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第3話 ここは異世界?

 ようやく頂上が見えてきた。振り返れば登ってきた道がジグザグに折り返している。右手には砂浜から民宿街、港までを一望することができる。汗ばむ陽気に慣れない山登りで少女達は汗だくになりながら山頂付近を歩く。

 利恵が額の汗を拭いながら先頭を進む桐子を気遣う。

「桐子さん。傷は痛まない?」

 桐子は後頭部を擦りながら呑気に答える。

「しつこいなあ。ホントに大丈夫だって。『たんこぶ』すら無いってば」

 息を切らせたヘレンが胸元に風を送りながら呆れる。

「アンビリーバブル……信じられないタフさだわね」

「そんなことないよ。超ラッキーだったんだって!」

 桐子はそう言うが20メートル近く滑落して無傷というのは幸運では済まされない。

 二番手を歩く利恵が皆を励ます。

「もうちょっとで頂上よ。みんな、頑張って」

 それは自分自身を鼓舞しているようだ。利恵は歯を食いしばって歩く。ふらつく足元。そしてようやく頂上らしき平らな場所に到達した。

「やった! 着いたぜ!」と、桐子がガッツポーズを見せる。

「やっと着いた……」

 続いて到達した利恵のブラウスは汗でびっしょりだ。そのせいでピンクの下着が透けて見える。普段着用しているオフホワイトのカーディガンは腰に巻かれている。

「YES……」と、ヘレンは頬を紅潮させながら安堵する。

 遅れてきたぽっちゃり和佳子は疲れ果てて朦朧としている。それを愛衣が姉御らしく後ろから支えている。愛衣は叱咤激励しながら和佳子をここまで押し上げてきたのだ。

 これで5人が山頂に揃った。そこに一陣の風が流れてきた。風には雪が混じっている。

 桐子がブルっと震える。

「寒っ!」

 頂上から見下ろす光景を前に少女達は言葉を失った。なぜならそこは一面の銀世界だったからだ。分厚い雲は灰色。吹雪で遠くまでは見渡せない。手前に森が見えるが雪で白く染まっている。

 登ってきた方向を振り返って利恵が呟く。

「あり得ない……もうすぐ夏なのに」

「うそ……でしょ?」と、ぽっちゃり和佳子も呆然としている。

「……マイゴッド」と、ヘレンは信じられないといったように首を振る。

 桐子は背後に広がる新緑と目前の銀世界を見比べて首を傾げる。

「どうなってんだ? 季節が逆になってんのか?」

「凄い……けど不思議」と、和佳子は感心している。

 そこで愛衣がある方向を指差す。

「ほら、あそこ。あそこが境目になっているみたいね」」

 愛衣が示した方向には緑と白で区切られる斜面が見えた。ちょうど境界線を境に雪山と夏山に分断される形になっている。

 利恵が強張った顔で言う。

「つまり……あそこを境に夏と冬が分かれてるってこと?」

「どう考えても日本じゃない」と、ヘレンが首を振る。

 利恵が眼鏡に触れながら断言する。

「いいえ、世界中探してもこんな所は無いわ」

 桐子がボソッと呟く。

「異世界……」

 その言葉にヘレンと和佳子が驚く。

 桐子はツインテールの毛先を指先で揉みながら言う。

「ボク達、きっと異世界に紛れ込んじゃったんだよ……」

 そんな桐子の顔を利恵と愛衣も黙って見つめる。

 山を隔てて真逆な季節が隣接する場所。確かにその光景は現実には有り得ないものだった……。


   *   *   *


 モエ、乙葉、野乃花、詩織の4人は湿地帯を超えてさらにその先の森に入った。

 港と湿地帯を繋いでいた先ほどの森とは対照的に、この森は木々が低く、やけに枝葉が入り組んでいて幾つかの層を形成していた。たまに露出した幹には毛細血管のようにツルがまとわりつき、所々でほどけた包帯のように垂れ下がっている。赤茶けた地面は湿気を帯びているが雑草は少ない。その代りにシダ科の植物が葉を広げて自らの存在を誇示している。

 関西ジャージ娘のモエが先頭に立って奥に進む。

「ここを抜けんと先に進めへんみたいやね」

 モエに続く詩織が足元を気にしながら希望的観測を述べる。

「こ、今度こそ町か道路があればいいんだけどなぁ」

 熱帯雨林のような森を黙々と進む。周辺植物の特徴は明らかに亜熱帯のものだ。

 モエはジャージの上着を脱いで腰に巻く。ピンクのTシャツには汗が染みている。

「にしても蒸し暑いなあ。植物園の温室みたいや」

「ジャ、ジャングルみたいだね」と、詩織が頷く。

 詩織に数歩遅れて歩く乙葉はうつむき加減で元気がない。その後姿を心配そうな顔で野乃花が見ている。野乃花は少し考える素振りをみせ、何か思い立ったようにトットッと駆け寄って背後から話しかける。

「ネ? 乙葉ちゃん。大丈夫?」

「え?」と、乙葉が無表情で振り返る。

「さっきから元気ないヨ。疲れたの?」

 野乃花の問いに乙葉は作り笑いで応える。

「あ、ちょっと……ね」

 乙葉の前を行く詩織が振り返って何か口にしようとするが言葉を飲みこむ。詩織は詩織で乙葉の変化に気付いていたのだ。

 先頭を歩いていたモエが倒れた朽木をまたぐ。そこで何かに気付く。

「あれ? あれって、もしや?」

 モエは急にケモノ道を外れて走り出した。

「ど、どうしたの急に?」という詩織の問いに足を止めることなく、モエは一目散に駆けていく。詩織は戸惑いながらそれを追い掛け、野乃花は乙葉の手を引きながら付いていく。

 しばらく走ったところで詩織はモエに追いついた。そして立ち止まっているモエに声を掛ける。

「ど、どうしたの? きゅ、急に走り出したりして……」

 そう言って詩織がモエの足元を見る。そこには真新しい白い十字架があった。しかも、そこには『MOE』と刻まれている。

「あっ……」と、詩織は察した。

 墓標代わりの十字架。さらにそこには戦斧(斧と細長い剣が一体化した武器)が立て掛けられている。

 それを黙って眺めていたモエが引きつった笑いを浮かべる。

「なんやねん……」

 詩織が何とも言えない表情で十字架とモエを見比べる。

「さ、さっきと同じ……」

 そこに遅れて野乃花と乙葉が到着する。直ぐに十字架の存在に気付いた野乃花が「ヒッ! またぁ!?」と、小さな悲鳴をあげる。そしてマジマジと戦斧と十字架を見る。

「こんな所にもあったのネ」

 昨日、自分の墓標を見てしまった乙葉は特に驚いた風では無い。が、複雑な表情でモエのリアクションを観察している。

 モエはやれやれと首を振り、銀色の戦斧を手にする。斧の部分だけでA3用紙ぐらいの大きさがあり、剣の部分が30センチ超はあろうかという物騒な代物だ。刃と柄の接合部分付近には宮殿の模様のような装飾が施されている。

 モエはそれを片手でブンブンと振り回した。そして持ってみろという風に詩織に手渡そうとする。「え、え?」と、詩織が恐る恐るそれを受け取ろうとする。だが、両手でも受け止められずに「重いっ!!」と、落としてしまった。

 野乃花が「やっぱりネ」と、首を振った。そして墓標の『MOE』という文字を指でなぞって言う。

「それってモエちゃん専用の武器なんだヨ」

 詩織が頭を抱えて首を振る。

「ぶ、武器? な、なん、何のためなの? さっきの棍棒とか斧とか……」

 しかし当の本人は戦斧を片手に納得する。

「そういうことね。けど、まさか、これで戦えっていうことなんかな?」

 その言葉に乙葉がぎょっとする。

 詩織は精神が蝕まれる時のような虚ろな目で震えだす。

「た、た、戦うって……な、なにと?」

「分からへん。けど、誰かが仕込んどるとしか考えられへん」

 モエの言葉を受けて野乃花が冗談ぽく言う。

「アハ。じゃあ、どこかに私の十字架もあるのかナァ?」

「あるやろね。たぶん、ウチらの人数分」

 モエの返答に野乃花の顔が強張る。詩織はペタンと座り込んで茫然としている。乙葉は何かを考えているような難しい顔で無言を貫く。

 その時、4人の背後で茂みがザッと揺れた。そして何かが飛び出してくる。

 一斉に振り返る4人。最初に「ヒッ!!」と、野乃花が腰を抜かした。次に詩織が悲鳴をあげる。モエと乙葉も突然現れた物体を見て硬直した。

 そこには鎌首をもたげたキングコブラのような巨大なヘビの姿があった。その高さは大人2人分の高さで、色は白く赤い縞模様が生々しい。おまけに頭部には角のようなものが生えている。

「に、に、逃げなきゃ……」と、詩織が這いずりながら逃げようとする。

 同じく退避しようとする野乃花は電池が切れかけのロボットのように動きがコマ送りになってしまう。そんな中で尻もちをついた乙葉が逃げ遅れてしまった。

「あ……嫌……」と、乙葉が大蛇と一対一の形になる。

 その構図はテーマパークのアトラクションのようにも見える。人間すら丸呑みに出来そうな巨大なヘビは作り物のような質感で非現実的な存在のように感じられた。しかし、その動きや気配は決して人造的なものではない。巨大コブラは首の部分を広げて威嚇してくる。さらに舌をチロチロみせながら今にも乙葉に飛びかかろうとしている。

 恐怖で顔を引きつらせる乙葉に巨大コブラの影が覆いかぶさる。

「やめて……」

 咄嗟にモエが巨大コブラに向かってダッシュし、途中で戦斧を拾い上げる。そしてそのままの勢いで力強く地面を蹴る。その時、モエの膝下が光を放った。

「うりゃぁぁ!!」

 高くジャンプして勢いよく戦斧を突き出すモエ。

 戦斧の剣になっている先端が巨大コブラの首に突き刺さる。

 モエは素早く先端部分を抜いて空中で1回転し、今度は遠心力を利して斧の部分をコブラの頭に叩き込んだ!


   *   *   *


『山海荘』のロビーで玲実は無理に笑った。

「ド、ドラゴンとか……超ウケる」

 智世のスケッチブックに描かれたドラゴンを見ながら望海がゲンナリする。

「バカバカしい。けど、まさか……ね」

 梢が少しビビリながら智世を責める。

「なんでそんな嘘つくの? そんなに気を引きたいワケ?」

 智世は涙を浮かべて首をブンブン振る。

 望海は智世の反応にイラつく。

「アンタ暗すぎ! てか、全然喋んないし!」

 そして手にしていたスケッチブックを投げつけようとした。そこにイリアの手が伸びてきて望海の手からスケッチブックを奪う。望海が驚いてイリアを見る。梢と玲実もイリアの行動に驚く。

 イリアは無言でドラゴンの絵と智世の顔を見比べて呟いた。

「……私は信じる」

 その一言に玲実が腕組みしながら呆れる。

「は? バッカじゃないの?」

「そうだよ。単なる見間違いだよ!」と、望海が口を尖らせる。

 イリアはそれを無視して智世の顔をチラっと見る。

「瞬間記憶だったわよね。それなら信憑性はある」

 イリアの態度に玲実が切れそうになる。

「あのさ。映画とか漫画じゃないんだよ? ドラゴン? そんなものある訳ないじゃん!」

 しかし、イリアはスケッチブックのドラゴンを見つめながら言う。

「この子の能力の方が信頼できる。あなた達の思い込みなんかより」

 それを聞いて望海と梢がムっとする。

 玲実はイリアを睨みつけながら吐き捨てる。

「頭おかしいんじゃないの?」

 それに対してイリアは冷たい目で玲実を見る。

「普通じゃない。ここは……」

「はあ?」と、変な顔をする玲実。

 イリアは冷静に続ける。

「何も感じないの? あなた達も薄々分かってるんじゃない?」

 イリアの問いに望海が「え!?」と、表情を変える。梢は「う……」と、絶句する。玲実は反論出来ずに唇を噛んでそっぽ向く。

 イリアは背筋を伸ばした凛々しい立ち姿で言う。

「目の前の現実を受け入れるしかないじゃない」

 玲実達はイリアに圧倒されて言葉を失った。


   *   *   *


 山道を下りながらスマホを操作していた利恵が呟く。

「これ見たら皆、なんて言うかな……」

 スマホの画面には雪景色を背景にしたヘレンと和佳子の写真、山頂から見下ろした雪景色等が納まっている。中には自撮りした集合写真もあるが愛衣は映っていない。

 利恵の後ろを歩いていた桐子がきっぱりと言い切る。

「だから異世界なんだって。そう考えれば説明はつくよ」

 和佳子は不安そうな顔つきで頷く。

「だね。非現実的だとは思うけど……あんな物をみちゃうとね」

 最後尾を歩いていたヘレンは考え事をしている。そして何かを決心したように頷く。

「私、ライフルを持って行く」

 ヘレンの言葉に利恵が振り返った。

「ちょ、ちょっと……止めなよ」

 しかし、ヘレンは大きくかぶりを振る。

「やっぱりここは普通じゃない。変な生き物も居るみたいだし」

 そう言いながらヘレンは桐子を崖下に突き飛ばした生物の後姿を思い出した。

 桐子は大きな目をクリクリさせながら言う。

「それは賢明な選択だね。どんな化け物が出てくるか分からないからね」

 ヘレンは敏美の死体を思い出す。そして力強く宣言する。

「自分の命は自分で守る!」

 利恵はヘレンに思い留まって欲しそうに「だけど」と、振り返る。だが、ヘレンの決意は揺るがない。

「当たり前の事だわ。私はアメリカ人よ」

 そこで愛衣が冷静に同意する。

「それがいいかもね」

 それを聞いて和佳子と利恵が困ったような顔をする。

 何とも言えない空気の中、しばらく無言で山道を下った。途中、別な方向へ下る道があった。いったんそこで立ち止まり、愛衣が考え事をする。このまま真っ直ぐ下りれば来た時の道、その反対を選べば港方面に向かって下っていけそうだ。それにそちらの方が勾配は緩やかなようだ。

 愛衣が港方面への下りを指差して提案する。

「私達はこっちを下りてみるわ。ヘレンは一人で大丈夫?」

 ヘレンが頷く。

「ええ。私は来た道を戻るだけだから」

「そう。じゃあ気をつけてね」と、愛衣が手を挙げてそこでヘレンと別れることにした。


   *   *   *


 巨大コブラの返り血を浴びたモエは肩で息をしている。そして手にした戦斧をチラリと見る。その表情は険しい。彼女の目前には頭を割られたコブラが倒れている。つい先ほどまで激しくうねっていた胴体も流石に動きを止めた。

 尻もちをついたままの乙葉が泣きながら礼を言う。

「あ、ありがと……助かった」

 驚きの表情で事の成り行きを見守っていた野乃花が呟く。

「モエちゃん凄いヨ……」

 詩織は信じられないといった表情でモエを見つめる。

「あ、あ、あんなのに……よく向かってったよね。わ、私には無理……」

 モエは頬の返り血を腕で拭いながらフゥと吐息を漏らす。

「無我夢中やったから。自分でも信じられへん」

 そう言ってモエは手にしていた戦斧を改めて見る。そして思い出す。

(これを持った時の感覚……)

 そう思いながらモエは、まるで嫌な記憶を振り払うようにブンブンと頭を振った。

 野乃花が乙葉に近寄って手を差し出す。おへそが出てしまった乙葉が野乃花の手を借りて立ち上がろうとする。が、自らの下腹部に広がる温もりと湿気に気付いて小さく悲鳴をあげる。それに気づいた野乃花が「しょうがないヨ」と慰める。

「うぅ……」と、乙葉が内股になりながら顔を赤らめる。

 失禁してしまった乙葉を気遣うように詩織が話題を変える。

「そ、そ、それにしても凄いジャンプだったよね~」

 詩織に指摘されてはっとするモエ。モエは自分の足元を見て地面を蹴った時のことを回想した。これまで体験したことが無いような加速力と浮遊感。それは走り幅跳に似た感覚だ。だがそれは明らかにモエの身体能力を超えていたように思われた。

 詩織がなおも明るく努める。

「な、なんか、その、オリンピックみたいだったよ。走り幅跳びの選手みたい」

 それを聞いてモエは首を振る。

「違う。自分の力やない。あれは……」

 野乃花は乙葉の肩を抱いて「ヨシヨシ」と、頭を撫でている。野乃花は乙葉の泣き顔につられて泣きそうになりながら提案する。

「ネ、今日はもう帰ろ? これ以上は無理だヨ……」

「そ、そだね。く、暗くなる前にいったん引き返しましょ」と、詩織もそれに合わせる。

 結局、これ以上先に進むのは困難とみて4人は皆の所に戻ることにした。


 日が傾いた湿地帯をトボトボ歩く4人は精神的にも肉体的にもボロボロだった。

 先頭を歩く詩織の足取りは重く、寄り添いあう乙葉と野乃花は二人三脚のようにぎこちなく歩いた。最後尾のモエは戦斧を右手に夢遊病者のような歩き方で付いてくる。

 詩織が西日に目を向けながら独り言のように呟く。

「よ、夜になる前に帰らないと……」

 野乃花がグッタリとした表情で弱音を吐く。

「もうヤダ……マジで疲れたヨ。皆はどうしてるのかなァ?」

「と、登山組に成果があれば良いんだけど」

「そだネ」

「そ、それにしてもサボリ組は最悪!」

 珍しく詩織がはっきりとした口調でそう言ったので野乃花と乙葉が顔を見合わせる。

 野乃花は「そうだヨ」と、足元の草を蹴飛ばす。

「アタシ達がこんな目に合ってるのにネ。ふざけんな!」

 乙葉は仕方がないよといった風に力なく笑う。

「まあ、気持ちはわかるけど……ああいう子もいるよ」

 夕日が4人の影を長く引き伸ばす。

 モエは前を行く3人のやりとりにも耳を貸さず無表情でトボトボ歩いている。と、その時、モエの右腕が『ビシッ!』と弾かれた。「痛っ!!」と、戦斧を手放すモエ。地面に落下する戦斧。

 山の方向で『パァン……』という銃声が跡を引く。

「え、え、え!? な、何!?」と、詩織が銃声のした方向とモエを交互に見る。

 野乃花がモエの腕を見て悲鳴をあげる。

「チョット! 大丈夫!?」

 乙葉がモエの二の腕に血痕を認めて驚愕する。

「今のは……撃たれた?」

 モエは左手で傷口を押さえる。そして銃声のした方向を睨む。

「……狙撃!?」と、乙葉も同じ方向を見る。

 2人が見る方向には山と森しかない。

「みんな隠れて!」と、乙葉が叫ぶ。

「隠れるトコなんて無いヨ!」と、野乃花が慌てる。周囲は膝丈程度の雑草が点在するだけの湿地帯だ。狙撃を避けようにも身を隠す術は無い。だが、幸いにも次の攻撃は無かった。

「傷口が熱い……」と、モエが呻く。

 詩織が頭を抱える。

「だ、だ、誰がこんなこと!?」

 野乃花と乙葉が無意識に抱き合う。

 痛みに耐えながらモエは怒りの表情で山の方向を見つめる。

「誰や……」

 同じく山を見た乙葉の脳裏には矢倉で見た『殺ス!!』『あと3人』の落書きがフラッシュバックした。

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