第34話 激闘の末に
一歩、前に踏み出す際にイリアは軽く足首を回してみた。
思ったより可動域が大きい。これなら自由に動けそうだ。続いて肘当てに触れてみる。見た目は高価な陶器のように白くてスベスベしている。だが、異様に硬い質感を持っている。肩と膝のそれも丈夫なものに違いない。恐らく、望海が身に着けている防具もイリアと同じようなものだろう。肌の露出はお互い様だ。
イリアはハルバードを両手で持って足を開き気味に立ち、オープンに構える。大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。まずは防御だ。
真正面に立つ望海はジリジリと距離を詰めてくる。
―― どのタイミングで攻めてくるのか?
イリアは視線を逸らさない。そして望海の足元を注視している。
望海は挑発するような半笑いを浮かべながら双剣を『ハ』の字に構えている。
時折、水蒸気の噴き出す高音が周囲で生じた。溶岩流がもたらす熱とオレンジの明かりがイリアの白い肌を火照らせる。
先に望海が動いた!
望海はユラリと蜃気楼のように身体を揺らすと、急にスピードを上げてイリアの懐に突っ込んできた。その動きはまるで相手ディフェンスを翻弄する為にわざと緩い動きを見せるフェイントのようだった。
不意を突かれたイリアの反応が遅れる。
望海は右の剣を内側から外に払う。が、それはフェイントで、狙いは左の剣での突きだった。一発目をハルバードの柄で受けたイリアだったが、二発目の突きに反応できない。辛うじて姿勢を低くすることで肩口に剣先を当てる。
『ガキィン!』と金属音が響く。
ちょうど肩でタックルするように望海の剣を押し返した。
「ちっ!」と、望海は剣を引っ込め、半回転するといったん距離を取る。
イリアはここで望海が連続攻撃を仕掛けてくるとみてハルバードを身体の前で斜めに構えた。が、望海は数歩下がっていく。
それを見てイリアは左腕の痣をタップして鎖鎌を取り出した。そして遠心力を利用して重りを飛ばす。鎖が猛烈なスピードで望海の足元に伸びていく。
「フン!」と、望海は鎖の軌道を読み切って一歩下がる。ところが、交わしたはずの鎖が『クンッ』と一伸びして重りが望海の足にヒットした。が、巻き付くまでには至らない。
「痛っ!?」
目測を誤ったというよりは、まるで鎖が伸びたように見えた。
「なにコレ!?」と、望海が驚愕する。
すると今度は鎌の部分が飛んで来た。鎖を従えて飛来する鎌は、イリアが手元でひとしごきしたことで、途中で軌道が変わる。まるで蛇が飛び掛かってくるように鎌が迫ってきたことで望海は焦った。
「なっ!?」
望海は右の剣で鎌を受けようとする。が、スピードについていけず目測を誤った。
『ザクッ!』
「痛っ!」
完全に弾くことが出来なかった。直撃は免れたが手先を鎌に引っ掻けてしまった。そのせいで手の甲に切り傷が刻まれる。想定外の変則的な攻撃に望海は狼狽する。
続いてイリアはハンドガンを取り出していきなり発砲した。
『バン!』『バン!』と、立て続けに望海を狙う。
だが、精度は高くない。イリアの射撃は大きく外れてしまう。やはり片手では反動で弾が大きく逸れてしまうのだ。それでも望海の足を止めるには効果があった。
「くそっ!」と、望海はどちらの方向に動くか迷った。
続けてイリアが『バン!』『バン!』と、発砲する。先程よりはマシだが命中には程遠い。
望海は前に出て接近戦に持ち込むことも考えたが躊躇する。やはり飛び道具は怖い。
『バン!』と、5発目が放たれたところで望海が痣をタップする。
『バン!』と、6発目を撃ったイリアが標的を見失う。
「え!?」
望海の姿が消えた。が、イリアは慌てない。感覚を研ぎ澄ませる。と、そこに背後から大きな槍を持った望海が迫る。
その気配を察してイリアは振り返り、槍の先端が突進してくるのを交わした。そしてハルバードを半回転させてカウンターを狙う。
「うそっ!?」と、望海が仰け反る。
大きな槍は両手でなければ持てない。しかも直線的な動きの為、交わされると無防備になってしまう。そこを突かれた望海は槍を手放して超スピードでの回避を余儀なくされた。
すかさずイリアがハルバードの鉾先を突き出す。それを望海が横に避けたところに追い討ち気味に鉾先を振る。
望海は腕の防具でそれを弾く。
『ガチンッ!』と、火花が散るような衝突で望海の腕が痺れた。
望海は顔を歪めながら「やったな!」と、腰の痣をタップする。すると彼女の目の前に大きな剣が『ボフン』と出現した。望海は柄の部分を引っ手繰ると、それをイリアの立つ方向に押し出すように振り下した。
「くっそぉおお!」
突然、目の前に現れた大剣にイリアが目を見開く。
「うああああ!」と、イリアは風圧を受けながら夢中で横に転がった。
『ザンッ!』と、大剣の刃が地面に突き刺さる。
大剣の先端が抉った箇所から小石が跳ねる。その威力にイリアは恐怖した。
「くっ!」
イリアは素早く立ち上がりながらハルバードの先端を望海の方に向ける。
―― 届く!
そう思って突き刺した。が、望海は超スピードでそれを回避して、逆にイリアの脇腹に前蹴りを食らわせた。
「ぎゃっ!」と、イリアは訳も分からず尻もちをつく。まるで見えなかった。望海の動きの速さは尋常ではない。それが彼女の能力なのかもしれないと思って目を開けた時だった。
「終りよ」
至近距離で望海がショットガンを構えていた。彼女は乙葉の武器を奪っていたのだ。
目の前にあるショットガンの銃口。この距離では避けようが無いことを悟ってイリアは死を覚悟した。
* * *
いつの間にかモエは利恵と愛衣が根城にしていた家に辿りついていた。
どこをどう歩いたか記憶は無かった。ただ、一刻も早く血を洗い流したかった。そして着替えたかったのだ。
熱いシャワーを頭から被りながらモエは何度も首を振った。
「サイアクや……クソッ」
梢の顔面が裂けた瞬間の映像が目に焼き付いている。どんなに忘れようとしても払拭できるものではなかった。指先がふやけてしまうまでモエはシャワーを浴び続けた。そして、強烈な自己嫌悪に眠気が混じってくるのを自覚した。
重い足取りでシャワールームを出る。濡れる足元に気付いて、やれやれと首を振る。止む無くバスタオルを掴んで乱雑に身体を拭く。そして鏡に映った自らの裸体を見て目を見開いた。
「うそやろ……」
左胸の上、左の二の腕、肘、右の首筋、脇腹にひと目で分かる痣が出来ていた。あれだけ強く洗い流したのだから血ではない。無論、痛みも無いので打撲でもない。
「これって……やっぱ、そうなんか?」
モエは試しに左胸の痣を2回タップしてみた。ちょうど利恵がやっていたように。
すると『パヒュン!』と、破裂音がして続いて足元で『ゴトリ』と重い音がした。目を落とすとハンマーが床に転がっている。それは利恵が愛用していたものに違いない。
しばらく固まっていたモエはハンマーが消失するのを見守ってから大きなため息をついた。それは体内の活力が全部、漏れ出してしまいそうな長いため息だった。
「なんで4つも、ついとるんや……」
自らの身体に現れた痣。そこで所有権の移転について思いを馳せた。
利恵は自らの武器であるハンマーの他に和佳子のトライデントと玲実のグレネードランチャーを持っていた。その利恵を梢が殺した。彼女は電撃棒で利恵を感電死させた。ほぼ即死状態で。その梢を殺したのは自分だ。ということは、利恵の持っていたものが一時的に梢に移転し、最終的にそれが自分に回ってきたということになる。
「マジか……こんなもの……」
しかし、武器が移ったということは、それに附属する特殊能力も移転しているはずだ。
モエは思い出す。
「利恵の馬鹿力……和佳子の投げる力……玲実のは何やったっけ?」
そこで利恵が望海と対峙した時のやり取りを脳内補完しながら再生する。
「治癒? 回復? なんかそんな話やったはず……」
利恵は望海に撃たれた箇所を手の平を当てて治していた。
しかし、梢の能力が定かではない。ただ、最初にヘレンの隠れ家を急襲した時に梢が危険を察知して攻撃を回避したことを考えると、危機回避能力が彼女の特殊能力ではないかと推測される。
「そんな力、要らんのに……」
モエは吐き捨てるようにそう呟くと裸のままリビングに移動した。自分のものを含めて荷物は一箇所に集めていたからだ。
ソファには利恵と愛衣の荷物が放置されていた。どちらが利恵の物かは一目瞭然だった。几帳面な利恵は服にシワがつかないように着替えをすべてバッグから出して、まるで売り物にしているみたいに綺麗に畳んだ状態で重ねている。一方の愛衣は姉御肌らしく大ざっぱに服を脱ぎ捨てている。
「手帳か……」
ふと、モエはそこに放置されている黒い手帳を手に取った。なぜそうしてみようと思ったのか自分でも分からなかった。ただ、何となく見てみようと思いついたのだ。
「なんか全然、可愛い無いなあ」
黒革の手帳はビジネスマンが使うようなありふれた物だった。なぜ、そんな可愛くないものを持っているのか不思議に思った。
何気なくページを開いてみてモエは唸った。
「うっ……なんや、これ?」
真ん中辺りのページに細い鉛筆が挟まれている。そこで最初に目に入った文字を口にする。
「松、晴子……はれこ。なんでこの子だけ?」
ぽつんと一番上に記された『松晴子』という名前の下にはズラリと女の名前が並んでいる。その右側には見たことも無いような文字というか記号が細かく記入されている。どうやら何かのリストのようだ。
「誰や、こいつら? けど……」
リストに並ぶ名前には軒並みバツ印がついている。ひとつだけバツがついていない名前がある。
「宮川のりこ……この子だけバツがついてないな」
モエは首を捻りながらページをめくった。そして次のページを見て「うっ!」と、絶句する。なぜなら、見覚えのある名前がそこに記されていたからだ。
『藤川 イリア
花村 きりこ
加賀見 のぞみ
加賀見 こずえ
関田 りえ
竹野 しおり(バツ印)
森 おとは
石原 ともよ(バツ印)
一之瀬 めい
渡部 わかこ(バツ印)
大江 れみ(バツ印)
鈴木 ののか(バツ印)
山上 モエ
二宮 としみ
ダグラス ヘレン(バツ印)』
フルネームで書かれているので一瞬、何の集団か分からなかった。だが、下の名前の並びを見て、それが自分達のことだと理解した。
「こっちも名前のとこにバッテンがしてあるな……あれ? けど、なんで名前が平仮名なんやろ?」
それともうひとつ。おかしなことに気が付いた。
「なんでこの子にバツが付いてないんや? いや待てよ? もし、これを愛衣が書いたんやとしたら……」
ある疑念が過った。と、同時にこの並んだ名前を見て、モエの背筋が凍った。
「ど、どういう意味や!?」
モエは平仮名で書かれた名前の頭文字を指でなぞった。
「イ、き、の、こ、り、し、お、と、め、わ、れ、の、も、と、ヘ」
何か重要な意味があるような気がして胸騒ぎがした。
前のページもめくってみる。そして、同じように名前の頭文字を拾っていくと……
「いきのこりしおとめ、われのもとへ……同じや!?」
まるで、言葉遊びのクイズを解くようにモエは頭の中で単語を変換する。
「生き残りし乙女、われのもとへ」
そう解釈した時、モエは強烈な震えに卒倒しそうになった。
* * *
まさに決定的な一撃を放とうとした望海の動きが止まった。
ショットガンの引き金を引こうとした指先がピクリとも動かない。
「うぐっ……なんで!?」
望海は金縛りにあったように意識と身体が寸断されている。意識はクリアなのに身体のコントロールが失われている。
望海は、尻もちを着いたイリアを見て気付いた。
「何……その目?」
イリアの赤い目を見て望海は思考を巡らせた。恐らく、この金縛りはあの赤い目による能力なのだろう。
一度は死を覚悟したイリアだったが、間一髪、智世から受け継いだ赤い目で望海の攻撃を封じ込めたのだ。
「く……この……」と、呻く望海の手元で『ボフン!』とショットガンが消失した。
それからワンテンポ置いてイリアの目が通常の色に戻る。そこで望海の身体が動く。
赤い目による金縛りが解けた望海がバックステップで距離を取る。
「くっ! な、何なのよ!!」
望海はイリアを睨みつけながら状況を整理する。
「くそっ! 13秒ルールか……」
その独り言はイリアの耳にも届いた。
「13秒ルール?」
イリアはその意味を考える。そういえば痣をタップして出した武器は数秒で消えてしまう。もしかしたら、その時間が13秒なのかもしれない。それと赤い目の能力。これも効果が持続するのが同じくらいだと思われる。だが、すべての能力が13秒も持続するとは思えなかった。
イリアが考え込む様子を見て望海が鼻で笑う。
「フン。今頃気付いたの? 13秒。または1.3秒。瞬発系の能力は短いのよ」
―― 13という数字。それが色々なところでキーになっている?
イリアは記憶を辿りながら立ち上がる。そして試しに左腕の痣をタップして鎌を取り出す。
「えいっ!」
今度は鎌の部分を投げた。望海は余裕の表情で難なくそれを交わす。
「甘いね。動けない間に攻撃してくれば良かったのに」
確かに先ほどの金縛りの状態でその攻撃を受けていたら交わすことが出来なかったろう。望海の挑発にイリアは「くっ!」と、悔しげな表情を見せる。そして目に意識を集中した。だが、赤い目には変化しない。望海の動きが止まらないところを見ると、効いていないのは明らかだ。
望海は高らかに宣言する。
「もう、その手は食わないわよ」
そう言って彼女はフッと姿を消した。そしてイリアの背後に瞬間移動すると、槍による突進を繰り出した。それは野生のサイが角で攻撃してくるような迫力があった。ただ、直線的な攻撃になってしまう。それは望海も分かっている。
望海の『ザッ!』という足音に反応してイリアは横っ飛びに避ける。イリアの反射神経は相当なものだ。だが、望海は攻撃を交わされても慌てない。すぐさまショットガンを取り出し、至近距離でイリアの背中を狙う。
「今度は後ろからよ!」
望海は目を見なければ良いのではないかと推察していた。先程は正面から撃とうとして動きを止められてしまった。だから今度は後ろから撃とうと考えたのだ。
『バン!』
ショットガンが放たれる。イリアは右に避ける。この距離で避けきれるはずがない。しかし、散弾は一発も当らない。むしろ彼女の身体の近くで弾が跳ねたように見えた。
望海が驚愕する。
「まさか無敵? バリアなの!?」
まるで見えない結界が張られているかのような現象に望海の目論見が外れた。
そこでイリアが振り返って顔をこちらに向けてくる。
「まずい!」と、望海は目を合わせないように顔を背けて走り出す。幸い、その動きを止められることは無かった。ということはやはり、目を合わせてしまうと金縛りに遭ってしまうのだ。
望海は逃げながら考える。イリアのバリア効果が持つのは『13秒間』か『1.3秒』のどちらか? もし、望海の超スピードのように持続効果が1.3秒なら先にバリアを消費させればいい。もう一度それを発動させるのに必要なインタバルの13秒の間に畳み掛けることができる。だが、バリアの効果持続が13秒だったら? 攻撃の手数が足りなくなる恐れがある。それに厄介なのが赤い目の金縛りだ。
「必ず隙が出来るはず……」
望海はそう自分に言い聞かせて頭の中で攻撃を組み立てる。彼女はトランプゲームでフィニッシュまでの手順を描いて勝負するタイプだ。それに対してイリアは直感で動いている。望海はイリアの武器と能力、それに対する自分の武器と能力を比較しながら短時間でシミュレートする。そして仕掛けることにした。
望海はライフル銃を取り出すと「うぉおお!」と前進しながら狙いを定めて撃った。
『バン!』
次の瞬間、イリアの身体の近辺でライフルの弾が弾かれるのが望海の目に入った。
「ここでバリア……」
望海はイリアの顔を見ないように走って距離を詰める。
イリアはハルバードを構えて迎撃態勢を取る。
「今だ!」と、望海が瞬間移動する。
イリアは望海が消えたのを確認して直ぐに身体を反転させて背後を警戒する。
『ザッ!』という音がイリアの左方向で発生した。それに反応したイリアが音のした方向に顔を向ける。
「あっ!?」と、イリアが目を見開く。
なぜなら、望海が来ると思われた方向には大剣しか無かったからだ。今の音は大剣が自身の重みで倒れた時に発した音だったのだ。
「しまっ……」
イリアが反対方向に向き直ろうとした時、影が視界に覆いかぶさってきた。
望海はイリアを双剣の射程内に捕えて「もらった!」と、左の剣をイリアの首筋に振り下した。
「ぎゃっ!」
イリアの悲鳴と望海の剣が振り切られる音が重なった。
「なに!?」
完全に捉えたと思った剣の手応えが違う。慌てて右手の剣を掬い上げて脇腹を狙うが、それも当った手応えはあるが随分と鈍い。思っていたのと異なる手応えに望海は戸惑い、手元を見て絶句した。
「なっ……」
それもそのはず、望海の双剣は右も左もグニャリと大きく曲がっていたからだ。まるで作りかけのガラス細工が高熱で垂れ落ちそうになる時のように剣が曲がっている。
それはイリアが詩織から受け継いだ能力。触れた物質を変形させる力だった。それが望海の双剣を曲げてしまったのだ。
予想外の出来事に望海は次の手順を出すことが出来ない。
「ああああっ!」と、イリアが望海を睨む。
イリアの赤い目を見てしまった望海が「ぐっ!」と、金縛りに遭ってしまう。
遅かった! せめて痣をタップして瞬間移動を発動させていれば回避できていたかもしれない。だが、最悪なポジションで望海は動きを封じられてしまった。これは絶望的な距離だ。
イリアは歯を食いしばってハルバードを振り上げる。そして、先端の斧を叩きつける!
その瞬間、目を閉じてしまった。
無我夢中で振り下したそれは『バキャッ!』という嫌な音を発して致命的なダメージを与えたことを告げた。
飛沫が顔面に降りかかってきた。その液体は生暖かくて粘り気がある。それが何であるのかは目を閉じていても分かる。
『ドサッ』と、望海が倒れた。
恐る恐る目を開けてイリアは脱力する。
「何で……どうして?」
目の前では望海が髪を拡げて息絶えていた。うつ伏せになった彼女の頭からは大量の血が流れ出ている。鮮血は蟻の群れのようにジワジワと岩板を浸食していく。それはイリアのつま先を浸し、行き場を失くしたものは割れ目から顔を覗かせるオレンジ色のマグマによって『ジュッ!』と灰にされてしまう。
激しい戦いが終わり、冷静になったイリアは自問する。
「……何でこんなことに?」
瞳から零れた涙が頬を伝い、赤と混じり合った。頬だけではない。肩口、へそ周りにも大量の返り血が付着している。
イリアは智世の言葉を思い出した。
『逃げ道を選ぶのは悪い事じゃない。でもそれに抗うことを止めてしまったら行きつく先はドン底しかない』
ぎゅっと目を閉じてその意味を噛みしめる。右腕が熱を帯びてきた。
「熱っ!」
イリアの白い肌に紋章のような痣が浮かび上がる。それは青白い炎のような輝きを発し、やがてイリアの全身を青白い光で包んだ。すると身に着けた鎧の表面が一斉に沸騰したようにボコボコと変形し始めた。
「イヤァァァァ!!」
そして、目の前が真っ暗になった。薄れゆく意識の中でこの島で起こった惨劇がフラッシュバックする。
―― 悪夢だ。
そうとしか考えられない。それは、この島に来た時から始まっていた。高熱に身を蝕まれながらイリアはふっと力を抜いた。もう、何も考えたくなかったのだ。




