第5話 向けられた刃
智世の指の動きを見てイリアは理解した。
「縦読み……」
小瓶に詰められたメモは一見すると日記のようだ。しかし、先頭の文字を縦に読むと『はやくたすけてころされる』とも読める。果たしてこれは偶然なのか? いや、不自然な改行はこのメッセージを伝える為と考えた方がしっくりくる。
智世が震えながら言う。
「これは……敏美ちゃんが書いたのかな?」
2日目の朝に惨殺された敏美のことが思い出される。が、イリアは即座に首を振った。
「それは無いと思う。この紙の感じからしても書かれたのはもっと前じゃないかな」
イリアのいう通り紙の一部は日焼けで変色している。それに敏美にそんな素振りは微塵も見られなかった。もしも彼女が命を狙われていることを予感していたのなら、もっと不安そうにしていたはずだ。
智世は少し考えながら尋ねる。
「このメモ……みんなに報告した方がいいのかな?」
「どうかな……」と、イリアも迷っている。
智世は彼女なりに考えたのだろう、後ろめたいような気持ちを抑えながら提案する。
「やっぱり止めとこうか。もし思い違いだったら、みんなを余計に怖がらせちゃうから」
イリアはしばらく考えて頷いた。
「そうね。いつ誰が何の目的で書いたものかは分からないけど……今は伏せておいた方が良いかもね」
イリアはそう言ってメモを元通りに折り畳んで小瓶に入れると肩掛けリュックにしまった。それを智世が不思議そうに見ている。散歩なのになぜ中身が詰まっているのかとでも言いたそうな顔だ。
彼女の視線に気付いてイリアが説明する。
「チョコレートとキャラメル。あとペットボトルに缶詰。ちょっと先まで行ってみようと思ってたから準備してたんだ」
イリアは遠出するつもりで食糧を持っていたのだ。それを聞いて智世が「なるほどね」と、感心しながら頬を紅潮させた。そして勇気を振り絞るように声を出す。
「わ、わたしも連れてってくださいっ!」
智世の申し出にイリアはきょとんとする。そして微かに笑みを漏らす。
「いいけど? 別に」
それを聞いて智世の顔がぱっと明るくなる。
「本当に? 迷惑じゃない?」
「いいよ。あなたさえ良ければ」
「絶対、足手まといにならないようにするから」
「足手まとい?」
「そう。わたし、運動神経鈍いから……」
智世はそう言って例のスケッチブックで顔を半分隠す。
イリアはやれやれといった風に首を竦める。
「大丈夫。そんな変な所には行かないよ」
それを聞いて智世はホッとしたように頷く。
「うん。それなら良かった。それで、どこに向かうつもりだったの?」
「海岸線に沿って行けるところまで行ってみるつもり。こっち方面は誰も探索してないみたいだから」
確かにイリアの言う通り、民宿街を挟んで港の向こう側はモエ達が昨日探索していたし、ここに来る途中で枝分かれした山道は利恵達が頂上まで登っていたが、砂浜から先へは誰も足を踏み入れていない。
「あ、そういうことなら……」と、智世がスケッチブックをめくり始めた。そして、「これが役に立つかも」と、あるページをイリアに見せる。
「なに? それは?」
「もしかしたらだけど……ここの地図」
そういって智世が見せたのは鳥の頭のような形の地図だった。
「地図? それってもしかして……」と、イリアが驚く。
「うん。乙葉さんがスマートフォンで見せてくれた地図」
イリアは直ぐに理解した。
「分かった! 瞬間記憶ね?」
智世はコクンと頷く。彼女がスケッチブックに描いた地図は乙葉が写真に撮った落書きの地図を忠実に再現していた。
イリアがスケッチブックを手にしながら感心する。
「凄い。離れた所からチラッと見ただけなのに……」
例え遠目に見たものであっても智世の瞬間記憶は正確に地図を写し取っていたのだ。そのおかげで図形に記された幾つかの記号まで判別できる。
智世が控えめな口調で言う。
「もしこれが本当にこの島の地図だったらの話なんだけど……」
そこで検証してみる。昨夜までの話を総合すると15個ある『×』が墓標と武器のあった場所だと推定される。この地図の中で最初に目についたのは砂浜のバツ印だ。次に神社の地図記号に並ぶように記されたバツ印。ということは初日に発見された和佳子の墓標と乙葉の墓標という話に符合する。さらに山の中央付近にあるバツ印はヘレンのものだと思われる。だが、地図上に記された『★』と『☆』の意味が分からない。それぞれ離れた位置に3個ずつ記されている。さらに『8』が幾つか見受けられるが、それが何の数字を表しているのかは見当がつかなかった。
イリアが首を捻る。
「この数字。南風荘のところにも書いてあるけど……」
この地図では民宿街の一軒一軒を四角形で表している。そうなると一番港に近い四角が南風荘と目されるが、四角形に被るように記された『8』にはどのような意味があるのだろうか?
そこまで考えてイリアは首を振った。
「分からない。取りあえず先に行ってみよう」
幸いにも地図上では2人の現在地は海岸線に沿って描かれる線の途中にある。それが民宿街からここまで続く道とその先だと仮定すると、このまま進めば島の反対側に繋がっていると思われる。
目的地に記された五角形に十字のマークを見てイリアが言う。
「これって病院の記号だよね? ということはここよりも大きな町があるかもしれない」
「でも、雪が降ってるって……」と、智世が表情を曇らせる。
「昨日、山登りをした子達がそう言ってたっけ。写真見ても信じられないけど」
イリアが目指そうとしていた島の反対側は、ちょうど登山組が頂上で見た雪景色のあった方向にあたる。智世はそれを心配しているのだ。しかしイリアは前向きだ。
「とにかく行ってみないことには始まらない。雪? ありえないとは思うけど何とかなるでしょ」
普段はクールなイリアが緑の瞳を輝かせてそう言うのを見て、智世はスケッチブックをぎゅっと握った。
* * *
午後にかけて気温はグングン上昇した。海水浴には早いと思われたが、そんなことは気にならない陽気に水着姿の玲実達は終始ご機嫌だった。
腰まで海に浸かりながら梢がはしゃぐ。
「せっかく水着持ってきてんのに泳がないなんて損よね」
そういう梢はピンクにトロピカル模様のビキニ姿だ。
「ああ~冷たくて気持ちいい」と、黄色いビキニの望海が海水に浸かる。
浮き輪を背にした玲実は仰向けになって波に揺られている。時折、水面に露出する太股やお腹は真っ白で赤に白いラインの入ったビキニとの対比がくっきりしている。
望海が水着の食い込みを直しながら言う。
「どうせなら楽しまないとねぇ。探索なんてやってらんないわ」
梢が手で掬った海水を肩にかけながら苦笑いを浮かべる。
「何とかしようとしてる子たちには悪いけど」
望海はやれやれと首を振る。
「無駄よ。なるようにしかならないんだから」
双子のやりとりを聞いてた玲実がゆっくりと頭を揺らす。
「そうそう。やりたい人がやればいいのよ」
「だ。だよね……」と、梢が仕方なく2人に合わせる。
その時、水中で梢のお尻に何かが触れた。
「ひゃっ!」と、梢が身震いする。「ヤダ! ヌルってした!」
「どうしたの? クラゲでもいたの?」と、望海が尋ねる。
「や、分かんない。けど何かキモい!」
渋い顔でそう答える梢の真横で波の揺らぎが淀んだ。そして水の色が急に変化する。続いて水位が不自然に盛り上がり、黄色い丸いが2つ浮き上がってきた。と、同時に梢の身体がグンと引っ張られる。
「ひょっ!?」と、梢は腰回りに圧力を認識する。
そこで水面が一気に膨らみ、丸みを帯びた何かが出現した。
「ぎゃっ!」と、梢が悲鳴をあげる。
突然の出来事に望海が唖然とする。異変に気付いた玲実が何事かと上体を起こす。そして、水中から姿を現したものが生物であると分かって驚愕した。
「な、な、なんなの!?」
それはオクトパスの化け物だった。その信じられない大きさに3人は恐怖した。黄色い目の部分だけでも大人の拳ぐらいの大きさがある。水面から顔を覗かせた部分は一部だが、それでもクジラと勘違いする程の大きさだ。また、その色合いが実に不気味だ。水の色が赤く変色したように見えたのはその禍々しいオレンジ色のせいだった。まるで毒を貯め込んだ蛙のようだ。
「梢!」と、望海が梢に近付こうとするが足がすくんで動けない。
水面の上に露出した生物はヌメヌメとしたオレンジと斑な黒を光らせている。しかも、その周辺には触手のようなものが4つ水面から突き出ている。
「ぎゃぁ! いやだぁ!」と、梢は泣き叫びながら暴れる。が、身体はガッチリと触手に捕えられている。玲実と望海はパニックになって水をパシャパシャ跳ねるだけだ。3人が騒げば騒ぐほど絶望的なシチュエーションがリアルに染まっていく。
その時『バン!』という花火のような爆発音が響いた。
何が起こったか分からず望海と玲実の動きが止まる。振り向くと、おへそを見せながらショットガンを構える乙葉のセーラー服姿が目に入った。
乙葉は膝まで海水に浸かった状態で一歩一歩オクトパスに近付いてくる。そして険しい顔つきでショットガンで狙いを定める。
比較的近い距離で『バンッ!』と、炸裂音がして、化け物に散弾が命中する。その瞬間に海水ではない液体が飛び散った。併せて「痛っ!!」と、梢が苦痛に顔を歪める。太ももを流れ弾が掠めたようだ。が、腰回りの圧力が緩んだので梢は必死で水を掻く。
梢が化け物から離れたところで乙葉がさらに間合いを詰める。そして「ああぁぁっ!」と、絶叫しながら発砲する。『バンッ!』という炸裂音、そして扇状に海面を削ぐ散弾の軌跡が皆の目に入った。と同時に数本の触手が釣り上げられた魚のように跳ねた。それは化け物の断末魔のように乱れ、水面をのた打ち回り、やがて静かになった。
砂浜に打ち上げられた巨大オクトパスは楕円形の頭部分だけで2メートルはある。黄色い目が8個ついていること、口だと思われる箇所から牙のようなものが数本はみ出していることから、明らかに普通のタコではない。足と思われる触手もそれぞれ4メートル以上ある。それを眺めながら玲実、望海、乙葉、野乃花が一様に顔を強張らせている。梢は砂浜に座り込んで傷ついた太ももを押さえている。
玲実がオクトパスの頭を蹴飛ばしながら文句を言う。
「なにコレ!? 化け物でしょ」
野乃花が真面目な顔で言う。
「あ、これ知ってる! TVで見たことあるヨ。ダイオウイカだ」
すぐさま乙葉が突っ込む。「どう見てもタコでしょ……」
望海が梢のケガを見て乙葉を非難する。
「無茶するよね……弾、当たってんじゃん!」
玲実も乙葉に厳しい視線を向ける。
「そうよ! 撃つのは仕方が無いけど、酷くない?」
2人の言葉に乙葉が驚く。助けに入った自分が、まさか責められるとは考えていなかったのだろう。そんな乙葉の代わりに野乃花が怒りを露わにする。
「なにソレ? 助けて貰っといてそれはないでしょ?」
望海は腰に手を当てながら口を尖らせる。
「そうだけど! しっかり当たってんだよね。梢に」
それを聞いて乙葉がため息をつく。そして苛立ったように踵を返す。
「行こう、野乃ちゃん」
「だってこの子達……酷いヨ」
乙葉が「あーあ。助けるんじゃなかった!」と、吐き捨てて歩き出す。 野乃花が慌てて「待ってヨ」と、走って乙葉を追いかける。2人は玲実達を砂浜に残して足早に民宿街に向かった。
乙葉と並んで歩きながら野乃花が感心する。
「それにしても良くやったネ、乙葉ちゃん。怖くなかった?」
乙葉は冷めた顔つきで応える。
「怖かったよ。でも、昨日のヘビに比べればまだマシ」
「ああ、そっか。昨日の大蛇はヤバかったもんネ!」
「それに、さっきのは自分が狙われてたわけじゃないし」
野乃花は乙葉の横顔とショットガンを見比べながらアヒル口をみせる。
「ネ、やっぱコレってモンスターと戦わされるってことなのかナ……」
野乃花が口にした『モンスター』という言葉を聞いて乙葉が足を止める。
「ゲームみたいに?」
乙葉が妙な反応をしたので野乃花が「ん?」と、困ったような色っぽい顔を見せる。
乙葉は矢倉で発見した落書きを思い出す。『殺ス!!』『あと3人』の文字……。
「……そうかもね」と、無表情で答える乙葉。
乙葉の反応に野乃花が戸惑う。モンスターと戦う宿命などというのは冗談のつもりだったのだ。だが、乙葉は神妙な顔をしている。
野乃花が無理に明るく言う。
「じ、じゃあ、武器を取りに行って正解だったネ」
「そうだね」と、乙葉が頷く。そして手にしていたショットガンの重みを確認する。
野乃花は乙葉の手を引きながらニッコリ笑う。
「取りあえず戻ろ! モエちゃん達、待ってるヨ」
野乃花の笑顔につられて乙葉も表情を崩す。
「うん。そうだね。私も早く着替えたいよ」
「そうなの? スカート濡れたままなんダ」
「ううん。実は、パンツが濡れてて気持ち悪いんだ」
そう言って乙葉はセーラー服のスカートの端をつまんで持ち上げてみせた。その笑顔は照れ隠しのような、茶目っ気のある乙葉らしいものだった。
* * *
その頃、南風荘1階の雑貨店でモエと詩織はリュックに食料を詰めていた。
黙々と作業しながらモエは回想する。
その光景は小学校に入学した頃の記憶だ。モエを取り囲む小学生達が「やーい貧乏」と、モエをからかう。
「お前のランドセル、ボロボロやんけ。新しいの買うてもらえんのか?」
「お古やん。汚ったなぁ」
「いややわ。あんな風にはなりたないなあ」
ランドセルを背負ったモエを誰かが後ろから小突く。悔しくて涙が出そうになるのを堪え、足元の地面を見つめながらモエは思う。
(何でウチは貧乏なん?)
場面が変わる。それは食卓の光景だ。ちゃぶ台の上に唐揚げを盛った大皿がひとつ。そこに向かって周りから一斉に箸が伸びる。モエがもたついている間に7人の兄姉がドンドン唐揚げを食べてしまう。誰も末っ子のモエに気付いてくれない。まるで争奪戦だ。それを見ているしかない自分の無力さ。手元の箸先を見る。そして嘆く。
(兄弟が多すぎるから貧乏なんや……)
さらに場面は変わる。台所でご飯の支度に忙しい母親。その顔を見上げながら尋ねる。
「なんで私の名前、カタカナなん?」
母親は手を休めることなく適当に答える。
「ああ。漢字、分からへんかってん。調べるのも面倒くさかったしな」
「……え?」
それ以上、何も言えない。
(ウチ……要らん子やったん?)
次から次へと嫌な記憶が呼び起こされる。そしていつもの場面。ある意味、モエにとっては最大の修羅場。それは母親と姉の会話を盗み聴きした時の記憶だ。襖の向こうで母と姉が深刻な話をしている。
「ウチらのお古ばっかりで可哀想すぎるで、お母ちゃん」
「そやかて、お父ちゃんの給料上がらへんし、お母ちゃんのパート代もこれ以上増えへん」
「施設にやった方がマシかもしれへんで」
「せやな。他所にやった方があの子の為なんかな」
(やっぱりウチ、要らん子なん? この家におったらいかんの?)
そこまで思い出してモエは首を振る。そして自らを奮い立たせる。
(負けたらいかん! 自分の居場所は自分で作らなアカンのや!)
「モエちゃん!」
詩織の声でモエが我に返る。
「あ……」
いつの間にか手が止まっていた。モエが「ごめん」と、詩織の方を見ると、詩織は鍋やフライパン・調味料を4つのリュックに均等になるように詰めていた。そのあたりの几帳面さが詩織にはあるようだ。
詩織は満足そうにリュックを眺める。
「お、思ったより大荷物になっちゃうね」
「まあ、4人で手分けすれば何とかなるやろ」
そこに乙葉と野乃花が帰ってきた。
「ゴメン。遅くなっちゃったネ」と、野乃花が謝る。
モエは乙葉が抱えるショットガンを見て頷く。
「うん。無事に持ってこれたみたいやな」
モエの言葉に乙葉が神妙な顔つきで頷く。
4人が揃ったところでモエは出発することにする。
「よっしゃ。ほな、行こか!」
食料と荷物が満載のリュックをそれぞれ背負い、モエ達は南風荘を出ることにした。
南風荘の玄関を出た所では利恵と桐子が難しい顔をしながらモエ達を見送っていた。利恵はモエ達を見送るのは本望ではない。委員長的な立ち位置を意識して何度かモエに思い留まるよう説得を試みたのだが、モエ達の意志は固く、結局、見送るしかなかったのだ。
モエは右手に戦斧を左手にリュックを持って先頭を歩き出した。
利恵が半べそで訴える。
「ねえ! 絶対無理しないでね。いつでも帰ってきていいんだからね!」
港方面に歩いていくモエが振り返って応える。
「心配し過ぎや。しばらく別行動するだけやん」
ボクっ子の桐子は何か言いたそうにツインテールの髪先を弄んだ。その表情は半ば諦めているといった風だ。
「そ、それじゃ、また」と、詩織が利恵達に告げてモエを追う。
乙葉と野乃花が軽く手を挙げてそれに続く。
4人が去っていくところを見守りながら利恵が大きくため息をつく。そこへ、モエ達と入れ替わるようにライフルを背負ったヘレンが砂浜方面から帰ってきた。
ヘレンがモエ達の後姿を見ながら利恵に尋ねる。
「あの子たち……何してるの?」
「安全なところに移動するんだってさ」と、桐子が利恵の代わりに覚めた口調で答える。
「ホワット?」
「止めたんだけどね……」と、利恵がうつむく。
ヘレンはモエ達の大荷物に目を留める。
「食料……まさか昨日の話!」
そう言ったヘレンの表情が見る間に険しくなる。ヘレンはモエ達に向かって怒鳴る。
「ユー! ちょっと待ちなさいよ!」
ヘレンの怒号にモエ達が立ち止まって振り返る。
「ホワイ? なんで勝手に食料を持って行くの?」
ヘレンの問いに対してモエが挑発するように顎を突き出す。
「ウチらの分や。あんたらと違うて不便なとこに行かなならんからな」
「NO! そんなの許されない!」
「知らんがな」
モエが前を向いて歩き出す。それに続いて乙葉達も再び歩き出す。
「止まりなさいよ!」と、ヘレンがライフル構える。
「ちょ、ちょっとヘレンさん!」と、利恵が慌てる。
「おいおい。流石にそれはマズイって!」と、桐子もヘレンを止めようとする。
だが、ヘレンは「強盗は撃たれても文句言えないんだよ」と、撃つ気満々で狙いを定めている。
モエは「フン」と、鼻で笑って振り返りもせずに歩き続ける。
その時、『パンッ!』という音が響き、モエの後ろで乙葉の左肩口が弾かれる。
「いっ!?」と、乙葉が苦痛に顔を歪め、南風荘の方を振り返る。そして怒りの形相でショットガンを構える。そして「あぁぁぁ!!」と、声をあげて発砲する。
『バンッ!』と、ショットガンが炸裂音を放ち、ヘレン達の近くにあった電柱に無数の穴が開く。
「キャッ!」と、頭を抱えてしゃがみ込む利恵。
「マジかよ!!」と、桐子は慌てて玄関に駆け込む。
乙葉の反撃に呆然としていたヘレンはすぐさま射撃の体勢をとる。
「冗談じゃないわ!」
すかさず発砲するヘレン。
『パンッ!』という音と同時に弾が野乃花の背中に命中する。野乃花は前につんのめって倒れる。
それを見たモエの顔つきが変わる。それは怒りを通り越した殺意を孕んだ顔つきだ。
「やられる前に……」と、もう一度、ライフルを構えるヘレン。
次の瞬間、ヘレンの目に戦斧を手に突進してくるモエの姿が映った。
慌てて狙いを定めようとするヘレン。
しかし、モエはジグザグに地面を蹴り、稲妻のように走る。そのスピードにヘレンが「え!?」と、硬直した。と、同時にモエの戦斧がヘレンの右あごから左こめかみに向かって斬り上げられる。
そしてモエの豪快な一振りが『ズバッ!』と、ヘレンの顔面を切り裂いた!




