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第7話 遭遇

 湿地帯を通り抜ける際に詩織が提案した。

「ね、ねえ。あ、あの見張り台に籠るのはどうかな?」

 そう言って詩織の指差した方向には高い矢倉があった。湿地帯のほぼ中央に位置するそれは以前に乙葉が上って内部を確認したものだ。異様に長い4本の柱にログハウス風の小屋が載っていて見張り台のようにも見える。そのため詩織は周囲を見渡すことができると考えたのだろう。

「あ、あそこなら安全なんじゃないかな? ま、周りが良く見えるから」

 しかし、詩織の言葉に対して乙葉が即座に首を振る。

「いや、無理だよ」

「ど、どうして?」と、詩織は納得できないという顔をする。

 乙葉は室内の落書きを思い出しながら言葉を濁す。

「だって……狭いし、上り下りも大変だし。止めといたほうがいいよ」

 野乃花はグラマーな身体をくねらせながら同意する。

「アタシも無理! あんな高いトコ、上れないヨ~」

 胸とお尻に集中して肉が付いている野乃花に縄梯子を長々と上るのは難しいと思われた。

 モエが腕組みしながら決断する。

「せやな。止めとこか」

 1対3では分が悪い。詩織は何か言いたそうな顔で「うーん」と、小さく唸る。そんな詩織の肩にモエが手を置く。

「あのな。確かに高いところの方が安全かもしれへん。けど、周り見てみ? 何もあらへん。せやからメッチャ無防備なんや」

 モエの説明に詩織が「あ!」と、声を出す。

 乙葉が神妙な顔つきで頷く。

「そうそう。それになんかあった時に逃げ場が無いよね?」

 乙葉は何者かに襲われた場合を想定してそう言ったのだ。

「乙葉。地図出してくれへん?」と、モエがスマホを出すよう乙葉を促した。乙葉はスマホを取り出して矢倉の内部で撮った地図の落書きを画面に表示した。

 モエがそれを操作しながら言う。

「大丈夫。当てはあるんや」

 それを聞いて野乃花と詩織が顔を見合わせる。

 モエはスマホの画面と湿地帯の先にあるジャングルを見比べる。

「あの先や。昨日の場所より、もうちょっと先に行ったところに建物があるはずやで」

 確かに地図上のジャングルの先には四角がぽつんとひとつ書き込まれている。さらに拡大してみると、うっすらと何かのマークが見て取れる。

 詩織が何かに気付く。

「こ、こ、これって、お、温泉?」

「たぶんな。どや? なんか行ってみたくなるやろ?」

「温泉、いいネ! 入りたい!」と、野乃花の顔が綻ぶ。

「賛成。そこなら安心かも」と、乙葉も笑顔をみせる。

「決まりやな。ほな、行こか!」

 ウキウキした足取りの野乃花を先頭に4人はジャングルに向かった。


 ジャングルのケモノ道に足を踏み入れた4人は、昨日の記憶を頼りに一本道を進む。相変わらず熱帯雨林特有の草や葉っぱの浸食が酷くて、ところどころ迂回を余儀なくされた。

 モエは周囲を警戒しながら先を行く野乃花に警告する。

「あんまり急がん方がええよ。何がおるか分からんからな」

 モエの言葉を聞いて詩織は昨日の巨大なヘビを思い出した。未だにあれが現実のものとは信じられなかった。人間すら丸呑みしてしまうような巨大なコブラ。しかも得体の知れない色と形状。あれは夢か幻想だったのかもしれない。しかし、4人が皆、現実離れした生き物に遭遇したことは事実だ。小心者の詩織にとってジャングルに入ってからの道中は緊張の連続だった。そんな詩織の固い表情に気付いた乙葉が振り向いて笑顔をみせる。

「心配ないよ。今度は大丈夫だから」

 そう言って乙葉は手にしていたショットガンを軽く掲げた。元気印のヘソ出し乙葉の笑顔に「う、うん」と、詩織もつられるように微笑んだ。

 どれぐらい歩いただろうか。昨日、乙葉が戦斧を発見した場所を越えて、さらに一本道を奥に進み続けると急に開けた場所に出た。地表を隠すように密集していた樹木が途切れて周囲は日差しを浴びた黄緑色の草だらけになった。

「な、なんか暑いね」と、詩織が汗を拭う。

「せやな。直射日光を浴びると暑いな」と、モエが息を吐く。

 乙葉は肩や首を回しながら緊張をほぐす。

「でも、ジャングルよりこっちの方がいいよ」

 先頭の野乃花は歩きながら背筋を伸ばす。

「うーん。なんか開放的な気分になるネ」

 うっそうとしたジャングルを抜けたところで4人はホッとしたのだろう。皆、表情が明るい。ところが、一瞬……ほんの一瞬だが周囲が闇に包まれた。それは明るさに目が慣れていたせいで、そう感じられただけかもしれない。が、野乃花の前方で急速に遠ざかっていく暗い空間の存在と『バサッ!』という上空からの音で異変を知る。

 モエが音のした方向を見上げながら仰天する。

「う、嘘やろ……」

 モエ達の前方、地表からは数十メートルだろうか。その辺りの空間を何かが飛行している。その高さから飛行機とは考えられない。

「と、と、鳥!?」と、詩織が目を凝らす。

 だが、鳥というには大きさがまるで違う。というよりも翼を広げたそれは暴力的な視覚で詩織を凍りつかせた。

 野乃花は目を丸くしながら口を開く。

「なにアレ? 超デカくない? ハゲタカ? それともワシ?」

 モエがゴクリと唾を飲み込む。

「いや……あんなにデカないで。てか、鳥やないやろ……」

 詩織がガタガタ震えだす。

「ば、ば、化け物だよ……変種かも? き、昨日のヘビみたいな」 

 乙葉がショットガンを両手で抱えながら顔を強張らせる。

「ひょっとして巨大化した鳥?」

「だったら、まだマシや。ウチにはモンスターにしか見えへんかったで」

 モエの言葉を聞いて乙葉が困惑する。

「モンスター……」

 野乃花が引きつった顔で無理におどけてみせる。

「じょ、冗談やめてよネ! そんなの漫画だけだヨ」

 しかし、モエの表情は硬い。

「分からへんで。何があってもおかしない。ここは……そういうトコや」

 そう言ってモエは戦斧を握り締めた。


    *   *   *


 無人の病院内は最低限の明かりしかついていなかった。しかも冷え切っている。非常灯に照らされた院内には車椅子や点滴を吊るしたスタンドが放置されていて、まるでつい先程まで患者達で溢れていたのではないかと思われた。夜の病院というよりも廃墟に近い。だが、散らかっているという風にも見えない。人だけが消えてしまったという方が正しい。その点、最初に訪れた港町の民宿街と同じだ。

 智世はイリアの背中に隠れるようにピッタリとくっついてくる。

「やだ。怖い。みんな、どこに行ったのかな……」

 イリアは冷静に周囲を観察しながら首を傾げる。

「まるでどこかに避難したみたい。その割に乱れてはいないようだけど」

 イリアはそう言って廊下に設置された長椅子に目を向けた。そこにはヌイグルミと絵本が残されている。さらに廊下の壁際には何かの検査に使うのだと思われるキャスター付きの機械が何台か並んでいた。明かりが乏しいせいで廊下の先までは見えない。それが不気味だ。

 智世はすっかり腰が引けている。

「ね。誰もいないよ。たぶん、無駄だよ。ね、引き返そ?」

 しかし、イリアは首を振る。

「もう少し見て回るわ。何か役に立つものがあるかもしれない」

「食料とか?」

「それはあまり期待できないかも。その代り、医療品が調達できると思う」

「医療品? なんでそんなもの?」

「万が一のこと考えて……ほら、大ケガする子が居るかもしれないじゃない」

 イリアは昨日のことを考えながらそう答えた。崖から落ちたり、怪物に襲われたり、何者かに傷つけられたり……こんな状況では何があってもおかしくない。

 智世は泣きそうな顔で尋ねる。

「でも、イリアちゃん。薬とか分かるの?」

「分かるって程じゃないけど家にその手の本が普通にあったから。ただ、問題はロシア語で書かれてたら読めないかもしれない」

「凄いね。イリアちゃんのお家って医者だったの?」

「母がね。もともとは医学を学ぶ為に来日したみたい」

「お父さんは?」

 智世の発した言葉にイリアの表情が変わった。彼女は冷めた目で吐き捨てる。

「さあ? 興味ないわ」

 イリアの反応に智世が察した。父親のことは聞いてはいけないことだったのだ。

「ごめん……」と、智世がうな垂れる。

「なんで謝るの?」

「いや、なんか……」

 こういう時に智世は口下手で思っていることがうまく伝えられない。それは本人も自覚している。そのせいで彼女はすっかり落ち込んでしまった。

 イリアが軽く溜息をついて笑顔を見せる。

「さ、行こ。上の階に行ってみようよ」

「……う、うん」

「そうだ。その前に何か着るもの調達しない? 寒くて敵わないわ」

「あ、そうだね」

 サーベルタイガーに追われて走ったせいか、しばらくは気にならなかった寒さがここにきて身に染みた。2人は幾つかの部屋を回って羽織れるものを探した。幸いにもロッカールームのような場所でフード付のピーコートとボア付の厚手の革ジャケットを入手することが出来た。智世がコートをイリアがジャケットを着た。だが、足元の寒さはどうにもならない。

 イリアが白い息を吐き出しながら足踏みする。

「ちょっと動いた方がいいね。急ごう」

 

 3階から上は入院患者向けの病室になっていた。しかし、予想通り人の姿は皆無だ。手分けして幾つかの部屋を回ったが似たようなもので特に目立ったものは発見できなかった。だが、奥まったところに並ぶ個室にイリアは違和感を持った。

「あれ? あそこ……何か変」

 イリアは薄暗い廊下の先にあるものを見て首を傾げた。無音の中、イリアの足音の代わりにリノリウムの床がキュッキュと鳴る。

「バリケード?」と、イリアが呟く。

 第一印象はまさにそれだった。良く見ると医療器具を乗せた台車が数台、行く手を塞ぐように廊下を占拠している。院内は比較的、整理整頓されているが、そこだけ無理やり台車を寄せ集めたみたいになっている。さらに近寄ってみるとガラスや金属の破片が床に散乱していた。

「これは……」

 台車に載った器具はどれも破損していて中には黒焦げになっているものもある。そして近辺の壁には不自然な穴が見受けられる。

「……何があったの?」

 只ならぬ廊下の様子にイリアは妙な胸騒ぎをおぼえた。この先に何かある。そう確信して台車を押して隙間を作り、その先に進む。苦労して隙間を抜けると半開きのドアが目に入った。

「あっ!」

 イリアは思わず口を手で押さえた。なぜなら病室のドアの下半分に血痕のような黒い汚れが塗りたくられていたからだ。ここで悲鳴をあげてしまうと他の部屋を回っている智世を怖がらせてしまう。そう考えてイリアは嫌な気分を堪えながら足でドアを押し開いた。そして、ゆっくりと中を覗き込む。

「うっ!」

 堪らず両手で口を押える。想像以上に室内は酷いことになっていた。声を漏らさないようにするのに苦労した。いや、口を塞いでいないと吐いてしまいそうだった。

「な……なんなの……」

 白い壁、床、ベッド、カーテン。それは他の病室と変わりない。だが、壁や床に広がる黒い汚れは血が飛び散ったものと思われる。しかも、左手の壁には大きく『死ね』『死ね』『死ね』の落書き……それも血で描いたような殴り書きだ。それらを一瞥してイリアは悟った。ここで何があったのかは容易に想像できる。

「これって……」

イリアは南風荘の惨劇を連想した。2日目の朝に見せつけられた敏美の殺害現場。それは真っ赤に染まった絶望的な光景だった。この病室に死体は無い。だが、どす黒い痕跡の拡がり具合といい、異様な落書きといい、ここには狂気が凝縮されている。

「誰がこんなところで……」

 イリアは混乱した。この雪が積もる街に足を踏み入れたのは自分達が最初のはずだ。しかし、ここで誰かが誰かに手をかけたのは確実だ。だとしたら自分たちの他にも何者かがこの島に上陸していたというのだろうか? イリアはその考えを振り払うように首を振る。黒く変色した血の痕跡は時間の経過を物語っている。そうなると消えた人々の失踪と関係しているとも考えられる。幾つかの仮説に思いを巡らせている時、ふいに窓際で何かが光った。恐る恐る近づいて目を凝らす。

「あ!」

 それは病室には不釣り合いな金属の物体だった。斧のような形の金属、それが槍のような形状のものと一体化している。見た感じは昔の武器のようだ。それが窓際の壁に立てかけられている。まさかと思ってイリアはさらに近づく。そして見つけてしまったことを後悔した。そこには噂に聞く白い十字架が床に転がっていたのだ。半ば脱力しながらイリアは十字架に刻まれた文字を眺める。

『ILLIA』と刻まれた自分の名を目の当たりにしてイリアは息を飲んだ。


    *   *   *


 思わぬ来客に玲実は少し驚いた。

 山海荘を訪れたのは利恵と桐子の2人だった。しかし、その表情は硬い。

 5人はロビーで対峙しながら気まずい雰囲気を持て余していた。

 次第に不機嫌になっていく玲実が髪を乾かしながら尋ねる。

「で、何か用?」

「戻れって言うならお断りだよ」と、望海がぶっきらぼうな口調で利恵を睨む。

 利恵は眼鏡の位置を直しながら桐子の顔を見る。そして桐子が頷いたのを確認して用件を切り出した。

「一応、知らせておこうと思って来たの」

「は? 知らせるって何を?」と、玲実は利恵に対して冷ややかな視線を向ける。

 利恵は玲実の反応に戸惑いながらも話を続ける。

「モエさん達が出て行ったわ。武器と食料を持って」

 それを聞いて望海が「フン」と、首を竦める。

「別行動ねえ。ホントに出て行ったんだ。あの子」

 利恵は淡々と報告を続ける。

「モエさんに付いて行ったのは野乃花さん、乙葉さん、それから詩織さん」

 梢はそれを聞いて顔を顰めた。そして不安そうに利恵と桐子の顔を見比べる。

 桐子がツインテールの髪の毛を弄りながら補足する。

「戻ってくるつもりはなさそうだ。ていうか、ちょっと問題があってね」

 桐子の言う『問題』に望海が興味を示す。

「問題って? 揉めちゃったりしたとか?」

 利恵は慎重に言葉を選ぶ。

「喧嘩というか、モエさんがヘレンさんに怪我をさせてしまったのよ」

「へえ、あの2人がねえ」と、望海が身を乗り出す。「で? どうなったの?」

 利恵が少し困って助けを求めるように桐子を見る。

そこで桐子が仕方ないなといった風に利恵に代わって説明する。

「はずみだと思う。お互いに武器を持ってたからね。結果的にヘレンが傷ついてしまったんだ」

 桐子は彼女なりに大げさにしないように言葉を選んだつもりだった。が、望海は野次馬気分で詳細を知りたがる。

「傷ってどんな? ヤバいの? 血は出たのかな。てか、武器使ったってことは、あのでっかい斧でやっちゃったってこと?」

 ヘレンの手当をした2人にとって望海の反応はデリカシーの欠片もないように感じられた。少々、苛つきながら桐子が言い放つ。

「なに面白がってんだ。仲間が大けがしたっていうのに。ふざけんな!」

 桐子が急にキレたので望海がきょとんとする。代わりに玲実が言い返す。

「は? なに怒ってんの? 状況、聞いただけじゃん」

 桐子はキッと玲実を睨みつけると利恵の手を引いて「行こう。利恵」と、立ち上がり、ロビーから出て行こうとした。玲実と望海は冷ややかな目で2人の動きを追う。梢だけはオロオロしながら成り行きを見守っていた。

 最後に桐子が捨て台詞を残す。

「好き勝手するのはいいけどさ。気を付けなよ」

 それだけ言い残して桐子は玲実達に背を向けた。

「なにアレ? 宣戦布告?」と、望海が吐き捨てる。

「ごていねいにどうも! 委員長さん!」と、玲実が聞こえよがしに皮肉る。

 利恵は情報共有するつもりでイザコザのことを律儀に伝えに来たのだろうが、その優等生的な振る舞いがかえって玲実を苛立たせた。

 玲実は怒りを鎮めるように髪を触りながら同意を求める。

「何しに来たんだろうねぇ?」

「そうだよ。余計なお世話だっつうの」と、望海が苦い顔をする。

「団体行動なんてまっぴら」

 そう言って涼しい顔をみせる玲実のことを梢は心配そうに見つめた。


    *   *   *


 野乃花が息を弾ませながら「もう直ぐだヨ」と、歩きながら振り返る。

「な、何で分かるの?」と、詩織が首を傾げる。

「だって、潮の香りがしてきたんだモン」

 そう言って野乃花は鼻をスンスン鳴らした。詩織も真似をするが、それを嗅ぎ取ることができない。

「え、え? な、なにも匂わないけど?」

「エ? 何で匂わないの?」

 野乃花は不思議そうな顔をするが詩織だけでなくモエも乙葉も匂いは感じていない。野乃花は異常に鼻が利くのだ。それを知っている乙葉はスマホの地図と周囲を見比べながら頷く。

「そうだね。地図上は海の近くみたいだから、もう直ぐだよ」

 乙葉も確信したように、目的の温泉付き建物まで、あとちょっとの所まで来たのだ。

「なんとか夕方までには着けそうやな」と、モエが汗を拭う。

 野乃花は「温泉♪ 温泉♪」と、スキップしている。

 だが、次の瞬間、そんな安心感は一瞬で吹き飛んだ。

 何気なく前方を見ながら歩いていた詩織が急に足を止めた。そしてしばらく目を凝らした後に「あ、あ、あ、ああっ!!」と、絶叫した。

 前を歩いていた詩織の絶叫にモエも足を止める。

「な、なんや?」

 先頭の野乃花が振り返る。

「大丈夫? 詩織チャン?」

 最後尾を歩く乙葉が訝しがる。

「急にどうしたのよ?」

「あ、あ、あ、あれ……さ、さっきの……」

 詩織の視線の先、すなわち前方の上空に4人の目は釘付けになった。

「アカンで……」と、モエの顔が強張る。

 乙葉が目を見開く。

「モンスター……てか、あれってドラゴンじゃない!?」

 先ほど4人の頭上を越えて行った謎の物体。やはりあれはモンスターだったのだ。

 赤茶けた色のドラゴンは前方で旋回するとこちらに向き直ったように見えた。

「こっち向かって来るヨ!!」と、野乃花がパニックに陥る。

 なぜだか分からないがドラゴンは4人に狙いを定めているように感じられた。

野乃花は本能的に危険を察知して道の脇にある茂みに「ヒャン!」と、頭から突っ込む。だが、飛び込みが甘かったせいでお尻とパンツが丸見えの状態だ。

 モエ達が進もうとしていた一本道を逆走してくるみたいにドラゴンは超低空飛行でこちらに向かって来る。

「みんな逃げな!」と、モエが叫ぶ。が、詩織は「あ、あ、ああ……」と、棒立ちだ。

「ええい!」と、モエは詩織の腰にタックルして強引に道の脇にある茂みになだれ込んだ。

 ちょうど道を開ける形で左右に散ることで真正面から接近するドラゴンの進路から外れることができた。が、乙葉の回避が遅れてしまったようだ。

 モエが詩織の身体を茂みに押し込みながら叫ぶ。

「乙葉! 早よ逃げんと!」

 だが、乙葉は道の真ん中に仁王立ちしている。そうしている内にもドラゴンが接近してくる。もはやその姿は恐怖以外の何物でもない。

「アカン! アカンで! 乙葉!」

 モエの必死の呼びかけに首を振る乙葉。彼女はショットガンを構えた姿勢を保つ。

「今度はアタシが皆を守る!」

 風圧がここまで届きそうな迫力でドラゴンが接近してくる。その距離、数メートル。

 絶望的な距離にモエは思わず顔を背けた。

「乙葉! アカンて……」


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