表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

第4話 疑義、そして分裂

 南風荘1階の『松の間』では学級裁判のような構図で少女達が向かい合っていた。

 サボリ組の玲実・望海・梢が並び、それに対峙するように利恵、桐子、和佳子、愛衣の登山組、その後ろに風呂上りで共に浴衣姿のモエ、詩織、乙葉、野乃花が並んでいる。イリアと智世は窓際に座って外を眺めている。

 委員長タイプの利恵が背筋を伸ばしながらサボリ組の3人に文句を言う。

「いくらなんでも勝手すぎるよ!」

 ツインテールの桐子も同調する。

「そうだよ。こういう時こそ協力し合わないと」

 それに対抗して双子の梢が口を尖らせる。

「いいじゃん別に」

 その隣で姉の望海はふて腐れている。お嬢様な玲実は髪を弄りながら知らん顔だ。

 そこにヘレンが遅れて室内に入ってきた。

「ソーリー、遅くなったよ」

 ヘレンは首にかけたタオルで汗を拭いながら室内を横切る。彼女が手にしているライフルを見てモエが目を剥く。同じくライフルに気付いた乙葉と野乃花が身を乗り出して何か言おうとするが、モエはそれを制して首を振る。詩織は困ったような表情でモエの横顔を見つめる。

 ヘレンはモエ達の反応には気付かず皆の前を横切り、部屋の隅に腰を下ろす。そしてライフルを脇に置いた。

 愛衣がヘレンに尋ねる。

「遅かったわね」

「ちょっと……ね」と、ヘレンが意味深な笑みを浮かべる。

 それを見つめるモエの目つきは厳しい。

 そこでサボリ組がヘレンに噛みついた。

「ちょっとぉ! なんで銃なんか持ち込むの?」と、玲実がヘレンを睨む。

「そうよ! 物騒じゃない!」と、望海も玲実に続く。

 しかし、ヘレンはすまし顔で答える。

「自衛のためよ」

「な!?」と、玲実が驚く。

 乙葉と野乃花は顔を見合わせる。詩織も驚きながらモエの反応を伺う。事情を知っている利恵と和佳子は苦い顔だ。

 梢がチラリとモエの方を見ながら嫌味っぽく言う。

「なに考えてんだか。変な武器持って帰ってきたと思ったら今度はライフル銃?」

 梢の台詞にヘレンが「変な武器?」と、反応する。

 愛衣が髪を掻き上げながら答える。

「あなた以外にモエさんが自分の武器を持ってきたのよ」

 そこで玲実、梢、望海が一斉にモエを見る。

 モエが周りを気にしながら口を尖らせる。

「仕方ないやん。変な生き物がいたから……」

 モエの側には戦斧が置かれている。その刃先が蛍光灯の明かりで鈍く輝く。

 しらっとした沈黙の中、野乃花が急に立ち上がる。

「だって、すっごい、でっかいコブラが居たんだヨ!」

 野乃花の浴衣からは大きな胸がはみ出しそうだ。裾も随分と短い。もしかしたら子供用の浴衣を借りてしまったのかもしれない。

 野乃花は両手を目いっぱい広げて説明を続ける。

「もうネ。頭がこれぐらいあるの!」

 それを見てぽっちゃり和佳子が仰け反る。

「えっ! 何それ、怖い」

 野乃花は大きな胸をぷるんと震わせて身振り手振りで熱弁をふるう。

「もうね。大蛇だヨ、大蛇! モンスターみたいにデッカいの」

 そんな野乃花の説明に耳を傾けながら桐子は巨大なヘビを想像して目を輝かせる。

「そいつは凄ぇな。ボクも見たかったよ」

 異世界を信じる桐子は巨大モンスターの存在にも肯定的なのだ。

 野乃花はモエが蛇の頭に戦斧を叩き込んだ場面を再現する。

「こうやってブスッて刺してぇ、クルクルって回って、それからズバーン! て感じでやっつけたんだヨ! モエちゃんが居なかったら大変なことになってたんだから!」

 話を冷静に聞いていたヘレンが言う。

「そう。そっちにも得体の知れない生き物がいたんだ」

 ヘレンの反応が薄いのを見て野乃花がガッカリする。擬音が多くて子供っぽい再現では緊迫感が伝わらなかったのかもしれない。 

 利恵がやれやれといった風に首を振る。

「やはり普通じゃないみたいね……」

 すかさずそこで桐子が身を乗り出す。

「うん! 十分にあり得る話だ。異界の生き物だよ。やっぱ異世界なんだって!」

 利恵は頬に手を当てて十字架のことを思い出す。

「そうね。異世界かどうかはともかくとして……不思議なことだらけよね。この中の誰かの名前が入ったお墓……それと妙な武器」

 皆の話を総合すると発見された墓標には乙葉、和佳子、ヘレン、梢、モエの名前がそれぞれ刻まれていて、順にショットガン、トライデント、ライフル、電撃棍棒、戦斧が墓標とセットになっていたことになる。そしてそれらの武器は墓標の名前の人物にしか扱えないらしい……。

 食欲旺盛な和佳子がスナック菓子の袋に手を入れながら「意味不明よねぇ」と、呟く。

 そこで詩織が「そ、それだけじゃないよ」と、オドオドしながら口を開く。

「それってどういうこと?」と、利恵が司会進行役のように続きを促す。

 詩織は年号が古いカレンダーと新聞を思い出す。

「き、消えた住人……まるで26年前から時が止まってるみたいじゃない?」

 民宿街の店舗で見られた古い雑誌、黒電話、テレビの型など時代を感じさせる室内の様子が思い出される。そういえば、といった風に何人かが頷いた。

 乙葉が少し悩みながら浴衣の袂からスマホを取り出して皆に披露する。

「昼間見つけたんだけど、これって地図だよね?」

 乙葉のスマホには昼間に湿地帯の矢倉で見つけた落書きが映っている。それは島の地図を示したものと思われる。

 桐子、和佳子、利恵がそれを覗き込む。

 窓際の智世もチラリと画面を見る。その目に地図のような落書きの画像が映る。

「どれどれ?」と、玲実、望海、梢も便乗しようと乙葉のスマホに手を伸ばす。が、寸前でモエが乙葉のスマホを取り上げる。

「見せる必要ない」

 モエの行動に玲実が顔を顰める。

「は? なに言ってんの?」

「なんもせえへん奴らに情報やる必要はないて」

 モエに痛いところをつかれて望海が逆切れする。

「ちょ、ムカつく!」

 モエと望海が睨み合う。険悪な雰囲気になったところでモエはプイと顔を背けて吐き捨てる。

「それにな。こん中には信頼できへん人間が混じっとるから」

 そう言ってモエは自分の右腕に巻かれた包帯を見つめた。さらにその脳裏には惨殺された敏美の死体の映像がよぎった。

 モエはすっと立ち上がって宣言する。

「悪いけど、これ以上、団体行動はできひん。ウチらは別な場所に移動するで」

 モエの爆弾発言に詩織、乙葉、野乃花が戸惑う。

 黙り込む利恵。オロオロする詩織。やれやれといった風に首を振る愛衣と桐子。玲実と双子はムスっとした顔で呆れている。

 ヘレンが突き放すように言う。

「好きにすれば? それで気が済むのなら」

 その言葉にモエがキッとヘレンを睨みつける。

 一触即発の睨み合いをよそに窓際に居たイリアがぽつりと呟く。

「問題は食料ね……」

 その指摘に利恵が驚く。和佳子は菓子の袋をぎゅっと握りしめる。

 イリアは皆の方に向き直って昼間に見てきたことを報告する。

「食料を中心に探してみたけど他の民宿には何もなかったわ。調味料とか紅茶は残ってたけど。まるで誰かに荒らされたみたいだった」

 イリアは回想する。荒らされたキッチン。冷蔵庫はほぼ空っぽ。散乱している空き缶やスナックの空き袋。誰かが食事をした跡、洗われないまま放置された鍋やフライパン……。

 詩織がはたと思い出す。

「そ、そういえば! き、昨日今日は売店にあるもので過ごせたけど……」

 そう言いながら詩織は皆でカップ麺やお菓子を食べた場面を思い浮かべる。

 イリアは小さく頷く。

「いずれは尽きる」

 南風荘の一階は雑貨店を兼ねている。小さな売店には棚が3つしかなく、コの字型に配置されている。菓子パンやカップ麺、スナックが並んでいるがその幾つかは無くなっている。

 和佳子が「それは困る!」と、慌てる。と同時にお腹が鳴る。

 イリアはゆっくりと皆の顔を見回して言う。

「別行動をとるっていうなら配分をどうするか。それを決めておかないと」

 利恵が不穏なムードを払拭しようと口を挟む。

「だったら、なおさら皆で一緒に行動を……」

 利恵の優等生的な提案にモエが即座に首を振る。そして皆に向かって言い放つ。

「そういうことなら、ウチらの分は貰っていくで」

 それを聞いて胡坐をかいていたヘレンが立ち上がる。

「NO! それは許されないわよ!」

「うるさいわ。ウチらの分は明日平等に分けようや」

 そう言い残してモエは松の間を出ていこうとした。

 その左手首をヘレンが「ウェイト!」と、掴む。

「フン……」と、モエが冷たい目でヘレンを見る。

「どうしても行くって言うなら……」

 そんなヘレンの顔をチラ見してモエは小さく息を吸い込んだ。そして空いている右手でヘレンの手首を取り、捻じりながら自らの身体を半回転させた。その勢いでヘレンの腕を引き込み、同時に左足を掛けて投げ飛ばす。

「Oh!」と、ヘレンは、つんのめるように膝を着き、頭を畳にぶつける。

 あっという間の出来事に皆が息を飲む。

 前のめりに転がされたヘレンが「な、何するのよ!?」と、上半身を起こしながらモエを睨みつける。

 モエは冷たい表情でヘレンを見下ろす。

「……これでお返しや」

 ヘレンがその言葉に唖然とする。

「What!?」

 モエは室内の面々を一瞥して戦斧を拾い上げると何事も無かったかのように早足で部屋を出て行った。

   

 松の間を出たモエが険しい顔つきで暗い廊下を出口に向かっていく。

 そこに乙葉がモエを追って来る。

「待って! モエちゃん!」

 モエはそれを無視して出口へ向かう。乙葉に続いて野乃花と詩織も追いかけてくる。

「ネ! モエちゃん」

「ど、どこに行くつもり?」

 南風荘の玄関に出たところでモエが立ち止まる。そして「別な民宿に行く」と、振り返る。

「じゃあ、私も一緒に行く」と、乙葉が目を潤ませる。

「乙葉ちゃんが行くならアタシも連れてってヨ」と、野乃花が訴える。

「わ、わたしも」と、詩織も一緒に行きたいと意思表示した。

 モエは乙葉、野乃花、詩織の顔を順番に見る。そして一瞬考えてから頷く。

「分かった。アンタ達は信用できる」

 乙葉と野乃花が安堵の表情で顔を見合わせる。詩織もほっと胸をなでおろす。

 モエは腰に手をあてて言う。

「取りあえず今晩は他の民宿に避難する。明日は早く出るつもりや」

 心配性の詩織が尋ねる。

「あ、明日? で、出るって、どこに?」

「今日の続きや。もっと先に行ってみる」

 それを聞いて野乃花が仰け反る。

「エエ~! 危ないよぅ」

「そ、そ、そうよ。り、リスクが高すぎるよ」と、詩織は身震いする。

 しかし、モエはそれには応えずに真剣な表情で乙葉に向かって「スマホ」と、手を突き出した。乙葉は戸惑いながらスマホを出してモエに渡す。

 モエはスマホの画面を見せながら言う。

「さっき、見せんでもええって言うたのはな……この地図にバツ印がついとるやろ?」

 詩織と乙葉が首を傾げながら画面を覗き込む。

「ち、小さくて見えにくいけど……」

「だネ。拡大してみたら分かるかな?」

 そこで乙葉がはっとする。

「あ! もしかして!?」

 乙葉の反応を見ながらモエが黙って頷く。

 乙葉は画面を操作しながらモエに尋ねる。

「このバツがついてる場所、十字架があった場所だよね?」

「そういうことや。コレを見つけた場所と一致する」

 そう言ってモエが手にした戦斧を眺める。

 乙葉のスマホに収められた地図は決して精巧なものではない。島の輪郭はハゲタカの頭に似ている。ちょうどクチバシを開けたハゲタカを横から見た形だ。それでいうとクチバシの付け根にあたる部分がこの港町近辺と思われる。そして今日モエ達が探索した湿地帯が下顎の部分と考えられるのだ。下顎から首に向かう途中で森のような書き込み描写があり、その中央にバツ印が記されている。おそらくそれがモエの戦斧のことを指しているのだろう。

 詩織が乙葉のスマホを覗き込みながら困惑する。

「て、てことは皆のお墓が地図にのってるってこと?」

 乙葉は『神社』の地図記号にバツ印が書き込まれているのを見て唸る。

「うぅ……確かに。私のお墓は神社のところだった」

「せや。ということは、そこに武器があるってことや」

 モエの発見に詩織と野乃花が息を飲む。

 乙葉は能面のような顔つきで尋ねる。

「だから見せるなって言ったのね?」

「そういうことや。敵に武器を持たせるわけにはいかんやろ?」

 そう言ってモエは冷たい笑みを浮かべて戦斧を握りしめた。


 モエ達が出て行ってしまった松の間では座り込んでふて腐れたヘレンを囲むように利恵と桐子が困った顔をしている。

 和佳子は「なんなの? あの子達」と、ふくよかなホッペを膨らませる。

 ヘレンは苦笑いを浮かべながら「さあ?」と、お手上げのポーズをとる。

 愛衣が諦めたような口調で言う。

「好きにさせとけば? 疑心暗鬼になるのも無理ないわ。こういう状況だし」

 ツインテールの桐子が同意する。

「ボクもそう思う。その方が安全かもしれないしね」

 そう言って桐子は今朝の殺人事件を示唆するように天井を見上げた。

 そこで利恵が慌てる。

「ちょっと待って! でも、こういう場合は皆で一緒に居た方が……」

 ぽっちゃり和佳子はスナックを食べながら考え事をしている。イリアと智世は相変わらず窓の外をぼんやり眺めている。そこでお嬢様の玲実が「ホラね」と、口角を上げる。そして髪を掻き上げて宣言する。

「そういうことなら私達も好きにさせて貰うわ。泊まる場所も決まってるし。ね?」

 玲実は振り返って望海と梢に同意を求める。すると2人は異論なしといった風にあっさりと頷く。しかもそのタイミングは双子らしくシンクロしている。

 玲実は満足そうな顔つきで窓際の智世にも声を掛けた。

「もちろん、あなたもよね?」

 そう言って玲実は腕組みしながら智世を見る。

 玲実の視線に気付いた智世は泣きそうな顔で首を振る。

「ちょっと! なに逆らってんの?」と、玲実が威圧するように窓際に近付こうとする。

 そこにイリアが割って入る。

「な、何よ……」と、玲実が少し怯む。

 イリアは無言で玲実を睨む。玲実もそれに対抗しようとするが、イリアの冷たい目に怖気づいたのか先に視線を逸らした。

「フン! 嫌ならいいわよ。せっかく仲間に入れてあげようと思ってたのに」

 玲実はそう言いながら智世に視線を送る。だが、智世は愛用のスケッチブックで顔を半分隠した。

 イリアが「仲間?」と、呆れたような笑みを浮かべた。そして玲実に尋ねる。

「こき使える人間が必要なだけでしょ?」

 それが図星だったのか玲実が顔色を変える。望海と梢の双子も玲実の後ろでバツが悪そうに顔を顰める。玲実は何か言い返そうとしたが結局、プイと顔を背けて「行こ」と、双子に声を掛けた。そして「最悪!」という捨て台詞を残して部屋を出て行った。その結果、松の間に残されたのは利恵、桐子、和佳子、愛衣、ヘレン、イリア、智世の7人となってしまった。急に静かになってしまったのもあるが、雰囲気は最悪といっていい。誰もがこの異常な状況に戸惑っていた。焦りや絶望、怒りもあるだろう。委員長タイプの利恵はモエや玲実達を止められなかったことに責任を感じて落ち込んでいる。桐子はしきりにツインテールの髪を触りながらアレコレと空想を膨らませている。和佳子はストレスを解消するようにお菓子を黙々と口にする。ヘレンはイライラしながら時折、拳を畳に打ちつける。イリアはクールな表情で外の景色を眺めている。無口な智世はスケッチブックに描き込むことで不安を紛らわせようとしているようだ。

 結局、その後の会話もなく、少女達は2日目の夜にして早くも3つのグループに分散してしまった。



<3日目>

 イリアと智世は黙々と海岸線に沿った一本道を歩いた。

 左手に海を臨みながらイリアは早足で歩く。その数歩後をベレー帽の智世がチョコチョコとついていく。そして時々、距離を縮めようと小走りになる。特に会話するでもなく、どちらかというとイリアの散歩に智世が勝手に同行しているような具合だ。イリアは、民宿街を出て砂浜を通り過ぎ、防波堤の先端まで足を伸ばした。そして潮の香りを浴びながら柔らかな日差しに目を細める。

 2人は防波堤の先端に立って無言で海を眺めた。水平線まで見渡してもそこには海と空しか無かった。陸地や他の島の存在は無い。船の気配すらまるで感じられなかった。相変わらずスケッチブックを大事そうに抱えた智世はイリアの様子を伺いながら話し掛けるタイミングを伺っている。海風に赤黒チェックのミニスカートをはためかせるイリアは、どこか他人を寄せ付けないような雰囲気を漂わせている。そのせいで智世は何度も口ごもる。そして何度目かのチャレンジでようやく「……ありがとう」と、言うことができた。

 それを聞いてイリアが首を傾げる。

「なにが?」

 素っ気ないイリアの反応に智世は一瞬、戸惑った。が、思い切って礼を口にする。

「昨日は……ありがとう」

「ああ」と、イリアが表情を変えずに智世の顔を見る。

 イリアに見つめられた智世は緊張しながら続ける。

「あの人たちと一緒に居たら、また私、使い走りにされちゃうから……」

 イリアはチラリと海を見て軽く息を吐き出し、智世に向き直る。

「言いたいことは言った方がいいよ」

「ん……そうだね」と、智世は頷く。

 前髪ぱっつんで童顔な智世は見るからに大人しい。おまけに無口でオドオドしているものだから、そこを玲実達に付け込まれてしまうのだろう。

 会話が続かない中で、ふとイリアが足元に目を留めると防波堤のテトラポットに何かが引っ掛かっていた。何となくそれが気になったのか、イリアはテトラポットの出っ張りを器用に伝い海面スレスレまで下りると小瓶のような物を掬い上げた。そのリズミカルな動きを心配そうな顔で見守っていた智世が首を傾げる。

「なんだろ? それ……」

 イリアが拾い上げた物はラベルの付いていないガラスの瓶だった。牛乳瓶よりは二回りほど小さい。イリアはそれを手に段差を軽快に駆け上がり、元の位置に戻る。

 イリアが拾ってきた小瓶に智世が目を凝らす

「中に何か入ってるね……紙?」

「そうみたいね」と、イリアが蓋を開ける。すると中には折りたたまれた紙が入っていた。四つ折りにされた紙を広げてイリアが驚く。

「何? これは……」

「何か書いてあるみたいだね」と、智世がイリアの手元を覗き込む。

 紙質を見る限りそれはB5ノートを千切り取ったとものと思われる。そしてそこには丸っこい手書き文字が並んでいる。

<はじめてのキャンプ。女の子だけで不安だったけど

 やればできるじゃん!海辺のバーベキューは、おに

 くがこげちゃったけど、食べれないわけじゃないし

 たまには外で食べるのも悪くない。食後はわたしの

 すきなカステラをデザートにしたかったけど残念!

 けっきょくパイナップルになっちゃったんだ。みぎ

 てにはケータイをずっと持ってたんだけどやっぱり

 ここには電波がきてないんだよね。マジありえない。

 ろく人の子が彼氏を地元においてきてたからホント

 さみしそうだよね。つらいよね。せめて声だけでも。

 れんらくできないならけいたいの意味ないじゃんか。

 るすでんだらけになってても困るよね。帰ってから。>

イリアが「変な文章……」と、首を捻る。

 智世も読み終わって不思議がる。

「日記みたいだね……でも誰が書いたんだろ?」

「さあ? でも何でこんなもの……」

 こんなメモをわざわざ小瓶に入れて海に流す目的が理解できない。それに文字列を無理やり長方形に整えたせいか、おかしな場所で改行している箇所がある。そこで智世がはっと何かに気付く。そして無言で手紙の文字を指でなぞる。

 それを見たイリアの目が見開く。

「これは!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ