、結果的にイリアの渾身の突きはカウンターとなって深くサーベルタイガーの頬を抉った。
『ギャオッ!!』と、サーベルタイガーが飛び退く。そして何度か雪に身体を擦り付けながら転がると、バッと起き上がって一目散に逃げ出した。
雪の上に残された血を眺めながらイリアは必死で息を整える。
「ハァ、ハァ……そうだ」
無我夢中だったので智世のことは眼中になかった。慌てて智世に駆け寄って無事を確かめる。
「怪我は無い?」
イリアに抱き起された智世が無理に笑顔を作る。
「うん……ありがと。もうダメかと思った」
「ゴメン。もっと早く助けてあげられれば良かったんだけど」
「ううん。そんなことない。イリアちゃんは命の恩人だよ!」
「そんな……大げさだよ」
「イリアちゃん、すごい勇気あるよね」
「勇気? いや、そういうわけじゃないんだよね。たぶん……」
「え? どういうこと?」
「これ……これを握った時、シャキンとしたんだ。やらなくちゃって。武者震いっていうか……」
そういってイリアはしげしげとハルバードを眺めた。槍の先端には血が着いている。そこに白い毛が混じっているのを見つけてイリアは顔を顰めた。そして先端を雪に何度も擦り付けて汚れを落とそうとした。
智世が自分の頬を撫でながら情けない声を出す。
「うぇ……なんか、ベトベトしてる」
恐らくサーベルタイガーの牙で顔を撫でられた時に唾液がついてしまったのだろう。
イリアはハルバードを片手に背筋を伸ばすと、智世に手を差し伸べながら言った。
「さ、帰ろう。で、早くお風呂に入ろ」
その笑顔に智世の顔も自然と綻んだ。
* * *
南風荘に着くなり利恵は大きなため息をついた。
「駄目ね。あの子たちは」
それは利恵にしては珍しく険しい表情と低い声だった。我儘な玲実達には心底、愛想が尽きたといわんばかりだ。
桐子が意外そうな顔をする。
「へえ……君がそんな風に言うなんてね」
利恵は眼鏡の位置を直しながら「そう?」と、首を傾げる。
「そうだよ。だって優等生タイプの君がそんなこと言うなんてさ」
桐子にそう指摘されて利恵は苦笑いを浮かべる。
「私だって好き嫌いはあるわ。ていうか元々、ああいう子は許せない性質なの。協調性が無いくせに。権利ばかり主張する人って大嫌い」
「おおっと。手厳しいね。とうとう見限ったってことかい?」
「そうね。もう、関わらないようにする。見てるとイライラするから」
そんなことを話しながら2人は南風荘のロビーに戻ってきた。
薄暗い室内を見回して利恵がヘレンの姿が無いことに気付く。
「あれ? ヘレンさん……」
利恵が探しに行こうとするが桐子がそれを制する。
「やめとこう。そっとしておいた方がいい。傷の具合は気になるけどね」
桐子にはヘレンの流した涙はモエの戦斧で切り裂かれた痛みというよりも悔しさや理不尽さに対する怒りだったように思えたのだ。
少しずつ暗くなっていくロビーで2人はそれぞれソファにもたれて思いにふけった。明かりをつけるでもなく、窓から差し込む光が遠ざかっていくのをぼんやりと見守る。途中で桐子が飲み物を取りに行き、瓶入りのコーラを2本持ってきて無言で利恵に手渡した。
「珍しいね。瓶入りなんて初めて」と、利恵が目を細める。
「だろ? よく冷えてるよ。冷蔵庫で冷やしておいたんだ」
「冷蔵庫ね……あっ!」
突然、利恵が大きな声を出したので桐子が目を丸くする。
「どうした? 急に」
「電気! 電気はどこから来てるの?」
「どこって……電柱からじゃないのか?」
「ううん。私が言ってるのは電気を作ってるところ。つまり、発電所よ」
「そういえば変だな。それっぽい施設は無かったような……」
「もしかしたら海底ケーブルでどこかと繋がっているのかも! だとしたら、この島はそんなに離れ小島じゃないはずよ」
「そうかなぁ。山に登った時、陸地は全然見えなかったけどな」
「見えなかっただけで意外と近いのかもしれないよ?」
そういって利恵は目を輝かせる。
「いや。だから、それがどうしたっていうんだい?」と、桐子は困惑する。
すると利恵は眼鏡の奥で目を光らせ含み笑いを浮かべる。
「フフ。海を渡って脱出できるんじゃない?」
「あ、そうか! なるほど!」と、桐子が手を打つ。
「このまま誰も助けに来なかったら考えてもいいと思うの。筏を作るとか。最終手段だけどね」
「おお! なんか希望が出てきたな」
筏の材料はどうするとか誰を連れて島を出るかとかを2人で話していると、そこにびしょ濡れになったぽっちゃり和佳子と姉御肌の愛衣が戻ってきた。
「あれ? どうしちゃったの?」と、利恵が2人の姿を見て驚く。
「エヘ。にわか雨……」と、和佳子が舌を出す。
和佳子は紺のブレザーにグレーのチェック柄スカートの制服を着ている。が、スカートが濡れて真っ黒に見える。
愛衣がロビーの明かりを点けながら嘆く。
「私のせいなの。名前に似合わず雨女だから」
そういう愛衣のセーラー服も濡れて濃い紫色になっている。
「やれやれだね。タオル持ってくるから待ってな」と、桐子がロビーを出て行く。
利恵は愛衣と和佳子にお風呂を勧めた。
その後、夜になってイリアと智世が戻ってきた。
泥だらけなうえにコートや革ジャケットを着た2人を見て桐子が驚く。
「それ、どうしたんだい? ていうか、どこまで行ってたんだ?」
しかし、桐子の質問を遮るようにイリアが首を振る。
「疲れてるから。明日詳しく話す」
イリアはそういって彼女以上に消耗した様子の智世を気遣った。イリアに支えられて歩くのがやっとの智世は顔色が悪い。
これで南風荘組は、利恵、桐子、愛衣、和佳子、イリア、智世、ヘレンの7人となった。
* * *
翌朝、日が上るとほぼ同時ぐらいに誰かが南風荘の玄関で呼び鈴を連打した。
「誰だ? こんな朝早く……」
桐子が目をこすりながら玄関に向かう。
騒音に叩き起こされた愛衣と利恵もそれに続く。
施錠していた玄関の扉を開けると、そこには玲実が鬼の形相で立っていた。
「なに? 朝っぱらから?」と、利恵が不機嫌そうにいう。
すると玲実はツカツカと利恵に歩み寄り、いきなり利恵に『バチッ!』と、平手打ちをした。
「痛っい!」
利恵が頬を押えながら絶句する。桐子と愛衣は呆気にとられる。
玲実は苛立ちを隠せない様子で身体を揺する。そして利恵に向かって言い放った。
「あんたの仕業でしょ! ふざけないでよね!」




